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〈JAZZ お茶の間ヴューイング〉秋元 修プレヴュー:lost in double music 二重の音楽にさまよう。(高見一樹)【2020.6 146】

■この記事は…
2020年6月20日発刊のintoxicate 146〈お茶の間ヴューイング〉に掲載された秋元 修インタビュー記事です。

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intoxicate 146


秋元修a


lost in double music 二重の音楽にさまよう。

text:高見一樹

 秋元修はアルバム『差異/ 現在地』、『相違/ 現在地』のリリースによって、いよいよ不思議の人となった。彼がドラマーであることはもはや周知の事実だろう。HPのプロフィールにあるように菊地成孔のいくつものプロジェクトに参加している。中でも2016年以降、彼が加わったDC/PRGはアシンメトリックなグルーヴを自在に生成するマシンと化して、まるで異物を誤飲してしまったかのように彼の参加によってアンサンブルはそのサウンドの表情を一変させたのだ。


 その同じ人がポリリズムに凝るあまり、aikoの《カブトムシ》(4/4) を7/4(2 拍7 連)で叩く動画を上げるドラマーだということ、変拍子というよりは、差異拍子の病とでもいうのだろうか、普通のドラマーなら罹ることのない奇病に取り憑かれて36平均律という音律を考案して挙句の果てに、三台のキーボードによるその実演動画を上げている人でもあるということを、このアルバムを機会に初めて知った。因みにこの36平均律は12平均律の細分化、一半音をさらに1/3に分けるというもの。動画では3台のキーボードを中央に通常の平均律に整えたもの、上下にそれぞれ、+(プラス)と−(マイナス)方向に33セントずらしたキーボードを配置して演奏する。この簡易ミクロフォニーインスルメントをあのハリー・パーチが見たらなんというだろう。こうした音律の細分化は、音楽に鈍化・軟化をもたらしているような印象を受ける。他方律動の細分化は逆の印象、つまり密度がまして加速したかのような印象を受ける。菊地のアフロポリにおける4:3、あるいは5:4などは同じパルス軸に従いながらもテンポのギアが変わるような印象を受けるのと同じ感覚だ。


 しかしアルバムの音楽たちは、こうした細部への彼の猟奇的なこだわりをそのセンチメンタルな表情の背景に隠してしまう。動画サイトにあがっている楽曲《GPS》のMV の映像や言葉、メロディは背後のドラムのグルーブの上述のような大きな、小さなギアの変化を曖昧に、調和的に絡めとる。菊地とジャズ・ドミュニスターズを主催する大谷能生が〈谷王〉として参加し、両アルバムの随所で声/ 言葉/ ライムを被せる。そしてそこでもコラージュされているのは音楽なのか、〈谷王〉なのだろうかが曖昧に聞こえる。この二枚のアルバムはその構成においても固有の曖昧さを騙し絵のようにしこんでいる。うっかりするとどちらのアルバムを聴いているのがわからなくなるのではないだろうか。差異と相違、と現在地。曖昧さ、ポリリズムの錯視効果だろうか。この音楽たちは今どこにいるのかを見失うための罠かもしれない。


秋元修j1

秋元修j2

〈CD〉
『相違/現在地 【Difference/Location】』

秋元修(ds)掘京太郎(tp)福田雄也(g)國武晏吏(g, electonics,
mixing)谷王a.k.a.大谷能生(microphone controller, CDJ)emho(i vo)古木佳祐(b)A/scen-sion(vo, microphonecontroller)メイピー家無(microphone controller)Siri(reading)水谷浩章(b)入江陽(microphone controller)
[Uplift Jazz Records UJRF-20015]


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