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【ヴォイテク・マゾレフスキ】ロングインタヴュー:ポーランド・ジャズの旗手的好漢ベーシスト、パンデミック後に広がった活動や音楽観を語る


©Greg Adam

ポーランド・ジャズの旗手的好漢ベーシスト、パンデミック後に広がった活動や音楽観を語る

interview & text:佐藤英輔

 人差し指から小指にかけて指の背に、左右それぞれ“PUNK”と”JAZZ“という文字を彫っている。それは<自分自身であれ、自分の道を行けという思想>と、<自由を自分のなかに見つけるという精神>を意味するという。かような制作指針を実直に取り、ワールドワイドに活動をしているポーランド人ジャズ・ベーシストがヴォイテク・マゾレフスキだ。
 1976 年グダニスク生まれの彼は10歳から社会的なプロテスト運動に身を投じており、彼が14歳のときにポーランドは民主化された。同年にヴォイテクはクラシックの音楽学校に入学し、コントラバスを専攻。そこでジャズと出会い、様々な興味とジャズを重ねた活動を彼は鋭意求めてきた。そして2011年にヴォイテク・マゾレフスキ・クインテットを結成、それは彼の漢気あふれる活動の柱になっている。この11月に単身来日した彼に、その現況を聞いた。なお、写真はその来日時に彼が日本人ミュージシャンたちと行ったライヴ時に撮影されたものだ。

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――日本に来るのは、4年ぶりになりますよね。パンデミックの間、どういうことをしたのですか?
「はー(と、ため息)。ずっと家にいた。それはみんなと同じだけど。パンデミックに入り家にいることを強いられ、本当にいろいろなことを考えたよね。それで家でギターを弾くようにもなって、すうっと心が開いていく感覚を覚えた。パンデミックに入って感じていた焦燥を乗り越え、精神的に悟ったような感じを得た」

――なんか禅の境地ですね。
「(笑)。静かな場所が必要だったのかもしれない。ずっと20年間もツアーをし、他のミュージシャンや観衆とエネルギーを交換していたからね。家で一人ギターを弾いていたときに、ギターを介して自分の意見や感情を表出することができると感じた」

――それで、曲はたくさんできました?
「(ヴォイテク・マゾレスキ名義で出した)『Yugen』(2021年)というアルバムがその結果だね」

――そのアルバムでは、いろんな楽器をやっているんですよね。
「メインはギター、そして朗読と歌。あと、ベースを部分的に弾いたり、パーカッションも。うん、今すごいパーカッションも好きだな」

――そして、同2弾たる『Yugen 2 -Jestem』(2023年)ももうリリースされているじゃないですか。
「『Yugen 2 -Jestem』は新たにスタジオに入って録音した。過去の曲は全部引き出しに入れ、Yugenのツアーで得たインスピレーションが元になっている。ツアーをして、今はできるだけ分かりやすく、観客に自分の心境を伝えることが重要だと了解した」

――そのツアーはどういう編成で出たんですか?
「僕がギターとヴォーカルで、くわえてピアノ、さらにドラムとベース。そして、公演ごとに毎回ゲストを招いた。実はその際に頭に描いたのが、ボブ・ディランが70年代中期にやったローリング・サンダー・レヴューだった。いろんなミュージシャンをゲストに呼んで、ちょっと即興みたいな感じでステージ上で新しい音楽を作るというのがすごく魅力的だと思った。僕の夢はそうした音楽的交流のプラットフォームを作り、様々なジャンルのいろんな楽器奏者のゲストに入ってもらい、一緒に音楽を作りあげることなんだ」

――そういえば、なぜそのユニット名を日本語の“幽玄”にしたのでしょう
「僕が感じる東京は、眠らない街……。ずっと、みんなが動いてるという印象がある。それも好きな一方、来日したときは必ず鎌倉に行って、僕は大仏に挨拶するんだ。建築とか静かさとかがすごい印象的で、心が落ち着く。僕にとって新しい挑戦であるプロジェクトを始めるに際し、幽玄という大好きな日本語が思い浮かんだ。日本語の単語って短い言葉なのに、意味がたくさんあるというのがいいよね。もちろん幽玄という言葉にもいろんな意味があるけど、言葉で表現できない、それを超えた機微のようなものに惹かれている」

――今の説明を聞いて、新作『Yugen 2 -Jestem』の内容が了解できます。言葉や歌がありメロディもあるというのはポップ・ミュージック的なんですが、その背後にはポップ・ミュージックという語句では語り切れない情緒や奥行きがありますから。
「アリガトウ。僕は60年代、70年代の音楽で育ったきたけど、当時のポップ音楽もそういう感じだったと思うな。みんな結構意味が深い曲を書いていたと思う」

――『Yugen』と『Yugen 2 -Jestem』、その2枚は一番どういうところが違うと思いますか。
「2作目のほうはもっとエネルギーがある。やはり『Yugen 2 -Jestem』はコンサート・ツアーをやった後なので、オーディエンスからいただいたエネルギーが入っている」

――そして、あなたの活動の本道にあるヴォイテク・マゾレフスキ・クインテット(テナー・サックス、トランペット、ピアノ、ベース、ドラムという、王道のクインテット編成を取る)の新作『Spirit to All』(2022年)も出ています。いい仕上がりですよね。パンデミックを間に置き、またメンバーが集まったときはかなり新鮮な心持ちを得たのではないでしょうか?
「はい。みんなすごく会いたかったし、僕もクインテットで表現したいことがたくさんあった。10年もずっと一緒にツアーやっていたのに、急に2年間会えなくなってしまったからね。だから、やっと会えたときはこのメンバーで一緒にやれることはなんて幸福なことなのかと感謝の念を覚えてしまった。そして、これからも一緒に音楽を作り、多くの人とシェアしたいという気持ちになったんだ」

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――クインテットのメンバーはずっと変わらないんでしたっけ? 
「『Spirit to All』はずっとやってきたメンバーで録音した。それは、このアルバムの大事なところだ。みんなで再会して話し始めたら、その2年間のことを話すのにはすごい時間がかかりそうなところ、瞬時にみんなの状況が理解しあえた」

――アルバム表題に“スピリット”という単語が入っていますが、ぼくは『Spirit to All』を聴いてすごくスピリチュアルなアルバムであり、それがジャズという魅力的な表現語彙のなかにうまく溶けていると思いました。
「ありがとう。僕が常々感じているのは、自分と世界とのコミュニケーションは音楽を通してこそ成就するということ。そして、そのためにはスピリチュアルであるのは肝要なことだと思う」

――また、一方ではメランコリックというか、どこかでエキゾチックに聴こえるところがあり、それはポーランド人なりスラブ民族なりの属性が活きたものだと感じます。そこらへんはどうお考えでしょう?
「そういう指摘をもらえるのはとてもうれしい。これまでそういうことについてはあまり語る機会がなかったけど、僕はポーランド人であり、ありのままの自分を表現しようとしているから」

――そして、『Spirit to All』を聴くと、やっぱりポーランドのジャズってすごく水準が高いと思わされますし、ポーランドのジャズ現況はかなりいいと推察してしまいます。
「そう言っていただけると本当にありがたい」

――今、あなたを見上げて、ジャズの道に進むポーランドの若い人も多いのではないかとも思います。
「そうだったら、夢が叶ったという感じだな。いつも自分が誰かにインスピレーションを与えられたらいいなと思っているんだ。僕の活動が誰かの創造を後押しできるのなら、それは本望だね」

©Greg Adam
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リリース情報

CD/LP 輸入盤
『Spirit to All』
Wojtek Mazolewski Quintet
[Whirlwind Recordings WR4790(CD)WR4790LP(LP)]


【掲載号】

2023.12 #167

https://tower.jp/mag/intoxicate/


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