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〈intoxicate 149 特別版〉福盛進也ロングインタヴュー「自己レーベル〈nagalu〉から発信する、 新しい日本のジャズの形」interview&text:佐藤英輔


最新号のintoxicate149より、本誌およびMikiki(https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/27145)には収まりきらなかった福盛進也さんのインタビュー記事を、noteにて特別公開いたします!Interview&textは佐藤英輔さんです。


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©Yuma Maehara

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 2018年にECMからリーダー作『For 2 Akis』を出して多大な話題を呼んだドラマーの福盛進也が、また大きく動く。新たに自己レーベル〈nagalu〉を設立、その第一弾として、2作目となる『Another Story』をリリースする。近年新たに出会った感覚派の日本人知己たちと自在に協調しあい、墨絵のようなという形容もしたくなる、幽玄な佇まいを持つ彼だけの表現群がそこには収められている。その2枚組大作で、彼は何を表現しようとしたのか。また、そのレーベル〈nagalu〉は今後どういう方向に向かうのだろうか。

——先のECM作を振り返るとどんな印象を持っていますか。
「もちろん自分の作品なんですけど、マンフレート(・アイヒャー)の色が強いなと思います。曲順とかは彼が決めましたし。それに比べると、今回は自分がやりたかったことが出ています」


——前作があるからこそ、ECMから出しからこそ、今回があるというのはありますよね。
「はい。そのおかげでいい出会いがあったり、いろんな所で紹介していただいたりしましたし。もちろん、感謝しています」


——前作リリース後、ミュンヘンと日本を行ったり来たりしているんですよね。
「そうですね。今もそういう状態なんですけど、コロナで帰れずに(日本に)いるという感じです」


——では、今回自分のレーベルを東京で立ち上げましたが、完全に軸を東京に移すということではないんですね。
「いや、それは来年あたりに移そうかなと思っています。その時期を考え中ですね」


——こっちにいることを強いられたことで、音楽観を共有できる日本人の仲間といろいろ知り合うことができたのはプラス面ですよね。
「そうですね。実は韓国のソンジェ・ソン(ニアー・イースト・カルテットでECMからアルバムを出しているリード奏者)のものを第一弾として作ろうかなと思っていたんですが、コロナで呼べなかったんです。それで、僕の方もそろそろかなと思って、僕のアルバムを録りました」


——自分のレーベルを立ち上げようと思ったのはいつごろですか?
「去年の末か今年の最初ぐらいから、徐々に水面下で進んでいきました。日本の新しい形のジャズというものを作り世界に出していきたいというところがあって、それが運良く形になったわけです。自分がプロデューサーとして、〈nagalu〉という一つのカラーを持つ新しいジャズを提供していきたいと思っています」


——〈nagalu〉という名前はすぐに出てきたんですか。
「いや、いろいろ考えました。日本語がいいなという思いがあり、“流水不腐”という言葉から来ていて、“流れる水のように淀みのなく変わり続ける音楽”を指しています。実際に〈nagalu〉という言葉はフォークル(ザ・フォーク・クルセイダーズ)の「イムジン河」の“とうとうと流る”という歌詞からた取っているんですけど」


——レーベルを作るにあたり、日本なり、アジアの新しいジャズを外に発信できるものにしようという考えはあったのですね。
「外に出したいというのもあるし、欧米のジャズがたくさん入ってきている中、独自のジャズ色を出している日本人は少ないなとドイツから帰ってきて思ったりもしたんです。でも、面白いことをやっている人はたくさんいるので、なんとか自分たちで作れないかなという思いがありました」


——話は戻りますが、ぼくは福盛さんのECM盤を聞いて日本人的な侘び寂び情緒とジャズとのこんなにフレッシュなマリアージュがあるんだと痛感させられました。
「前作がどれだけできたかはともかく、今作みたいなことを18歳ぐらいからやりたいなと思っていたんです。そして、やっとちゃんとした形になったなと思います」


——今年の8月に録音したんですか。
「22から24日にかけての3日間、しました」


——1曲(ザ・フォーク・クルセイダーズの《悲しくてやりきれない》)以外は福盛さんのオリジナルですよね。
「ECM以後の新しい曲が多いですね」


——いろんな編成で録っているんですが、録音時の顔ぶれをちゃんと想定して作っていたりもするのでしょうか。
「レコーディングが決まってから作った曲はそうですね。既存の曲は、すぐにこの組み合わせがいいかなとなりました。コロナ禍だったので、意外にみんなのスケジュールが取りやすかった」


——しかし、個を持ついいミュージシャンとしっかり出会っていますよね。たとえば、ピアノは佐藤浩一さんと林正樹さんを贅沢に使い分けています。ぼくはこの2人のことを、リアルなジャズ流儀とオルタナティヴなジャズ・ビヨンド感覚を併せ持つ最たる日本人ピアニストだと思っています。
「確かにそうだと思います。“引き”が強いと、自分でも思ってしまいますね」


——こういうミュージシャンは自分としては一緒にやりたくなる、というポイントはあったりしますか。
「音をよく聞く人。あと、自分の何かを持っている人。ここに参加しているメンバーは、そういうところがある人ですよね。蒼波花音(サックス)ちゃんは20代半ばで、今回が初めてのレコーディングだそうです。もともとは(佐藤)浩一君の生徒さんなんです。出会ったのは、昨年12月。音源を聞いたらなんか特別な感じがして、呼びました。」


——ディスク2の最後の曲は佐藤浩一さんだけが演奏する曲ですが、やはり作曲家、プロデューサーとしての姿が強く出ているんだろうなと思ってしまいます。
「そう思います。自分は客観的に曲の全体像を見て、判断できると思っています。だから、自分が入らなくてもいいという判断も出てきます」


——では、別のドラマーに叩いてもらおうとか、
「そういうの、全然アリだと思います。」


——お眼鏡に叶うドラマーもいるんですか。
「なかなかいないですね」


——青柳拓次さんとSalyuさんが歌う曲もいくつか入っています。やはり、ヴォーカル・ナンバーは入れたかったのでしょうか?
「うーん、そんなに分けて考えていませんね。Salyuさんは想像以上に素晴らしくて度肝を抜かれました。拓次さんは(伊藤)ゴローさんから紹介してもらって、一度(藤本)一馬さんと3人でやってそこからですね。そのとき、(ここに収めている)《Walk》もやりました」


——そして、新作『Another Story』は2枚組になりました。
「2枚組になると思わなかった。いっぱい曲を持って行って、録ったものの中からいいものを選ぼうと思ったら全部良かったんですよ。それで2枚組になったんですが、自分の伝えたいことがちゃんと出来上がったと思います」


——2枚組だと、インパクトがありますよね。ジャケットも凝った作りになっていて、所有欲を満たすと思いました。
「今作のコンセプトは、手紙なんです。大切な人に渡す手紙……。好きなアーティストからのアルバムって手紙が届く感じがあるなと、最初にチーム内で話が出て、アイデアが膨らんでいったんです。不特定多数ではなく、一人一人に当てた手紙のようなデザインをお願いしました」


——ロマンチストですね。
「(笑)。そうだと思います」


——ところで、今回初めて知ったんですが、片方の耳しか聞こえないんですか?
「そうです。生まれつきなんです」


——そのため、今回モノラルで録ったということなんですが、今日日ステレオ録音しかなされていないわけで、苦労とかも多かったのではないでしょうか?
「ミックスが大変でしたね。ピアノも(マイク)1本で録っているので、立体感をなんとかモノラルで出したいというのもあったし、どれだけクリアーに聞こえるようにできるかという課題もありました。エンジニアの方も初めてで、やりがいを感じてとことん付き合ってくれました」


——モノラル録音がものすごく印象深いです。定位がはっきりしているステレオではないモノラルだとより注意深く楽器音を拾い上げて聞くような気がしてしまいました。
「〈nagalu〉ものは、モノラルで出していきたいと思っています」


■福盛進也( ふくもり・しんや)プロフィール
バークリー音楽大学卒業。2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で活動を開始。独特で繊細なシンバルワーク、メロディック且つリズミックなドラム・プレイに加え、作曲家としても高い評価を得る。2017 年に自身のトリオで、ECM レーベルから日本人二人目となるリーダー・アルバム『For 2 Akis』を録音し、2018 年2 月に世界リリース。現在、トリグヴェ・サイム(sax)、ウォルター・ラング(pf)との新たなトリオの他、リー・コニッツ(as)、フローリアン・ウェーバー(pf)、山下洋輔(pf) など様々なアーティストとの演奏活動、また日本では伊藤ゴロー(g)、佐藤浩一(pf)とのプロジェクト「 land & quiet」や藤本一馬カルテット、林正樹グループなどで活躍中。自身のレーベルを立ち上げ、『Another Story』をリリースする。


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〈CD〉
『Another Story』

福盛進也(ds)林正樹、佐藤浩一(p)藤本一馬(g)青柳拓次(vo, g)
小濱明人(尺八)Salyu (vocals)蒼波花音(sax) 北村聡(bandoneon)田辺和弘、西嶋徹、甲斐正樹(b)
[Nagalu NAGALU001] 2CD

■LIVE INFOMATION
蒼波花音トリオDEBUT CONCERT
○2021/1/5( 火)19:30開演
【出演】蒼波花音(sax)福盛進也(ds)佐藤浩一(p)
【会場】公演通りクラシックス
「冬の調」
○2021/1/6( 水)19:30開演
【出演】藤本一馬(g)北村聡(bandneon)福盛進也(ds)
【会場】公演通りクラシックス
www.shinyafukumori.com/

※12/24追記
"Another Story"
〇2021/ 1/25(月)
[1st.show] 17:00開場 / 18:00開演
[2nd.show] 20:00開場 / 20:45開演
【会場】COTTON CLUB
【出演】福盛進也 (ds)、林正樹 (p)、藤本一馬 (g)、西嶋徹 (b)
北村聡 (bandneon) ※2nd.showのみ出演
スペシャルゲスト:Salyu (vo)
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/shinya-fukumori/



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intoixcate 149 (12/10発刊)


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