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CLASSICAL新譜レビュー 後編【2020.6 146】

2020年6月20日発刊のintoxicate 146、お茶の間レビュー掲載のCLASSICALの新譜8枚をご紹介!

※CLASSICAL新譜レビュー前編【2020.6 146】はこちら

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intoxicate 146



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①【J-CLASSICAL】
ラヴェル、リスト、J.S. バッハ: ピアノ作品集

務川慧悟(p)
[Acousence Classics ACOCD13819]

務川慧悟は2012年第81回日本音楽コンクール第1位、2019年ロン=ティボー=クレスパン国際音楽コンクールピアノ部門第2 位の実績を持ち既に内外で活躍中の若手。本アルバムはピアノ作品全曲演奏の経験を持つラヴェルがメイン。どの曲も粒のくっきりしたタッチ、淡い光が明滅する端正な語り口で描いたムラのない出来ばえ。なかでも《クープランの墓》は一見快活な楽想に潜む影を丁寧に映した名演。余白にはリストとバッハの作品を収録。前者のバラード第2番では動と静、明と暗のコントラストを鮮烈に打ち出した奥行きある音楽が聴けて、大型ピアニストへの飛躍を予感させる。(渋谷店 中川直)

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②【CLASSICAL】
シューベルト: ソナタ& ワルツ集

フィリップ・カッサール(p)
[La Dolce Volta LDV72] 〈輸入盤〉

シューベルトのピアノ作品というのはある種、遠くに茫洋とかすむ黒々とした深い森のような、解き明かせない謎をはらんだ世界。特にソナタにおいて、最後の年に書かれた不滅の3 曲と共に、この第16番と第17番の2曲の組み合わせには深遠の度が色濃く表れる。カッサールがピアニスティックに磨き上げた第16番もさることながら、シューベルト特有の歌謡性を伏流水のように潤沢に湛えた大作であることを実感させる第17番が素晴らしい。第2 楽章で旋律を虚心に追えば、不思議な心地と共に不意に鮮やかな風景が広がる。どんどん音楽が簡素になっていく終楽章での仕舞い方は、まるで遠近法で消失点が消える趣だ。 (新宿店 森山慶方)

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③【CLASSICAL】
グラズノフ: 交響曲 第4番& 第5番

アレクサンドル・ラザレフ(指揮)
日本フィルハーモニー交響楽団
[Exton OVCL-00724] SACD ハイブリッド 〈高音質〉

10年以上共演を続けてプロコフィエフ、ラフマニノフ、ショスタコーヴィチなどの名演を積み上げたラザレフと日本フィルの新しいシリーズはグラズノフ。全8曲のなかで最も知られる第5 番に第4 番を加えた組み合わせ。ラザレフの持ち味であるがっしりした骨格による豪快さと細部のデリカシーを両立した音楽運びが冴えており、麗々しい色彩のなかに悲哀のにじむメロディが流れるグラズノフの魅力を満喫できる内容。棒にしっかり食らいつき、生気に富んだサウンドを奏でる日本フィルが素晴らしい。第5番は2016年11月、第4番は2017年10月、ともにサントリーホールでのライヴ収録。(渋谷店 中川直)

0190295269951 Barricadesジャンロンドー

④【CLASSICAL】
バリケード~ルイ14&15 世時代のヴェルサイユの音楽

ジャン・ロンドー(clavecin)トーマス・ダンフォード(Archlute)
リア・デサンドル(MS)マルク・モイヨン(Br)ミリアム・リニョル(viola da gamba)
[Erato 9029526995] 〈輸入盤〉

現代のカリスマ・チェンバリストとしてその活動に注目が集まるジャン・ロンドー。チェンバロという楽器への真摯な姿勢が様々な表現を生み出しています。このアルバムはルイ14世とルイ15世の時代の、クープラン、シャルパンティエ、マラン・マレなど美しい“ヴェルサイユの響き”を持つフランス・バロック音楽をセレクト。友人でもあるリュート奏者のトーマス・ダンフォードとの二重奏を中心に、歌曲なども収録。チェンバロとリュートの見事なまでの音の交わりの心地よさに引きつけられ、聴いていると、“古いものは新しい”という言葉が思い浮かんできた。(上村友美絵)

葵トリオ

⑤【J-CLASSICAL】
ベートーヴェン: ピアノ三重奏曲 第1番、メンデルスゾーン:ピアノ三重
奏曲 第2番

葵トリオ:小川響子(vn)伊東裕(vc)秋元孝介(p)
[ マイスター・ミュージック MM-4078]

2018年に難関として知られるミュンヘン国際音楽コンクールに優勝し、大きな話題を呼んだ葵トリオの第2弾。古典派とロマン派、長調と短調という2曲の性格的対照をさり気なく、かつ強い説得力をもって描き出している瑞々しい音色美、軽やかなリズム、天衣無縫のアンサンブルから、生命力に溢れた音楽が生み出されているが、その表現は決して則を超えることなく極めて気品高い。ベートーヴェンでの活力に溢れ、優美さを兼ね備えた演奏は作曲当時24歳の彼に実にふさわしく、メンデルスゾーンでの豊かな情感や憂愁の風情、しかし粘らないさらりとした進行も作品の様式をずばりと言い当てている。 (板倉重雄)

もうここにはいない J.S.バッハ カンタータ集

⑥【OPERA&VOCAL】
もうここにはいない~ J.S. バッハ:カンタータ集

マールテン・エンゲルチェス(C-T)アンドレアス・ヴォルフ (B-Br)
PRJCT アムステルダム
[Sony Classical 19439751762] 〈輸入盤〉

自身率いるPRJCTアムステルダムと共に母国オランダでタイトルのツアーを行い好評を得たプログラムを再現。『われは満ち足れり』、バリトンのヴォルフによる『われは喜び十字架を負わん』と有名な曲を収めています。最初のブクステフーデの『嘆きの歌』で静かな曲調の中にすっと響く歌声はこの一曲で現実から天上の別世界へと一気に誘います。ピンと張った糸の様な鋭敏で力強い芯の通った声と自在な表現力は現代のカウンターテノールの中でも際立つ魅力があります。聴く人は充実した心地良い軽やかなまでのアンサンブルにきっと安らぎを得ることでしょう。 (古川陽子)

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⑦【OPERA&VOCAL】
キリルス・クレーク: 合唱作品集

ヤーン= エイク・トゥルヴェ(指揮)
ヴォックス・クラマンティス
[ECM New Series 4819041] 〈輸入盤〉

静寂と仄暗い空気感や祈りのハーモニーを生み出している。グレゴリオ聖歌や長くエストニアを支配したロシアの宗教音楽の荘厳さを彷彿とさせる。ペルトの一世代前の作曲家にあたるクレークは、エストニアの民謡を収集研究した。このアルバムはそのエストニアで歌い継がれてきた聖歌をクレークが編曲したものと、旧約聖書の詩篇に曲をつけたものが交互に収録。ペルト作品の演奏で高評価のヴォックス・クラマンティスは、スウェーデンの民族楽器ニッケルハルパとエストニアのチター属の楽器カンネルの神秘的な響きに呼応し、人の声の重なりとは思えない、塵一つない他に類のない美しい合唱の世界へ誘う。 (渋谷店 雨海秀和)

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⑧【OPERA&VOCAL】
マスカーニ: 歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」

マレク・ヤノフスキ(指揮)ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団 メロディ・ムーア(S)レスター・リンチ(Br)他
[PentaTone Classics PTC5186772] SACD ハイブリッド
〈高音質〉〈輸入盤〉

実はオペラとして良い舞台上演に出会わないこの作品。アリア、二重唱、合唱を伴うメロドラマが舞台転換もなく激しい音楽により1時間の間に繰り広げられる。そしてクラシック音楽の世界で1、2を争う人気曲の間奏曲まである。この録音は純粋にマスカーニの音楽の素晴らしさ伝える。歌手が熱唱し間奏曲が全曲の頂点なる演奏ではない。歌も管弦楽も抑揚を重視して丁寧に演奏。ヤノフスキはヴェリズモ・オペラを指揮しても一貫して楽譜の音を明確に響かせる。弦楽を緻密に響かせ、例えばラストシーンのトリッドゥが歌い終わった直後の不気味なファゴットの響きに気づかされるなど、多くの発
見がある。 (渋谷店 雨海秀和)


▶前編はこちら!
CLASSICAL新譜レビュー前編【2020.6 146】


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