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〈CINEMA お茶の間ヴューイング〉「浪曲映画祭」プレヴュー:新たな、「情」のかたちへ(東琢磨)【2020.6 146】

■この記事は…
2020年6月20日発刊のintoxicate 146〈お茶の間ヴューイング〉に掲載された「浪曲映画祭」プレヴュー記事です。

※特集上映「浪曲映画祭─情念の美学2020」は2020/6/26(金)〜 30(火)ユーロライブ/ユーロスペースにて開催されました

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intoxicate 146


浪曲溝口健二「元禄忠臣蔵」前・後編 松竹

溝口健二「元禄忠臣蔵」前・後編 松竹

新たな、「情」のかたちへ

text:東琢磨

 浪曲は大きな謎である。昨年に次いで2度目となった本映画祭「お知らせ」が告げるように、「浪曲人気が衰え」たのは「1950年代」に入ってからにすぎず、ついこの間ぐらいまでは100円ショップでも浪曲のCDを置いていた。私の世代からすれば、諸先輩方はそれでもまだ浪曲を論じる「教養」を持っている方々がいらっしゃった。「文学」にしろ「映画」にしろ、いわゆる日本語の表現の「文体」には浪曲のフローが刻み込まれていると考えるべき、感じるべきものは無数にあるが、浪曲のグルーヴを耳から、身体から入れていないと、そのこと自体が感受できないかもと、私などは感じることもすくなくない。


 謎とされることもないままに、その記憶が根こそぎにされてしまったこと自体を謎ととらえなければならないほどに、「なかった」ことにされ、あるいは、私たちの世代の怠慢もあるのだろうけど、放置されてきたのだ。あるいは、よくてせいぜい「古典芸能」の美名のもと、幽閉されてきたのだった。


 1950年代なんてついこの間の話だ。世界中の大衆音楽では1930年代ぐらいまでは平気で蘇らせてくるのが通常であり、それが人びとの歴史をつくってきた。今回の上映題目にも挙げられている赤穂浪士のネタのように、例えば「仇討ち」ものなどは、戦後アメリカ的民主主義を阻害するものとして、GHQに上映規制を受けたものもある。限定的な民主主義の、あるいはGHQ の「敵」は、「アカ」だけではなく、こうした日本民衆文化、そして自分たちの国のダークサイドをあらわにしたもの(人種差別ものの上映規制されている)と、実は多岐に及ぶ。


 とはいえ、GHQだけのせいにするのはフェアではない。過渡期において、日本の人びとは、浪曲とジャズを、歌謡曲を、ロカビリーを渾然として享受もしてたはずだし、私たちの世代でさえ「そんな浪花節はうんざりなんですよ」(人情ではなく、合理性なりカネ計算なりを優先する)という否定的な表現であっても、まだ浪曲の生きた影響下にあったはずだ。


 先にふれた赤穂浪士、忠臣蔵のネタにしろ、「仇討ち」的な封建制の残滓として危険視されたのがその一面としてあるにせよ、この物語からは多彩なテーマが引き出されてきたし、「時代劇」とは、過去の時代に材を取ったものである以上に、語られてきた物語を、語りなおす時代=現代に合わせて作り直すという意味でも「時代劇」であるという二重性を持つ。見ること、聞く・聴くこともしかり。


 今や、当代の、当の浪曲師たちによって、浪曲の謎は新たな曲面に入りつつある。先に述べた何重もの謎のなかにありながらも、また蘇るものとしての謎である。


 私は地方暮らしの身だが、それでも、この映画祭にも関わっておられる玉川奈々福さんの公演などは、友人が企画しているものを、住んでいる街で見ることができたりもしている。その企画の一つは、狂言師とのコラボレーションで、さらに夏目漱石『吾輩は猫である』を取り上げるものだったが、非常に刺激的でおもしろかった。


 そうした日本の他にして多なる芸能ジャンルへとも広がるだろうし、たとえば、今後は、中国・華人系文化の武侠ものなどとも交錯していくかもしれない。現在の動きは、さまざまな成果と可能性を感じさせるが、まずは実演と上映によって浪曲に浸ることが可能になったことを喜びたい。自分たちが、アジアの端っこのシモジモであることを思いだそう。忘れられた情を、情念を、現在形で全開にしていこう。新たな「情」のかたちが見えてくる、聞こえてくるはずだ。


浪曲「母の瞳」KADOKAWA

「母の瞳」KADOKAWA

浪曲「忠次旅日記」日活

「忠次旅日記」日活



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