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ハイスペックエンジニア採用を成功させるポイントとは?(前編・メーカー編)

自動車エンジン設計、自動運転開発、AIアドバイザー、インフラ設計など……高いスキルを求められるエンジニア人材(ハイスペックエンジニア)は市場に少なく、採用難易度が非常に高い。しかも一定の専門知識も求められるため、人事担当者のなかには、このハイスペックエンジニア採用に苦手意識を持つ人が少なくありません。

しかし、採用できなければ、自社の存続にも影響するため、手をこまねいているわけにはいきません。いかにして、ハイスペックエンジニア採用を成功させるか。ナショナルクライアントからスタートアップ企業まで、多種多様なハイスペックエンジニアの採用に、リクルーターとして20年近く携わっている山本皇貴さんと、木津和弘祐さんに押さえるべきポイントやノウハウについて伺いました。

プロフィール

InterRace株式会社パートナー
山本 皇貴

慶應義塾大学経済学部卒。株式会社リクルートキャリアに14年在籍後、ブティック型転職エージェント、世界最大級のスポーツイベント職員採用Prjを経て、2019年よりInterRaceに参画。20年以上人材紹介ビジネスに携わり、日本を代表するメーカー、大手IT企業、グローバルメーカー、スタートアップ等の幅広い採用支援実績を持つ。プロフィール

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InterRace株式会社VPoS(Vice President of Solutions)
木津和 弘祐

2007年リクルート入社。新卒・中途向けメディア、人材斡旋、RPO事業、事業開発に従事し、マネジメント(課長・部長)、プロフェッショナル職を経験。RPO事業を立ち上げ期より参画し、HR領域の戦略フェーズから母集団形成、選考オペレーションまでのプロジェクトマネジメント、プロジェクトリーダー、コンサルティングを経験。世の中に存在するHRサービスに広い知見と人脈を持つ。2022年にInterRace株式会社に参画。株式会社KITSUWAの代表取締役としても活動。

世間の眼鏡で見るのではなく、虚心坦懐にエンジニアの話を丁寧に掘り下げること

──ハイスペックエンジニアの採用は専門知識が必要で、難易度も高いイメージがありますが、リクルーターとして、どのように対応されてきたのでしょうか。

山本 私の場合は、エンジニアと同じ目線で対話ができるように、事前に基礎知識を頭に入れていました。回路設計エンジニア採用では、回路設計の知識、ITエンジニア採用では、アルゴリズムなどのプログラミングの基礎を事前に学習してきました。それは、一種の共通言語を持つ感覚です。

リクルーターを始めた当初から、楽しそうに業務に取り組んでいるエンジニアの皆さんに興味がありましたし、彼らがつくり出すビジネスに惹かれたことが根底にあったと思います。

木津和 私自身も、エンジニアさんには仕事でのこだわりやモノの考え方など強く惹かれるところがありました。それで「興味があるので、現場を拝見させてください」といって、何度も職場を見学させていただきました。

山本 お願いすれば、皆さん「いいよ」と言ってくれます。その際、「仕事で」といえば、「忙しいからダメ」と言われてしまいます。エンジニアさんか、もしくは仕事に興味があるかどうかが大事だと思います。

木津和 すごく印象的だったのが、とある自動車メーカーのエンジン設計エンジニアの方を取材した時のこと。その企業では、特殊なエンジンを設計していて、そのエンジンを扱っているのが、その企業の他には、海外の自動車メーカー1社だけ。他の国産自動車メーカーでは取り扱っていないことが分かったんです。

それで、そのエピソードを求人要件やスカウトメールに掲載すると、あまり交通の便がよくない勤務地だったのですが、想像以上に応募者が集まりました。この時、会社の規模や給与だけでなく、応募者に気づきを与えるようなエピソードを提供することが大事だと感じました。

山本 ハイスペックのエンジニアは、 世の中のホワイトカラーが重視することに対して、いい意味で無頓着なところがあると思います。「より上流工程の仕事がしたい」とか「大手に行きたい」ということにはあまり関心がありません。それは、もうすでに実現できているというのもあるかもしれません。

木津和 彼らの知的好奇心を満たせるかどうかは、1つのポイントになってきますよね。

山本 そうだと思います。世間の眼鏡で見てしまうと、ハイスペックエンジニアには全く響かないアプローチになってしまうことも多々あります。虚心坦懐に、何が面白くて、何を楽しいと思って仕事をしているのかを、丁寧にヒアリングしないと、彼らに響くワードは出てこないと思います。

木津和 それに、彼らはそれが当然、当たり前だと思っているので、競合他社と差別化できる要素だとは感じていなかったりします。だからこそ、我々のような、外部のリクルーターがインタビューして聞き出すことで、転職者の気づきとなる魅力を見つけられるのだと思います。

1つ1つのプロジェクトの重要性を認識して、面接などに臨む

──ハイスペックエンジニアの面接などで必ず押さえるべき点は、何かありますか。
 
山本 面接に限らず、JD(ジョブ・ディスクリプション/求人票)を書く時も同じですが、エンジニアにとっての「プロジェクトの重要性」をまず認識することだと思います。私は1社目にゲーム会社に就職して、そこで、とある取締役がエンジニアに話したことが非常に印象的で、20年以上経った今でも、脳裏に焼き付いています。

それは、「今日からエンジニアは焦ったほうがいい。22歳で入社して、35歳前後には管理職やプロデューサーになって、現場から離れることになるからです。その間に担当できるプロジェクトは、4〜5つ程度。ゲーム業界に来たからには、ヒット作を出したいでしょう。そう考えると、そのチャンスはあと4〜5回しか残されていないからね」という話でした。

木津和 やれる期間と案件が限られているわけですね。

山本 少子高齢化の影響により、今だと40歳でも手を動かしている人は結構いると思いますが、それでもエンジニアにとっては、1つ1つのプロジェクトがそのくらい重要な意味を持っています。

面接での対応や求人票作成の際には、それを意識しながら応募者に向き合えていることが重要ですし、そうしなければ、エンジニアは振り向いてくれません。

自社の「仕事の進め方」を伝えること。それが、他社との差別化になる

──プロジェクトについては公開できない点も多いと思います。そのような場合、採用につなげるために、面接や求人票ではどこまで明らかにすればいいのでしょうか。また、プロジェクトと同じくらい、エンジニアに訴求できる情報は他にありますか。

山本 まず「際まで迫る」ことを意識することです。今やカジュアル面談もメジャーになってきました。面接は企業が行いますが、面接前後に行うカジュアル面談には、外部のリクルーターが入ることもあり、この人であれば、ここまで言ってもいいというのを、個々に合わせて計らいながら、提示しています。

木津和 求人票だと、プロジェクトは具体的なことまで落とし込めないので、その代わり「流儀」や「スタイル」などとも呼ばれる「仕事の進め方」は必ず押さえるようにしています。文系の人たちは、職場の風土や、一緒に働く上司や同僚の人となりが気になると思いますが、エンジニアは、周囲とどのように関わりながら仕事を行うのかが、転職での判断要素になってきます。

山本 同じ商品設計エンジニアであっても、企業によって関わり方が異なりますからね。例えば、A社の設計エンジニアだと、商品企画から構造設計、詳細設計に至るまで、すべてを担当します。非常に大変ですが、部品選びもできるので、自分の思い通りの商品をつくることができます。

木津和 「裁量の大きさ」が魅力になるわけですね。

山本 そうです。かたやB社の設計エンジニアだと、商品企画、構想、基本設計、詳細設計、量産立ち上げなどが、すべて工程ごとに担当者が分かれているので、決められた作業しかできず、商品もすべて同じ形をしています。ひと筆書きで思うようにやりたいタイプはA社で、前工程で整理したことをきっちり固めてやりたい人はB社が合います。

木津和 「流儀」や「スタイル」だけで、その企業が、自分のやりたいことに合うか、合わないかが分かるので、1つの訴求ポイントになりますよね。

山本 エンジニアには、エンジニアなりのこだわりがあるので、それを理解して、そのこだわりに対して誠実に応えるのが一番大事だと思います。エンジニアによっては、自分が持てる100%のパフォーマンスを出すために、職場環境にもこだわりますから。

木津和 マシン環境などへのこだわりですよね。

山本 まさに、ハイスペックのマシンがあるかどうかや、リモートワークができるかどうかは、典型的な例だと思います。でも、企業側の面接官は、エンジニアの話を聞かずに、「うちは、ハイスペックのマシンがなくてもできるから」とか「コミュニケーションが大事だから、みんなオフィス出社をしているんだ」といったことを説明する。

ほとんどの面接官は、エンジニアからの要望を単なるわがままだと捉えてしまっています。そうではなく、この人は「何を期待しているのか」「なぜ、そんなことをいうのか」──要望の裏側にある想いに耳を傾けてほしいと思います。

木津和 根っこにある想いということですね。

山本 エンジニアは「楽をしたいから」という理由で言っているわけではなく、より良い製品をつくりたいがために、こうした職場環境を求めていることが多いです。

「自社の流儀でいえば、いいものづくりとはこういう環境で行うんだ」という企業側の価値観と、エンジニアが大切にしている価値観がちゃんとすり合わせることができれば、たとえスペックの高い開発機材がなくても、入社してくれる可能性は高くなります。

木津和 また、プロジェクトの詳細までは公開できなくても、任された業務に意味づけを行って伝えるのも、面接官の重要な役割ですよね。

山本 そうだと思います。エンジニアは、営業のように大言壮語で語るのが嫌な人たちなので、面接などでも目の前のやってほしいことしか語らなかったりします。任せることは、CADによるエンジン設計なのですが、それだけ伝えても、人はやる気にはなれません。

イソップ寓話に出てくる「三人のレンガ職人」の話のように、単に仕事を説明するのではなく、「このレンガで、後世に残る大聖堂をつくる」という「ビジョン(夢や目標)」まで昇華して語れているかどうかだと思います。与えられた業務を通じて、プロジェクトを達成することは、自社の事業にとって、どういう意味があるのか。全社にとってどういう期待があるのかを、エンジニアに届けることです。

トレンドでいえば、SDGsやカーボンニュートラルなどにどのように貢献できるのかを、具体的に話せることが、面接では肝になってきます。

まとめ

ハイスペックエンジニア採用を成功させるポイントとは(前編)はここまでです。ここまでの話をまとめると、難易度の高い、ハイスペック人材を採用するためには、企業の人事担当者としては、次の5つのポイントを押さえるべきということでした。

1.世間の眼鏡で見るのではなく、虚心坦懐にエンジニアの話を丁寧に掘り下げること
2.プロジェクト1つ1つが非常に重要な意味を持つことを認識して、求人票の作成や面接の対応を行うこと
3.求人票では、エンジニアが気にしている流儀やスタイル(仕事の進め方)を訴求すること。これにより自社の差別化が行える
4.リモートワークなどの要望を単なるわがままと捉えずに、要望の裏側にある想いに耳を傾けること
5.プロジェクトを達成することは、自社の事業や会社全体にとって、どんな意味があるのか「ビジョン」に昇華して語ること

ただ、人事担当者だけでは、ハイスペックエンジニアの本音を聞き出したり、他社と差別化できる自社の強みを見出したりすることは難しいかもしれません。
 
そんな時は、外部のプロリクルーターに頼るのも1つの手です。InterRaceには、多種多様な企業のハイスペックエンジニアの採用を支援してきたリクルーターが多数所属しています。ご相談レベルでも大歓迎です。いつでもお気軽にお声がけいただければと思います。
 
つづく後編は、IT企業やスタートアップ企業でのハイスペックエンジニア採用を行う上で押さえるべき点、現場や経営、エージェント企業を巻き込んでいくための人事のスタンスについてをテーマに引き続き話し合っていただきます。

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