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ChatGPT出現で採用活動はどう変わる?

「ChatGPT」の登場以降、AIでこの世界がどう変わるかの話題で持ちきりです。知識労働、経済、研究開発、編集、工学、医療分野など、あらゆる業界において、インターネットの登場以来最大のインパクトを持つ進化として、期待と脅威がないまぜになった受け止め方をされているようです。

身近なところでは、たとえば出会い系アプリの世界で、パートナーとしての関係性ができ上がるまでのアイスブレイクをAIが代行する(会うことが決まってから人間が登場する)サービスなども登場しているようです。当然ながらコミュニケーションコストが膨大なリクルーティングの世界においても、こうしたツールが登場するのも時間の問題です。

今回は、AIテクノロジーが採用活動にもたらす影響についての推論を、「採用100年史から読む人材業界の未来シナリオ」の著者である黒田真行さんにお伺いしました。ぜひ皆さんのご意見もお聞かせいただければ幸いです。 (聞き手:西谷忠和)

話者プロフィール

InterRace株式会社 顧問
ルーセントドアーズ株式会社 代表取締役
黒田真行

1988年株式会社リクルート入社。2006~13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長、HRプラットフォーム事業部部長、株式会社リクルートドクターズキャリア取締役などを歴任。2014年、ルーセントドアーズ株式会社を設立し、35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。各種メディアへの寄稿多数。主な著書に『人材ビジネスの未来シナリオ』などがある。

フェーズ1:「求人票」「スカウトメール」の自動生成

大きく3つの変化が考えられます。最初のフェーズは、ChatGPTなどの生成型AI による「求人票」と「スカウトメール」の自動生成です。

募集職種ごとに必要なスキル・経験や仕事内容など、企業側が用意した求人要件と、自社の給与実績、待遇・福利厚生など過去の募集情報を読み込ませて、適切な求人情報を自動で作成します。

スカウトメールにおいても、職種別の履歴から返信率の高い文面を自動学習して、生成していきます。それによってスカウトソーサーが担っていた業務を大幅に軽減することが可能になります。

こうした「求人票」や「スカウトメール」の自動生成は、大手人材サービス企業ではすでに実装され始めています。しかし、これはあくまでAI活用の序の口、変化の第一章でしかありません。 

フェーズ2:「求める人物像の要件定義」の自動生成

AIテクノロジーがさらなる進化を遂げると、次は上流工程にある「求める人物像の要件定義」が対象になってくると考えられます。

このフェーズになると、企業が提供した情報をもとに求人票を生成するだけではなく、事業部や職種ごとに、どのような人材像が活躍できるのかを、自社のハイパフォーマー人材や過去採用した活躍人材のスペック情報をもとに、「求める人材要件の自動化」まで行えるようになるはずです。合わせて、採用競合企業が提示する待遇やスキルなどの求人要件をリサーチした上で、採用に適した年収や待遇などの募集条件もAIが設計して提示することも当たり前になるでしょう。

職種理解やマーケット理解に乏しい人事担当者がやるよりも、確かな「求人要件」を作成でき、より高い採用率が見込まれます。

フェーズ3:潜在層へのアプローチが一般化する

次は「AIテクノロジー×Webマーケットの融合」により起こる、採用活動に大きなインパクトを与える「イノベーション」です。

企業は求人サイトやエージェントなどが保有する、転職意欲の高い「転職顕在層」の人材データベースにアプローチして、自社にマッチした人材を採用するのが、従来の方法でした。

ところが実際は、求人サービスなどに登録せずとも、よい求人条件のオファーがあれば検討してみたいという「転職潜在層」が、膨大な数存在します。「AIテクノロジー×Webマーケット」の融合が進めば、GoogleやLINEなどの日常的に使っているUIを通じて、そうした個人(転職潜在者)が興味を持ちそうな、生々しい求人情報がレコメンドされる方向に進んでいくのではないかと考えています。対象者のボリュームは従来の転職顕在層とは桁違いの総量です。

これは同時に、「人材募集はしていないが、いい人材がいれば採用を検討したい」という潜在雇用ニーズをもつ企業を発掘に対する力学も生むことになり、これまでにはなかった雇用を創造することにもつながります。

もちろん、人材サービス企業が保有している過去の採用に成功した求人要件のデータや、従業員想いの社長や、フレンドリーにコミュニケーションができる仲間がいるなどの求人広告が担っていた価値づけをAIが行い、類似した企業に適用できることが前提となります。

 ひとつ懸念があるとすれば、価値観・志向、年収などの個人情報を取得する際のパーミッションの問題で、AIを用いたマッチングの進化は一足飛びには実現しないかもしれません。しかし、個人(転職潜在層)と企業(潜在雇用ニーズ企業)にもたらすメリットがあまりにも大きいので、遠くない未来に必ずパラダイムを変えるイノベーションが実現されると見立てています。

「身の丈マッチング」が増大し、雇用の総量が増大する

AIによる個人と企業との採用マッチングの適正化は、人のモチベーション、エンゲージメントなどの因子も含んで、高い定着率や入社後活躍率も下支えすることになります。この学習サイクルは、どちらかと言うと企業側よりも個人側の満足度を優先して機能していくことになると考えられます。労働力人口の減少も相まって、企業の求人票も、個人側のメリットを、より優先した要件に変わっていくことが見込まれます。

従来、不人気企業が人気人材の獲得を目指したり、不人気人材が人気企業を志望したりすることで、数々の需給ミスマッチを引き起こしてきました。結果として、膨大な数の「未充足の求人」と「就職できない人(無業者)」が生み出され、放置され続ける構造が固定化していました。

それを簡単に表したものがA図です。左が(求人)企業、右が(求職者)個人で、上から人気、普通、不人気の3つのレイヤーに分かれるとします。

現在)求人企業と求職者との採用マッチング(A図)
今後)求人企業と求職者との採用マッチング(B図)

ChatGPTなどのAIテクノロジーが進化し、機能してくれば、個人のWill (身の丈に合わない求人を求める)は変わらないものの、求人メディアなどが保有する膨大な過去の成否情報と、SNSやECサイトの購入履歴などの個人行動履歴を掛け合わせて、企業・職種の身の丈に合う求人への誘導能力が高まるため、一定のドリームクラッシュ期間を経た上で「身の丈マッチング」が増え、長期的に見た決定率が上昇していきます。その結果、雇用の総量自体が圧倒的に増えていく結果になると考えられます。

つまり、採用の受け皿が拡大して適材適所の最大化が進むため、採用活動が以前より進む企業(受益企業)が増大します。しかし、同時に「これまで採用できていた人材を新たな採用競合企業に奪われる」受難企業も増えていくことが予測されます。

ロングテール型の案件で適材適所が実現

 雇用の総量の拡大は、マクロ的には次の変化で捉えることができます。

  1.  顕在需要の充足率向上

  2. 潜在需要の顕在化と充足

  3. ロングテール型の適材適所の実現

1.顕在需要の充足率向上

下記の図を見てください。現在の採用マーケットは、2つ目の大きな円です。「顕在化している採用の募集人数」で、一番小さな円は「今充足している人数」となります。現状のマーケットでは未充足の求人が相当数あり、採用を積極的に行っている企業の人事は、この未充足を埋めようと、さまざまなチャネルを使って、採用を行っています。

今後変化が予想される求人マーケット図

AIテクノロジーの進化により、当然この充足率は高まっていきますが、もう1つの変化としてあるのが、先ほどから説明している、現在の採用マーケットの外側にある「(いい人がいれば採用したいという)潜在募集人数」の顕在化です。今後は、ここも突破して、マーケットとして認知されていくことになると考えています。

2.潜在需要の顕在化と充足

日本における全産業の黒字企業の割合は、法人の半分以上と言われており、そのうち採用活動に取り組んでいるのは、たったの10%程度です。黒字化しながらも、人が採れないため採用活動を行っていない企業が相当数あります。ただこれは、反対側にいる求職者側も同じ構造になっているので、両マーケットで潜在的ニーズが顕在化されることになり、結果的には、求人企業と求職者の総量が増え、異次元の雇用創造が生まれてきます。 

3.ロングテール型の適材適所の実現

売り手市場の影響もあり、従来は労働集約型を前提とした手間をかけた採用サービスが大半を占めていましたが、それがローコストでできるようになり、今後は職種に関係なく、適材適所のマッチングが可能になります。

今までメリットを享受されなかったロングテール側にあった企業も採用マッチングを得やすくなったのが、大きな転換です。中でも一番シンボリックなのが、「障害者雇用」です。障害には「身体障害」「精神障害」「知的障害」の区分があり、障害のレベルも様々です。さらに現実のマッチングにおいては年齢による制約条件も加味されます。

現在の障害者雇用では、障害区分やレベルにより採用マッチングの需給バランスが不均衡になっています。このようにマッチング要件が細分化され、集積性の担保が難しい領域は、採用に至るまでに手間がかかり、収益も上げにくいため、人材サービス企業も積極的にアプローチしてきませんでした。

しかし、「AIテクノロジー×Webマーケティングの融合」により、人を介さずにローコストで最適化したマッチングが可能になると、このようなロングテール型の領域においても、従来では考えられなかった雇用拡大を生み出せるようになると考えられます。これと同様に、女性活用や中高年の就職、外国人の採用、地方や中小企業の採用などにおいてもプラスの効果が生み出されることになるでしょう。

こうした状況が進むことで、規模や知名度のハンデを突破して優秀な人材を確保できる受益企業も生まれる一方で、優秀な人材が確保できなくなり事業計画を達成できない企業も数多く出てくる可能性があります。

AIによる人と企業のマッチング分野のイノベーションは、企業にとっては、今まで以上に「人材に選ばれる企業」になれるかどうかが問われる局面を生み出すものになるかもしれません。

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