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リクルーティングのTHE MODEL化は、採用部門をどう変えるか?(後編)

前編では、セールスで「THE MODEL」が普及した3つの背景が、リクルーティングにも当てはまることを見てきました。

改めて3つの背景を振り返ると、

1.求職者が決定権を持つこと
2.採用担当に高スキルの要件が求められること
3.より効率が求められること

この結果、一人の採用担当がすべてをこなすことができず、人を増やすわけにもいかず、THE MODEL型の効率的でデータドリブンな分業体制が、今後リクルーティングにも浸透していくのではないかと考察しました。

そこで今回は、誰が、どのようにして「THE MODEL」での全体最適を図るのか。そして、リクルーティングで「THE MODEL」が浸透した時に、タレントアクイジションマネージャーがどんな役割を果たすのかについて、前編に引き続きCoupa株式会社 代表取締役社長の小関 貴志氏に伺います。Coupa社には、タレントアクイジション(TA)マネージャーが現在も在籍されており、その活躍ぶりやTA体制の可能性についてもお聞きしました。

インタビュイープロフィール

Coupa株式会社 代表取締役社長
ジャパン・クラウド・コンサルティング アドバイザー

小関 貴志 氏

中央大学経済学部を卒業、NECにて大手企業に対する法人営業に従事。2000年より、デルにてインサイドセールス部門や個人営業部、オンラインビジネスなどのマネジメントを担当。2007年からはセールスフォース・ドットコムにて、インサイドセールス部門の立ち上げ、セールス部門のマネジメント、セールスイネーブルメントの立ち上げを経験し、2014年からはマルケトの立ち上げに参画。アライアンス、営業、マーケティングなどのマネジメントを歴任。2020年1月よりジャパン・クラウド・コンサルティングに参画。2019年認定プロフェッショナル・エグゼクティブ・コーチ資格取得。

全体最適を図るには、各プロセスの担当者と話し合って合意をすること

桑田 まずお聞きしたいのが、「THE MODEL」における全体最適についてです。例えば、インサイドセールスでは最適化を図れていても、フィールドセールスやカスタマーサクセスなどの他のプロセス(職種)では外れている場合が出てくると思います。その場合、どのように調整しているのでしょうか。

小関さん それはシンプルに、話し合って合意することです。アポが取りやすいお客様がいたとします。いろいろと話はしてくれるものの、全く意思決定ができないと、営業として無駄な時間を使うだけになります。その反対に、社内では大きな決裁権を持っているが、アポがなかなか取れないという人もいます。他にも、競合がたくさんいる、要求レベルが高いなど、さまざまなお客様がいます。

でも、全プロセス(職種)にとっての最大公約数を考えるには、どこからスタートすればいいのかといえば「最後尾」のプロセスです。つまり、自社にとってライフタイムバリュー(LTV)が大きいお客様かどうかで、考える必要があります。契約いただいた後に売上が上がる。これが一番いいお客様であることには間違いありません。結果、アポが取りにくいかもしれないし、なかなか商談できないかもしれませんが、それを全体プロセスの中で合意しないと、営業からは「なんだこのアポは?」になりますし、ポストセールスからすると、「なんで、こんなの受注したの」ということになってしまいます。

桑田 なるほど。

小関さん ここでの合意は、書籍『THE MODEL』の最初にも出てくる『ザ・ゴール』の工場生産ラインの生産性を高める考え方と同じです。一連の工程の流れを滞留させず、いかにして全体のスループット、アウトプット、アウトカムを最大化させるのか。分業して、それぞれの生産性だけを高めてしまうと、「アポイントだけ」「商談数だけ」を最大化させてしまいます。そうすると、低価格の製品・サービスだけを購入するお客さんが増えたり、サポートコストが上がってしまったり。あるいは、解約が増えて評判が下がるといったネガティブなスパイラルになってしまいかねません。

桑田 そう考えると、リクルーティングも同じだと思います。会社にとって一番ネガティブなのは、退職した人の悪い評判です。間違えた人を取ってしまう→楽しくない→会社を辞める→口コミサイトやSNSに書く→評判が悪くなる→採用ができなくなる。こうした負のスパイラルに陥ることも、セールスとリクルーティングは共通しています。

全体を見ている経営層が判断し、「合意点」を探っていく

桑田 リクルーティングにおいても、ダイレクトリクルーティング担当、エージェント担当や代理店との渉外、メール作成代行などのように、チャネルや業務プロセスによって分かれています。例えば、それぞれの役割において、返信率や面接率の最大化だけを求めていると、採用部門では評価されますが、人の受け入れを行うHRBPからすると、「なんで、こんな人の面接が増えてるの?」ということにもなりかねません。自社に定着する人、継続して働ける人の採用をゴールとすれば、最適化されていないことが実際起こっています。

小関さん そうだと思いますね。

桑田 小関さんから見た時に、先ほどおっしゃった、他のプロセスの人たちとの「合意点」を探すのは、セールスでは、やはりイネーブルメントの仕事になるのでしょうか。

小関さん それは経営の仕事だと思いますね。部門長がいる以上、部門が対立するのはしょうがないと思います。営業部、マーケティング部、インサイドセールス部が分かれているのだとすれば、それぞれの部門が、ある程度、自部門の最適化に走るのはやむを得ない。さらに言うと、ファイナンスはそれを監視するために存在するので、売りたい営業部とディスカウントを抑えたいファイナンス部があった場合に、対立するのも致し方ありません。

でも、マーケティングと営業とインサイドセールスを統括しているチーフ・レベニュー・オフィサー(CRO)」が1人いれば、その中での最適化(合意点)は図ることができます。そうなると、今度はチーフ・レベニュー・オフィサーとチーフ・カスタマー・オフィス(CCO)が対立するかもしれません。でも、その上にCOOがいるのであれば、ある程度は調整できます。(実際は力関係があるので、そんなにバランスよく合意点を探せるか微妙ですが・・・)

しかし上位職の人たちは、それらをジャッジする義務があると思うので、「これを優先しよう」とか、「これで行こう」という意思決定は、両方見ている人が決めることになります。

桑田 健全な相反を生むのは、ガバナンス上は非常に大切なことだと思います。CROはわかりやすいのですが、CHRO(Chief Human Resource Officer/人事最高責任者)のリクルーティング(採用)領域の場合は、レポートラインがばらばらになっているので、複雑かもしれません。

リクルーティング領域には入社前と入社後があって、入社前に多く関与しますが、入社後になれば、配属された各部門に任せることになります。タレントアクイジションでは、HRBPという横断機能と接合させて、入社後と入社前を繋げて、一気通貫でマネージしていきます。

KPIやKGIを収入や評価から外し、モラルにのっとった仕組みにするのも一つの手

桑田 私もリクルート時代に体験しましたが、分業した職種にそれぞれ目標を持たせると、必ず非合理が起こってしまいます。ですので、その次の業務担当の目標への関与度を評価軸にして統合させる。採用でも同じようなことが求められてくると思います。

小関さん タレントアクイジションマネージャーのKGIとして何を設定するかが、肝になりそうですね。例えば、KPIを面接の件数にして、KGIは、採用者数(入社した人数)と、採用した新卒者の3年間の勤続率、もしくは半年後の部門からの評価を加えるといいかもしれません。

外資企業であれば、全てインセンティブベースで動きます。そうなると、「これは、私の評価対象ではありません」といったことが必ず起こり得ます。でも、日本企業の場合は、給料(収入)や評価がそこに反映しないのであれば、KGI、KPIによった動きは誘発されにくいと思います。

桑田 なるほど

小関さん モラルにのっとった仕組みにすれば、本来やるべき仕事ができるのではないでしょうか。そこが日本人(もしくは日本企業)の強みになり得そうですね。

桑田 そうかもしれません。日本企業の新卒採用において、将来金の卵になるかどうか分からない学生に対して、あれほどの労力をかけて、おもてなしができる風土は他国の企業にはないと思います。それゆえ、高度化していくであろう中途採用の領域でも、KGIを見失った機能最適にはなりにくいと思います。

小関さん そうですよね。

桑田 ただ、現場が高度化することを経営側は認識して、そこにいち早く手を打つことが肝要です。そうすれば、前編の小関さんの話に出てきた、大阪のネジ商社のように、今まで採用領域では弱者だった企業が、「THE MODEL」型の組織体制に取り組むことで、強者におどり出ることができるかもしれません。世の中で、今まで知られていなかった企業が優秀な人材を採用するなど、セールスでも起こったような逆転劇が、リクルーティングでも起こる可能性があります。

小関さん 5年前になりますが、私がマルケト(現 アドビ)に在籍していた頃、企業向けによく話していたのは、BtoBの商取引において、お客様はインターネットなどで情報を検索して、メーカーやサービス提供者に問い合わせる前に、意思決定の3分の2を終わらせているという話です。

リクルーティングで言えば、10社に資料請求を出すのではなく、自分で口コミサイトなどを参考に2社に絞って応募を出すようなものです。つまり、8社の企業は知らないうちに、応募先候補から落ちているわけです。「最近、応募率が上がった」と喜んでいるのは、単にターゲットとされる候補者から応募されていないだけかもしれません。

タレントアクイジションマネージャーに求められることは、「アクティビティ」と「相場観」

小関さん Coupaにも、1年前にタレントアクイジションマネージャーが入社し、彼女がジョインしてくれたおかげで、自社のリクルーティングのありようも大きく変わりました。

桑田 従来のリクルーティングと比較して、どのような変化があったのでしょうか。

小関さん 決定的に増えたのは、アクティビティ(活動量)です。「採用は営業です」というのが彼女の口グセなのですが、彼女はタレントアクイジションマネージャーとして、ものすごく仕事をこなしています。営業は、営業スキルやトーク力、商品知識など、求められる要素が多数ありますが、最も必要なのは「活動量」だと思います。一番売れている営業で、活動量の少ない人はいないからです。

彼女は、エージェントに依頼しながら、自分でダイレクトリクルーティングのスカウトメールを作って送りますし、ICPについて私や営業部長、さらに他部門長などと入念にすり合わせます。その中で、自社の知名度や職種の難易度を考えて、私や各部門長と交渉も行います。「小関さん、この状況だとその層は動かないと思いますが、こういう人なら可能性はあります」と、進言してくれます。

桑田 彼女は、これまで他社での採用経験はお持ちなのでしょうか。

小関さん 転職エージェントの経験がありますし、事業会社でのリクルーターやタレントアクイジションマネージャーとしても従事していました。それも、社員数10名程の立ち上げから、社員数2000〜3000名規模の企業まで、いろんな企業の採用業務を行ってきて相場観があるので、安心して任せられます。

桑田 それは心強いですね。

小関さん 企業としての成長ステージや採用状況に合わせて、私たちが求めるターゲット層(ICP)が1〜2カ月単位で変わっていくので、私と応募者との面接に一緒に入って、私の求める価値観やターゲット像などを理解してくれています。

桑田 昨年、御社は非常に高い採用目標を掲げ、それを見事に達成したとお聞きしています。いわゆるICPの最適化を、経営者である小関さんと部門長、そしてタレントアクイジションマネージャーで行ったのでしょうか。

小関さん そうですね。その時もタレントアクイジションマネージャーが採用の現場をリードして、候補者の絶対数を増やしてくれたので、円滑にPDCAを回すことができました。あと、ボトルネックになるようなプロセスがあれば、そこを潰すためのアクションを彼女が取ってくれたのも大きかったですね。

彼女が入社してすぐに、一時期面接の辞退数が多くなった時があり、コロナ禍でしたが、オファー面談は「対面で行いましょう」といった細かな障害を改善するためのアクションを迅速にとってくれました。それによって面接率がぐんと高まりました。

タレントアクイジションマネージャーは、経営層のパートナーとして欠かせない存在

桑田 タレントアクイジションマネージャーの仕事に触れてみて、今後ビジネスシーンにおいては、重要度が増していくと思われますか。

小関さん 間違いなく、重要なポジションになっていくでしょう。もう1個重要な要素があるとすれば、タレントアクイジションマネージャーが会社の魅力を伝える、候補者との最初の接点になることです。例えば、営業でいうとインサイドセールスが見込みのお客様と、自社のスタッフとして最初に接する人だとすれば、インサイドセールスの接し方次第で、お客様は次に進むかどうかが変わってきます。タレントアクイジションマネージャーもそういうポジションになっていくでしょう。

メールの書き方、喋り方、顔つきなどの接し方次第で、候補者はその会社に好印象を持つかどうかが決まってしまいます。だからこそ、しっかりと自社の魅力やバリューを分かった上で、セーリングできないと、その他大勢の企業のなかに埋もれてしまうことになってしまいます。それだけ、重要度の高いポジションだといえるでしょう。

桑田 セールスの『THE MODEL』でいうと、タレントアクイジションマネージャーはどの機能にあたるのでしょうか。

小関さん PRであり、リード(見込み客)を増やすインサイドセールスであり、クロージングをする営業です。社内のリソースを活用するのが営業の仕事だとすれば、タレントアクイジションマネージャーは、そこまでが業務範囲になると思います。

例えば、「この候補者は入社するかどうか迷っていて、現場の営業と話をする機会をつくりたいので、小関さん、1本メールしてくれませんか」といったようなことも提案できる存在です。

自社のタレントアクイジションマネージャーは、採用以外にも、入社した人と1on1を定期的に行ったり、自分の採用した人が事業部にフィットしているのかというところまでカバーしてくれています。それは彼女自身がHRBPに進みたいという意欲を持っているのもあると思います。でも、本来のタレントアクイジションマネージャーにはインサイドセールス的な要素は必要です。

桑田 小関さんがおっしゃったように企業によってはタレントアクイジションマネージャーがリクルーターのように最前線で動くことも必要だと思います。例えば、CRO的に全体の動きを見るような役割はいかがでしょうか。

小関さん 会社の規模によるのではないでしょうか。例えば、今後どういうお客様を増やしていくかは、営業次第です。それによって会社の基盤も決まります。そう考えれば、リクルーティングも、どういう社員を増やしていくかの入り口であり、基盤になることは考えられます。

優秀なタレントアクイジションマネージャーは、そのくらいの俯瞰的な視野で行動することが必要かもしれません。そのくらい幅広い責任を持つ仕事だと思います。

桑田 タレントアクイジションマネージャーは、経営者のパートナーとなりうるでしょうか。

小関さん 優秀な人材を採用できるかどうかで、事業計画が大きく変わってきます。経営と採用は切り離せない関係です。しかし、経営側は、自分たちが求める人材が採用市場にいるかどうかが分からないですし、求めるICPに自社が選んでもらえるのかも見当がつきません。その点、タレントアクイジションマネージャーであれば、採用市場や競合情報などの相場観をもって助言してくれるので、経営層にとってなくてはならない存在だと思いますね。

まとめ

今回、小関さんには「THE MODEL」を導入した際、誰が、どのようにして全体最適を図っていくのか。リクルーティングが「THE MODEL」化した際のタレントアクイジションの役割や可能性についてお伺いしました。対談の要点は、以下のような内容です。

●「THE MODEL」において、プロセス全体で最適化を図るには、各プロセスで話し合って合意すること。全プロセスの最大公約数をとるには、自社にとってライフタイムバリュー(LTV)が大きいお客様を考える必要がある。それはリクルーティングにも通じること。

●最終的には、全体をみている経営層(CRO/チーフ・レベニュー・オフィサー)が合意点を判断する。

●健全な相反を生むことは、ガバナンス上も重要。リクルーティングでは、タレントアクイジションマネージャーとHRBPとの接続が重要。

●KPIとKGIを収入や評価から外し、モラルにのっとった仕組みこそが、「THE MODEL」の全体最適を生む、日本企業の一つの形になるかもしれない。

●今後、経営層は、中途採用が高度化することを認識し早期に手を打つこと。それによって、弱者だった企業が強者に躍り出ることも可能になる。

●経営と採用が切り離せない今日においては、タレントアクイジションマネージャーは経営層のパートナーとして必要不可欠な存在になってくる。

様々な背景を考えると今後、リクルーティングにおいても「THE MODEL」型が普及していくと考えられます。それと連携して、タレントアクイジション体制が重要視されていくため、いかにそうした体制をいち早く整えられるかが、企業として勝ち残っていくためには肝になるでしょう。

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