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リクルーティングのTHE MODEL化は、採用部門をどう変えるか?(前編)

「THE MODEL」型の営業が普及しています。そしてそれに続いて採用業務も「THE MODEL」型化していくのではないか?様々な顧客課題に対する中でその兆しを感じています。

この兆しを深ぼることで採用業務のあるべき姿を展望するべく、「THE MODEL」型営業に知見を持つ小関さんと、Talent Aqcuisiotion Journal運営元であるInterRace株式会社代表の桑田良紀がディスカッションをさせて頂きました。

インタビュイープロフィール

Coupa株式会社 代表取締役社長
ジャパン・クラウド・コンサルティング アドバイザー

小関 貴志 氏

中央大学経済学部を卒業、NECにて大手企業に対する法人営業に従事。2000年より、デルにてインサイドセールス部門や個人営業部、オンラインビジネスなどのマネジメントを担当。2007年からはセールスフォース・ドットコムにて、インサイドセールス部門の立ち上げ、セールス部門のマネジメント、セールスイネーブルメントの立ち上げを経験し、2014年からはマルケトの立ち上げに参画。アライアンス、営業、マーケティングなどのマネジメントを歴任。2020年1月よりジャパン・クラウド・コンサルティングに参画。2019年認定プロフェッショナル・エグゼクティブ・コーチ資格取得。

採用もTHE MODEL型になるのではないか?

桑田 小関さんは、NECからデル・テクノロジーズ、そしてセールスフォース・ジャパン、マルケト(現 アドビ)と営業・マーケティングの最前線に携わってきた経歴をお持ちでいらっしゃいます。タイミングとしても、世の中の事業モデルが変化する、常に一番穂先にいらっしゃったので、小関さんの話を聞けば、世の中のセールスマーケティングがどう移り変わってきたかがわかると思っています。

小関さん DELL、セールスフォース、Marketoでは、これから日本市場を拡大していくタイミングに、営業マンとしてジョインしてきたので、セールス体制やマーケティングの変遷は自分自身で体感してきました。ですから、分かる範囲であれば、お答えできると思います。

桑田 ありがとうございます。2020年以降リクルーティングも、事業環境、労働市場の構造的変化から急速な高度化が求められていると感じています。個人的には、前職リクルートで営業企画部門長として2015年前後にセールス部門の急速な高度化を実現することを求められた時の様相に非常に似ていることを肌で感じています。これまで、日本企業のリクルーティングは新卒採用中心で形成されてきていて、中途採用はその補完という位置づけであり、日本特有に人材紹介サービスが発達してきた背景もあり、そこまで急速な高度化は求められてきませんでした。

小関さん 今のままで、十分機能していたわけですね。

桑田 そう思います。それが企業経営の環境がグローバル化、デジタル化により事業モデル変革の高速化が求められるようになったことで「即戦力採用」「新職種の採用」が求められ、その成否が優先順位高い経営課題になってきました。その背景からリクルーティングに求められるケーパビリティも、個社個別の課題に合わせた最適化サイクル、将来を見越した予測性能、経営への説明能力向上などが求めらてくる。日本のセールス部門が、この10年求めてきたことと同じ状況です。

小関さん 必要に迫られて、変わってきたというわけですね。

桑田 そこで、セールスの領域で起こっていることをバックキャストした時に、リクルーティングが今後どう変わっていくのかが予測できるのではないかと考えました。

小関さん なるほど。

アメリカでは、営業が体系的にまとまっており「営業を科学する」方法論があった

桑田 それこそ小関さんは、大ヒットベストセラーの『THE MODEL マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス』(翔泳社)(以下、『THE MODEL』)の著者の福田康隆さんとは、セールスフォース・ジャパン時代から、10年近く一緒に仕事をされていたようですね。本書の巻末にも、小関さんのことが「日本市場でマーケティングとインサイドセールスの新しいモデルを根付かせた貢献者だ」と評されていました。

小関さん ありがたい話です。『THE MODEL』に掲載されていましたが、著者の福田は、前職の日本オラクル時代に、アメリカに米国駐在員として派遣された際に、書店の本棚に「営業を科学する」方法論の書籍が豊富にあったことに衝撃を受けたようです。

なぜなら、当時日本では伝説の営業マンや、保険営業で億を稼ぐなど、営業個人がフューチャーされていて、法人営業についてロジカルに説明された本がなかったからです。

桑田 その違いはどこから生まれてくるのでしょうか。

小関さん アメリカは人材の流動性が非常に高いので、お客様やノウハウなどを人につけるのではなく、CRMなどのシステムを入れて、プロセスを数字で把握して、合理的に営業を行ってきたからだと思います。日本だと「終身雇用システム」に代表されるように、人材の流動性がそれほど高くないため、アメリカのように「営業を科学する」必要性がなかったと考えられます。

時代の変化とともに日本でも効率性が求められ、次第にTHE MODELが広がっていった

桑田 なのに、なぜ日本企業で「THE MODEL」が浸透していったのでしょうか。

小関さん 従来の営業は、一人で見込み客リストの作成からテレアポ、商談、クロージング、アフターフォローまで一気通貫で行うことが最も効率的でした。しかし買い手側の需要(デマンド)の減少等により、商品やサービスが売れなくなり、それによって、非効率なプロセスが出てきてしまいました。

桑田 それを最適化していかなければならなくなってきたわけですね。

小関さん そうです。その1つが、インターネットの登場により、買い手側が決定権を持つようになったことです。口コミなどの情報を収集して、事前に製品・サービスを検討できるようになりました。お客様にカタログを配布して営業していた頃は、お客様はそのカタログがなければ情報を入手できませんでした。それがネットで自由に情報を収集できるようになり、廉価な商品・サービスを購入できるようになったのです。

2つ目は、競合が増え、営業に対して高いスキルを求められるようになったことです。自社の製品・サービスだけでなく他社の製品・サービスについても知らなければならなくなり、最終的には機能・価値、活用方法などのソリューション提案が求められるようになってきました。そうなると、お客様の開拓からアフターフォローまでを、一人でカバーすることができなくなり、分業型のスタイルが広まっていったと思われます。

桑田 製品・サービスが多品種になり、お客様も賢くなったため、本来一人で全てを担当するべきだが、これまで以上に覚えるべきことややるべきことが増えてきたわけですね。それでは、よほどの能力の持ち主でない限り、務まりませんよね。

小関さん そうだと思います。それも人を積極的に採用できるのであれば苦労はしませんが、人をあまり増やさずに、事業を拡大する。効率的な営業が会社からの要望としてあるため、それなら営業戦略から変えるしかありません。これが3つ目の理由です。

桑田 ROIの観点で経営からも要請されたわけですね。それで、次第に日本のセールスも、分業化と可視化による効率化した組織づくりが求められるようになったということですね。

セールスとリクルーティングとの共通点とは?

桑田 お話を聞くと、セールスで要求されていたことがリクルーティングにも当てはまるように思います。

1つ目は、企業と求職者との情報の非対称性がなくなったこと。従来のリクルーティングでは、大学のOB会にしか出てこない求人案件や、大手商社出身だけを対象にしたオファーなど、企業側が情報の入手経路を握っていました。それがここ10年ぐらいで、外資系企業が情報を開示するリクルーティング手法を日本に持ち込み、キャンディデイトが事前に分かる情報が多くなってきました。そこに人材不足が加わって売り手市場となり、求職者が決定権を持つようになりました。

2つ目は、高スキル要件が求められること。従来であれば、求人メディアに広告を出稿していれば採用につながりました。それが人手不足になり、企業の求人ニーズ(デマンド)が増えてくると、メディアに出稿しているだけではなかなか応募者に出会えなくなってきました。それによってチャネルが求人メディアから、転職エージェントやダイレクトリクルーティング、リファラルに広がり、今ではオウンドメディアも。こうしたチャネルの複線化によって、採用担当も覚えなければならない知識やプロセスが複雑化し、高いスキル要件が求められるようになってきました。

3つ目は、リクルーティングはプロフィットを生まないため、セールス以上に効率を求められる点です。

このように、小関さんが話された3つの要請の点からも、リクルーティングが、セールスと同じような環境にあることが読み取れるように思います。

小関さん リクルーティングにおいても、今後大きな変革が求められてくるわけですね。

桑田 実際、今でもリクルーティング領域では、ダイレクトリクルーティングやエージェント、メール作成代行などのように、チャネルや業務プロセスによって担当が分かれています。それにATS(採用管理システム)を使って、業務プロセスを可視化するなど、「THE MODEL」型の採用が広がりつつあるとも言えます。

THE MODEL型になると、営業活動に専念できる一方、より生産性を求めることに

桑田 セールスフォース在籍中、セールス・イネーブルメント部門の責任者だった小関さんからみて、THE MODEL型に変わったことで、セールスにとってどのような利点がありましたか。

小関さん 純粋に営業活動に専念できるようになったことです。取れないアポを取り続けるわけでも、既存のお客様からのクレーム電話を受け続けるのでもなく、いい状態のお客様に会って、契約をとってクローズし、また次の案件に行ける。会社にとっても、見込み客や顧客にとっても理に適ったスタイルだと思います。

桑田 経営側からしても、ピュアセールスタイムに営業スキルを持った人材が注力できることで、より蓋然性高くプロフィットを産んでくれると期待できるようになったということですね。

小関さん そうです。その一方で、今まで1人でやっていたことを3人でやるとなった時に、3倍の生産性を上げなければなりません。そこでのせめぎ合いは、もちろんあります。だからこそ、各プロセスのモニタリングが重要になってくるわけです。

桑田 お客様にとっては、どのような変化があったのでしょうか。

小関さん よく活用事例として紹介されるお客様で、関西の東大阪にある中小のネジ商社さんがあります。このエリアは、転勤族が多い場所なので、そこに引っ越してきた奥様方がパートで働いて、何年か後には違う場所に転勤でいなくなり、別のパートが入ってくるというのを繰り返していました。

このように人の流動性が高いため、Salesforce CRMを活用して、オペレーション業務を明確にし、パートが辞めても業務が滞りなく流れる仕組みをつくりました。これによって、これまで社長がやっていたことも、パートにどんどん任せることができるようになり、お客様への提案や引き合いがあれば社長が対応できる時間が増えたことで、成約を上げていきました。

共通するICP(自社にとって最も理想的なお客様)を定義すること

小関さん これもリクルーティングと共通する部分かもしれませんが、セールス(マーケティング)では、アイディールカスタマープロファイル(Ideal Customer Profile/ICP)という「自社にとって最も理想的なお客様」の考え方があります。

桑田 リクルーティングでは「ターゲティング」や「ペルソナ」という言葉があります。

小関さん そうだと思います。BtoBだと、ICPとして最初に設定するのは、売上が大きくて、利益を出していて、資金を豊富に持っている大手企業です。そこから受注できれば理想的ですが、ただ本当にそれが現実的なのかを、マーケティングやセールスなどにかかる工数や競合の多さなどから考えていきます。例えば、業界を代表するような大手企業を設定しても、要求も大きく、失敗したら、大炎上になりかねません。一方、簡単に受注はできるものの、すぐに解約してしまうSMB(中堅・中小企業)もやはり違います。

桑田 そう考えると、決めるのは至難の業ではないですか。

小関さん おっしゃるとおり、これが意外と難しい。理想をどうしても追いかけてしまいます。

桑田 リクルーティングも同じですね。

小関さん そうですよね。東大卒で、コンサルティング経験がある20代で、素直な人がいい。でも、それを自社のICPと考えた場合に、はたしてリアリティがあるのか。それを見極めることが大切になってきます。

「採用は妥協してはいけない」とよく言われます。その言葉は正しいと思う反面、 それを捉え間違えると、採用市場にいない人を探し続けることになります。この設定が難しくて、自分たちもできていないなと思うことがよくあります。これは、セールスとリクルーティングの非常に大きな共通点で、スタートポイントになるのではなないでしょうか。

ICPは、半年〜1年で活動して、企業情報と個人プロファイルの観点から見つけていく

桑田 セールスでは、具体的にICPをどのように見つけていくのでしょうか。

小関さん 当社のようなBtoBでいうと、まず企業情報で見ていきます。例えば、「利益が出ている方がいいか、出ていない方がいいのか」「利益が伸びている方がいいのか、 売り上げが減っている方が狙いやすいか」「社員が増えている会社がいいのか、減っている会社がいいのか」といった観点です。

あとは、どういうITソリューションを使っているのか。例えば、初めてアプローチするのに、まだクラウド製品を何も使っていないとなると、「ハードルが高い」となってしまいます。反対に、いろいろなSaaS系サービスの事例に出てくる企業であれば、先進的な企業であると想定できます。

次に、アプローチする個人プロファイルです。担当者の部門、業種、役職です。このように企業や担当者の属性情報、企業の競合情報などの組み合わせで、半年から1年かけて営業してみて、ICPを見つけていきます。これをリクルーティングでも、しっかりと設定できるリクルーターは、大きな強みになると思います。

桑田 今のお話を聞いて、そこまでちゃんと意識的にできている企業って、そんなに多くない気がしますが、いかがですか。

小関さん 結局、ICPを一度決めても、実際はその通り動けない企業が多いです。なぜなら、ICPではないと分かっていても、大手企業の商談が来れば、勝率が低いと分かっていても、チャレンジしてみたくなります。なので、口でいうほど簡単ではありません。

桑田 しかし、まずやるべきはICP(最も理想的なお客様)を見つけることを自覚的に行うことですね。

小関さん その通りです。

桑田 リクルーティングでは、エージェントサービスが非常に発達してきたおかげで、これまで企業側は、ICPをそれほど意識しなくても、エージェントが連れてきてくれました。しかし、いよいよエージェントでも人材が採れなくなり、ダイレクトリクルーティングやリファラルなどを自ら行わなければならなくなり、自覚的にICPを見つけていくことが必要不可欠になってきています。

小関 意識してICPを設定することが、リクルーティングにも求められるわけですね。

まとめ

今回は小関さんに、セールスに「THE MODEL」が浸透した背景や、セールスとリクルーティングの共通点にお話頂きました。その内容を整理すると、

●日本のセールスに「THE MODEL」が普及した背景は、

・インターネットの普及により、事前に情報を収集できるようになり、買い手側が決定権を持つようになった

・競合他社が増え、さまざまな知識を身に付けなければならなくなり、営業に高いスキルが必要になってきた

・営業難易度が上がる中でも、経営側からは効率的な営業体制が求められた

●リクルーティングにおけるセールスとの共通点は

・企業と求職者との情報の非対称性が減り、人材不足もあって売り手市場となり、求職者が決定権を持つようになった

・チャネルの複線化により必要知識も増え、高スキル要件が求められるようになった

・リクルーティングはコストセンターであり、より効率が要請されていく

このように、セールスと共通した3つの要因によって、リクルーティングも「THE MODEL」型に変わっていくのではないかと予測できます。

また、アイディールカスタマープロファイル(Ideal Customer Profile/ICP)を決める点も共通しています。ダイレクトリクルーティングやリファラルなど、採用担当者自らが採用に取り組まざるをえなくなってきており、ICPの必要性はますます高まっていると言えます

後編では、「THE MODEL」では、誰が、どのようにして全体最適を図っていくのか。リクルーティングが「THE MODEL」化したときのタレントアクイジションの役割について、引き続き小関さんに伺います。

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