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宝箱

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#エッセイ

名前入りのホールケーキを、ずっと一緒に食べたかった

名前入りのホールケーキを、ずっと一緒に食べたかった

父が再婚してから生まれた弟妹たちの誕生日には、名前入りのオーダーケーキが毎年冷蔵庫の中に入っていた。

大きな白い箱に入った、2人の子供たちがそれぞれに好きそうな色味とデザインのケーキ。カラフルで、派手で、大きくて。それは今でも続いているらしい。

私はもうその光景を見ずに済む。
幸せを、見ずに済む。
見ずに済むように家を出たのが18歳の私だった。

父が再婚してから、はじめての私の誕生日。

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誰かが誰かの記憶を重ね合わせるひかりの一室になりたい

誰かが誰かの記憶を重ね合わせるひかりの一室になりたい

 強く短い雨が降ってレースのカーテンを開けたら家の前の団地のベランダには洗濯物がそのままになっていた。濡れたそれらを見た時その部屋に住む人は何を考えるだろう。今は日曜日の午後だから洗濯し直すことはきっと億劫で、明日から再び始まる仕事と共通してくくりだされる憂鬱をコンクリートにひろがる水滴の染みに重ねて悲しんだり苛立ちを感じたりするのだろうか。

 小さい頃から何もできなかった。クラスで自分だけ逆上

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