見出し画像

ロシアの漫画『サバキスタン』の本がでます。

今年の4月から日本での連載が始まったロシアの漫画『サバキスタン』の日本語版書籍、全3巻の刊行スケジュールが決まりました。
第1巻が8月9日で、そこから3か月連続で刊行します。

『サバキスタン』書籍化スケジュール

8月9日発売:サバキスタン 1
9月13日発売:サバキスタン 2 仔犬たち
10月11日発売:サバキスタン 3 裁判
A5変形【オールカラー】各1,800円(税別)
出版社:トゥーヴァージンズ

ティザー動画が公開されました。

ニュースはこちらです。
https://www.asahi.com/and/pressrelease/423947616/

予約も始まっています。日本全国いつでも買えるものではないと思いますので、よければご利用ください。
https://www.twovirgins.jp/book/sobakistan1/

実はというか、やっぱりというか、連載を続けていく間に、「これは紙の本で読みたい」という希望をいただくことが多かったので(もちろん私もです。皆さん、後押しをありがとうございます)、まずはそんな皆さんに喜んでもらえるかな、と安心しています。

今まさに制作の真ん中ですが、こうして作るからにはWeb連載や電子書籍と違って、ちゃんと「手に持ったときにいい気分になる物体」を目指したいので、そうできるように一同がんばっています。
表紙も画像の通りです。原書から何もかもを変えていて、日本版オリジナルです。

第1巻(予定)です。デザインは森敬太さんです。

ちなみに現在Web連載は月1回の更新なので、単行本が連載を大幅に追い越してしまいます。
Web連載でずっと、という方にはだいぶお待たせしてしまうことになります。すみません。連載のほうも続けられるうちは続けていこうと思っていますが、完結までとなると1年近くかかりそうです。早くまとめて読みたい方はぜひ、書籍で読んでください。

さて、今年の4月にWebコミックメディア「路草」での連載が始まってから、ありがたいことに新聞やラジオで取り上げていただけたこともあって、思ったよりもいろいろと反応をもらえるようになってきましたので、ここでもう少し詳しく、この作品について書きます。

※書いていたらなんだか長くなってしまいました。時間ある方のみお読みください。

○以前の紹介はここに。

この『サバキスタン』はロシア人漫画家のビタリー・テルレツキーとカティアの二人によって、2019年~2022年の3年間で作られました。
タイトルの「サバキスタン」とは、ロシア語で「犬」を表す「サバーカ」とペルシャ語で「国」を表す「スタン」を組み合わせた、直訳すると「犬の国」という意味。その名の通り、ほとんどのキャラクターたちは犬の造形で描かれています。

この作品は、本国ロシアでは出版社から刊行されているわけではなく、ビタリーさんの個人出版・同人レーベルである「テルレツキー・コミックス」からごく個人的に出されていたものです。

本作の特徴は、犬のキャラクター、独特のコマ割りやカラーリングなど、表面的な部分にも多くありますが、実際に読んでみて、最もすばらしいなと感じるところは、「全3巻の構成」にあると、私は思います。すこし説明したいと思います。

※ここから先、「ネタバレ」みたいなことはないですけど、先のあらすじや設定に少しふれますので、「まったく予備知識なしで読みたい!」という人は絶対に飛ばしてください。

まず、第1巻では独裁国家「サバキスタン」の体制やそこで暮らす人々の生活がどのようなものか、また国内にどんな問題を抱えているのか、といったことが数人の登場人物の目線で描かれていきます。
特に第1巻のクライマックス(エピソード6)では、独裁主義体制維持のためにリーダーである「同志相棒」がどんなことをしているのかが明かされ、さらに次なる展開が示唆されて巻を終えます。

7月13日に「路草」上で特別公開するサバキスタン2「仔犬たち」エピソード1は、単行本でいうと第2巻「仔犬たち」の冒頭話になります。
読んでもらえればなんとなくわかると思いますが、ここでの時代設定は1巻目のラストから一気に30年ほど飛んでしまいます。

先に言ってしまうと、「第1巻時点でのサバキスタンの国家体制が崩壊した後」、つまり旧国家の統制、管理社会制度が撤廃され、(表面的にかもしれませんが)「自由化された後のサバキスタン」なのです。

第2巻「仔犬たち」のあらすじをここに書きます。

あれから、何年が経っただろうか。かつて世界から孤立した独裁国家であったサバキスタンは、新たな政治体制となって社会は混乱、多くの国内問題を抱えながらも、表面的には平和な時代に入っていた。
サバキスタンの首都・ドゥルジヌイに住む好奇心旺盛で活発な小学生、ウーフとハニー・スイート・ラブのふたりは、ある日、「同志相棒」というモチーフの存在に気が付いた。それは随分と古いもののようだが、誰に聞いても教えてもらえない。
「同志相棒って、一体誰なの!?」真実を知りたいふたりは「同志相棒」の正体を突きとめるため、ある計画を実行する。
「真実」はどこに?誰の手に?小さな名探偵、ウーフ&ハニー・スイート・ラブの大冒険が今、はじまる!

「同志相棒って、一体誰なの!?」という疑問が大きなテーマになっていることから分かるように、政治体制が変わる際、「歴史が書き換えられている」状態なのです。封じられた過去となった「旧体制」について、ましてや「同志相棒」について語る人物は一人もいません。

登場するキャラクターもがらりと変わります。同志相棒やそれを取り巻く体制側のサバーカたちが忽然と姿を消しているのです。
第1巻から何が起こってそうなったのか、読んでいる方は想像するしかありません。

そして、最終巻である第3巻「裁判」では、第2巻からまたさらにおよそ20年が経っています。
内容についてはここでは触れませんが、第1巻から50年の歳月を経てもなお続く、ひとつの大きな禍根について語られる、法廷サスペンスのような内容になっています。

翻訳者の鈴木佑也さんは、「ロシアの若者が、自分たちの歴史をどう振り返り、どう評価しているかが、この作品を通して読むと、浮かび上がってくる」と新聞の取材時に言っていました。
また、「ロシアで暮らしてきた人にしか分からない肌感覚で描かれていて、ロシアを知るいいきっかけになる」とも。
この『サバキスタン』はシリーズ3冊を通してはじめて見えてくるものがあり、そういうふうに設計されている作品でもあります。
ぜひ、全3巻をまとめて楽しんでほしいな、と思います。

最後に、この作品は単純な善悪の視点で語れる作品ではありません。
現在のロシアとウクライナのこと、それに端を発する国際問題を前にすると、どうしてもこの本の存在を一方に強く押し込めてしまいそうです。もちろんそういう面はとても大きいし、戦争を強行するような独裁的な為政者に対する批判精神をベースに作られていますが、そうした独裁政治を痛烈に批判しつつも、一方で、そこに暮らす人々の描き方には、どこか憎めないチャーミングさがあり、貧しいながらも必死に生きている市井の人々、隣家に暮らす人々に対する愛情のようなものを感じます。体制側のサバーカ(まさに権力の犬!)の横暴さにすら、どこかフフッと笑ってしまうような可笑しみがあります。これは「生活の漫画」でもあるのです。

いつの時代も、どこにいても、この『サバキスタン』にでてくる多くのサバーカたちのように、力を持たない多くの人は世の趨勢に翻弄されて生きる以外にないでしょう。
特に今は、数年前なら想像もしなかったようなことが起きています。
この先どうなっていくのか見当もつかず、不安も多い中で、自分が守りたいことって何だろう、どういう世界で生きていきたいと思っているのか、子どもたちに残したいものって何だろうか。
この作品を読み終えて、私はそんなことをしばらく考えています。

とはいえ本作は、全3巻で構成された見事なエンターテインメント作品です。「娯楽としての漫画」という領域を一切踏み外していません。
まずは純粋に楽しく、「読んでよかった」と思えるようないい時間を過ごしていただけたら何より嬉しいです。
そして、完結まで読み終えたそのあと、好きになってくれた人たちがいたら、いろんな話を一緒にしたいと思います。
今からその時間が楽しみです。

第1巻。いろいろやっています。

【おまけ】
以前にも掲載しましたが、作者のビタリー・テルレツキー、カティア両氏から日本語版出版にあたってのメッセージを掲載します。

親愛なる日本の読者の皆様!

 『サバキスタン』が日本語で出版されることをとても喜ばしく思います。私たちが2022年3月にロシアを出国した際に、1年弱で私たちの愛する作品が日本語に翻訳されるとは想像だにしませんでした。
 『サバキスタン』は架空の話ですが、年月を経るごとにその話は現実味を帯びてきています。それはなんとも恐ろしいことですが、なんだか可笑しなことでもあります。
 サバーカは世界で考えだされた最良のものです。日本のサバーカはその中でも最高の一つでもあります。
 『サバキスタン』をお読みになって、ご自身の知るサバーカにこの作品を見せてあげてください。皆様のお気に召すかたちになることを願って。
(※編集注:彼の言う「サバーカ」とは「犬」の意味のほかに、「気のおけない仲間」「憎めない奴」みたいなニュアンスだと思ってください)

ビタリー・テルレツキー

親愛なる読者の皆様

 私たちはこの3年で『サバキスタン』を作り上げました。この3年間、私たちの生活も国の暮らしも、そして私たちの『サバキスタン』も大きく変わってしまいました。この作品に取り掛かるまさに最初の頃、3年後に『サバキスタン』にこのような大きな展開が訪れるとは考えてもいませんでしたし、日本の読者の皆様に向けてメッセージを発することになろうとも考えてもいませんでした。
 私や私の国、あるいは『サバキスタン』がこの先どうなるかわかりません。しかし、今私は日本にいることを嬉しく思いますし、この国で多くのことを学ぶことができると思います。というのも、日本の漫画は私にとって常に多大なインスピレーションの源泉だったからです。
 読者の皆様が私たちの本とこの物語の主人公たちを気に入ってくださることを願って。
どうもありがとう。

カティア

【作品情報】
『サバキスタン』
作:ビタリー・テルレツキー 画:カティア 翻訳:鈴木佑也
出版社:トゥーヴァージンズ
Webコミックメディア「路草」にて連載中!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?