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新連載『サバキスタン』のお知らせ

新連載のお知らせです。
普段はこういう告知みたいなことはあまり書いたりしないのですが、今回はかなり特殊な事例なので最初に説明があったほうがいいかもしれないと思いまして、ここに書きます。
端的に言いますと、ロシアからとあるコミックが届きまして、その日本語翻訳をはじめることにしたのです。
ちょっとだけ紹介しますので、よかったらお付き合いください。

その作品の名は『Sobakistan(サバキスタン)』(露語表記『Собакистан』)といいます。

【追記】2023年8月に本が出ることになりました!
単行本について詳しくはこちらに書いています。
https://note.com/inocotokyo/n/na06a3996c281

第1巻が8月9日に発売されます。日本版ブックデザインは森敬太さん。

ロシア語で「Cобака」(サバーカ)とは犬、「スタン」は中央アジア地帯で「国」を表す言葉なので、直訳すると「犬の国」となります。
原作はビタリー・テルレツキー、絵はカティア。
ともにロシア第二の都市であり、政治のモスクワに対して文化の中心地であるサンクトペテルブルク出身の漫画家です。
この『サバキスタン』、本国ロシアでは昨年末に完結したばかりで、個人出版ながら数万部を売り上げ、ロシア国内ではそのセンセーショナルな(反政府的な意味で)題材も含めて一部で話題になったようです。
※このあたりは日本語や英語で得られる情報が非常に少なく、著者との会話の中で得られた情報を書いております。

さて、気になる内容の紹介に入る前に、まず、その鮮烈なビジュアルをいくつか見ていただきたいと思います。

いかがでしょうか。見開きや扉のイラストカットが中心です。
鮮やかな彩色。迫力ある見開きとモザイク画。壁紙、衣服、街の造形、懐かしくもあり不思議な魅力を放つ社会主義の意匠。「犬の国」らしいチャーミングなキャラクターたち。

そして、ストーリー。
第1巻のあらすじを日本語で書きます。

永らく国境を閉ざしていた謎の独裁国家「サバキスタン」はある日、突如国境を開放した。偉大なるサバキスタンの栄華を世界に伝えるため、世界各国のジャーナリストたちが招かれた。
その日、同国では全国民から敬愛を受ける国父、リーダーである「同志相棒」の葬儀のリハーサルイベントが行われようとしていた。
サバキスタンの工場に努める女性・ハーモニーもその名誉あるイベントへの参加を許されたひとり。彼女は喜びと誇らしい気持ちを胸に会場となるスタジアムへと向かった。
同志相棒に招かれた世界的ジャーナリストのアンリ・パスカルもまた、宮殿内で同志相棒から歓待を受けていた。
すべてが豪華絢爛で見事に設えられた奇妙な空間の中、アンリ・パスカルはふと戯れに、庭にある一本の木の枝を折ってしまう。
その木は若き同志相棒が植樹した神聖なものであり、それを傷つけることは大罪であった…。
架空の独裁国家における不自由や弾圧、陰謀、歴史の改ざん。そして人々の真実を求める心、抵抗、愛する国への願い――。
迷える大国・ロシアから届いた、自由の意義を問いかけるアンチ独裁グラフィック・ノベル!

『サバキスタン』第1巻あらすじ

この作品は全3巻で構成され、架空の独裁国家「サバキスタン」の数十年に渡る興亡の歴史を、漫画としてこれ以上ないくらいポップに、エンターテインメントとして描きます。
ストーリーの土台となっているのは、彼らの母国・ロシアが辿った歴史。

以下は本作の日本語訳を担当するロシア建築の専門家である鈴木佑也氏(新潟国際情報大学准教授)のコメントです。

 『サバキスタン』は「サバーカ」という「犬」を表すロシア語と「〜スタン」という「土地」を表すペルシア語からなる造語です。犬といえば、「忠実」というイメージが浮かぶのではないでしょうか。一方で「ろくでもないやつ」という雑言のイメージもあります。『サバキスタン』はそうした「忠実な」サバーカと「ろくでもない」サバーカたちの織りなす架空の物語と言えます。
 ですが、この名称は中央アジアのいくつかの国家の名前をモデルとして、内容の基となっているのは20世紀のロシアの歴史であることは間違いありません。この国で社会主義体制時代人々はどのような生活を送り、体制崩壊後どのように暮らし、そして2000年代以降彼らがどのように自らの国の歴史を評価しているか。そのようなことを知ろうとする格好の物語であると思います。
 私たちをも巻き込んでいる現在の世界情勢から一歩退いてというのは難しいことかもしれませんが、別の観点からこの物語を読んでくださることを願って。

鈴木佑也

そして、作者のビタリー・テルレツキー、カティア両氏からも日本の読者にコメントがあります。

親愛なる日本の読者の皆様!

 『サバキスタン』が日本語で出版されることをとても喜ばしく思います。私たちが2022年3月にロシアを出国した際に、1年弱で私たちの愛する作品が日本語に翻訳されるとは想像だにしませんでした。
 『サバキスタン』は架空の話ですが、年月を経るごとにその話は現実味を帯びてきています。それはなんとも恐ろしいことですが、なんだか可笑しなことでもあります。
 サバーカは世界で考えだされた最良のものです。日本のサバーカはその中でも最高の一つでもあります。
 『サバキスタン』をお読みになって、ご自身の知るサバーカにこの作品を見せてあげてください。皆様のお気に召すかたちになることを願って。
(※編集注:彼の言う「サバーカ」とは「犬」の意味のほかに、「気のおけない仲間」「憎めない奴」みたいなニュアンスだと思ってください)

ビタリー・テルレツキー

親愛なる読者の皆様

 私たちはこの3年で『サバキスタン』を作り上げました。この3年間、私たちの生活も国の暮らしも、そして私たちの『サバキスタン』も大きく変わってしまいました。この作品に取り掛かるまさに最初の頃、3年後に『サバキスタン』にこのような大きな展開が訪れるとは考えてもいませんでしたし、日本の読者の皆様に向けてメッセージを発することになろうとも考えてもいませんでした。
 私や私の国、あるいは『サバキスタン』がこの先どうなるかわかりません。しかし、今私は日本にいることを嬉しく思いますし、この国で多くのことを学ぶことができると思います。というのも、日本の漫画は私にとって常に多大なインスピレーションの源泉だったからです。
 読者の皆様が私たちの本とこの物語の主人公たちを気に入ってくださることを願って。
どうもありがとう。

カティア

ロシア。
みなさんご存じの通り、昨年の隣国ウクライナへの侵攻から、全世界を巻き込んで大変恐ろしい状況になっています。国内でも政府による規制が強まり、言論・表現の自由が少しずつ奪われ始めているといいます。
ビタリーさんとカティアさんはともにそんなロシア国内で、このような政治体制への批判、風刺ともとれる表現活動を続けることが難しく、トルコを経た後、現在はかねてより何度も訪れ、慣れ親しむ日本に滞在しています。
(この『サバキスタン』の最終話が描かれたのは日本滞在時です)
急速に独裁色を強め、過去の負の歴史への回帰まで見え始めている危険な隣国・ロシアから届いたコミック作品。

この『サバキスタン』、2023年4月12日(水)よりWebコミックメディア「路草」(トゥーヴァージンズ)にて連載を開始します。
こういう出自を持った作品の連載って、日本ではなかなか機会がない(ほぼゼロ)ので、より多くの人に読んでもらって、感想をもらえたりするとうれしいですし、そういうことの積み重ねで長く続けることができます。
興味を持ってもらえたら、ぜひ楽しんでください。ぼくもとても楽しみです。
ちなみに本作は全世界で日本語が初めての翻訳出版。今後は様々な国の言葉に訳され、世界中で読まれていくことを願って。

【追記】2023年8月に本が出ることになりました!
単行本について詳しくはこちらに書いています。
https://note.com/inocotokyo/n/na06a3996c281

最後に、ロシアのインディーポップバンド、GROMYKAという音楽グループによる本作の公式テーマ曲だそうです。
こちらも面白いので、ご興味あればお聴きください。

GROMYKA - 'Sobakistan(To the funeral of Comrade Buddy)'

【作品情報】

『サバキスタン』
作:ビタリー・テルレツキー 画:カティア 翻訳:鈴木佑也
出版社:トゥーヴァージンズ
Webコミックメディア「路草」にて2023年4月12日(水)より連載予定

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