人生、いつでも「あの頃。」だ~映画『あの頃。』『14歳の栞』

私は50歳のオヤジだが、10代の頃はアイドルが好きだった(もう30~40年前になるのか…)。
別に「アイドルオタク」だったわけではない(当時そんな言葉はなかった)。
あの時代は、まさに「アイドル黄金期」で、多くの若者がアイドルたちに熱狂していたのである。
(以降、失礼ながら敬称略とさせていただく旨、予め断っておく)

さて、私事になるのだが…
以前の拙稿にも書いたが、中学2年の時に小泉今日子のコンサートを観て、その後の人生を決めるほどの衝撃を受け、コンサートにどっぷりはまることになった。
手元にあるコンサートパンフレットを順不同に挙げると、小泉今日子、島田奈美、佐野量子、斉藤由貴、南野陽子、浅香唯、うしろ髪ひかれ隊、工藤静香、渡辺満里奈、Wink…。
田舎暮らしのガキがよく行けたものだと、我ながら驚いてしまう。

社会人になって上京すると、観劇に夢中になり、しばらくはアイドルのコンサートから離れていた。
1993年に久しぶりに行った初代(篠原涼子や市井由理がいた)東京パフォーマンスドールの武道館公演で、周りのファン全員が「ヒューヒュー」言いながらピョンピョン飛び跳ねているのを見て、「時代は変わった…」と愕然とし、以降(アイドルの)コンサートに行かなくなり(実際は、その1ヶ月後の永作博美が最後。チケットが取れていたのだろう)、やがてアイドルそのものへの興味を失った(観劇は以降も変わらず、現在でも年間40~50本程度観ている)。

だから、モーニング娘。(以下、モー娘。)も初めは知らなかった。
ところが21世紀に入り、突如5期メンバー(2001年加入)に目覚めてしまった(たぶん、高橋愛の福井弁にやられたのだと思う)。
だが、2度ほどコンサートに行ってみて、30歳を過ぎた中年には馴染めず、2005年の石川梨華卒業の頃には、既に熱が冷めていた。

そんなわけで、結婚もせず50歳になってまで観劇に精を出すことになったのは中学2年生の時に衝撃を受けたコンサートがきっかけで、アイドルに興味を失ったのは、モー娘。がきっかけだったと、今にして思うのである。

既に900字近く使ってしまって何だが、そういえば、2021年2月23日にそんなことを改めて思い出させる映画を2本観た、ということを書こうと思っていたのだった。


『あの頃。』(@TOHOシネマズ渋谷)

1本目は、『あの頃。』(今泉力哉監督、2021年)という、ちょうど私がアイドルから覚める頃のモー娘。ファンたちを描いた物語だった。

私は原作を知らないのだが、映画自体はモー娘。ファンたちそのものがテーマではなく、そういう人たちを中心に据えた青春群像劇だと思った。
彼らは内輪受けの悪ノリイベントを開催し、誰かの部屋で飲み会をし、それぞれ別の誰かに小さな(でも悪趣味な)イタズラを仕掛け、そして仲良く連れ立って銭湯に行く。
その彼らを繋ぐ共通の話題(口実と言った方が近いかも)が、「モー娘。」という設定だっただけのことで、物語の構造自体はオーソドックスな青春群像劇だ。
それは決して批判ではない。
定型だからこそ、「あの頃。」の知識がない人でも安心して映画の世界に入れ、楽しめるのだ。

彼らを面白おかしく(時にしんみり)観ているうちに気づいた。
「あの頃。」は過去の思い出じゃなく、いつだって…今現在だって「あの頃。」じゃないか

たとえば、仲野太賀演じるコズミンの「生前葬」で、松坂桃李演じる主人公・ツルギが感極まって泣いてしまうシーン。
『何だか思い出しちゃって』と言い訳するツルギに対して、コズミンは『あの頃、おもろかったなぁ』と懐かしむ(この時の仲野太賀の感情の込め方はさすがである。思わず泣きそうになった)。
だが、感傷に浸ることなくコズミンは続ける。
『でも、今泣いてるお前もおもろいで』

終盤、ツルギは生前葬のことを懐かしく思い出す。
「あの頃。」を懐かしんだことも、やっぱり「あの頃。」として懐かしく思い出すことができる。

そう、『今現在がまさに、将来思い返す「あの頃。」』なのだ。
だから、今が迷い悩む時間の中にあって笑ったり楽しんだりできなくても、たとえ病に臥せっていても、その日その時を精いっぱい真剣に生きることが大切なのだと、映画の中の彼らモー娘。ファンが教えてくれる。


『14歳の栞』(@渋谷・シネクイント)

続いて、『14歳の栞』(竹林亮監督、2021年)の特別先行上映を観た。
この映画は、とある実在の中学校の2年6組に実際に在籍している生徒35人全員の3学期・50日間の日常風景とインタビューで構成されたドキュメンタリーである。

インタビューは、自己紹介、クラスや友達、部活動や将来の夢が主だが、それだけでも14歳の彼ら彼女らが日々どんな気持ちや悩み・迷いを抱えながら生きているか、ひしひしと伝わってくる。

それが、14歳という「あの頃。」がとっくに過去のものとなってしまった、子どもや世間に対して見せる「物分りのいいフリ」を身に着けてしまった、我々大人たちを混乱させる。

「35人の生徒全員」というのは、とても大事なことだ。

2年6組は、一見賑やかで活発な仲の良いクラスに見える。
しかし、各々違う考えを語る生徒35人のインタビューによって、その印象が「自分が解釈するための都合のいい幻想」だと気づかされ、愕然とする。
授業や部活動、登下校や家庭内など日常の映像と、それをバックに語られる生徒たちのインタビューの発言との乖離の中に、個々が語らず秘めているはずの悩みや苦しみを見てしまい、困惑する。

キャラ変したいけどきっかけが掴めない子、普段は友達と仲良くしているけど小学生時代に突然無視された経験の繰り返しを恐れ「早くみんなと離れたい」と漏らす子、プロのサッカー選手を目指す子、なれないと見切って「公務員になって、結婚して子どもは2人くらい」と達観している子、「自分を変えたい」と学級委員に立候補した子、車椅子の子、人にちょっかいを出してウザがられる子、人に干渉されたくない子、バレンタインにチョコを渡す女の子とホワイトデーにお返しを買って渡す男の子の気持ち、教師に淡い想いを抱く子、ずっと教室で授業を受けていない子、そして、そのきっかけを作ってしまったのではないかと自分を責める子…

「物分りのいいフリ」を身に着けてしまった大人からすれば、どの考え方も悩みも確かに幼い。「それは間違ってる」と思うこともたくさんある。
「あなた、自分の事わかってないよ」と言いたくもなる。

しかし、35人のインタビューを見ながら、大人は映画のチラシに書かれたコピーを思い出す。

『あの頃、一度も話さなかったあの人は、何を考えていたんだろう』

14歳の「あの頃。」
私たち(あえて、そう言わせてもらう)は、悩みや迷いは自分だけが抱えていて、周りのクラスメイトはアホみたいに幼稚で、何も考えず日々お気楽に生きていると半ば馬鹿にしていた。
自分より大人びた人を見て、悩まないで生きられるほど強い人だと勝手に思い込んで、羨ましく(本当は劣等感)思っていた。

もちろん、クラスメイトだってそれぞれの悩みがあることくらい頭ではわかっていた…つもり。
親しい友人たちと毎日たくさん喋り、時には悩み事の相談だってした…はず。それで、気持ちを共有した「親友」だと信じていた。
でも、矛盾するけれど「自分の気持ちは他人には絶対わからない」とも頑なに思っていた。

結局、何もわかっていなかったじゃないか。
話したことのない人どころか、仲が良かったはずの友達のことだって。
自分のことだって。
今だって自分のことがわかっていない。
スクリーンに映る中学生と同じじゃないか。

「物分りのいいフリ」が得意な大人自身、映画を観ている今現在でも「あの頃。」の渦中にいて、彼ら彼女らにかける言葉を持ち合わせていないことに気づき、動揺する

きっちり2時間の映画。何の事件も起こらない。
担任の先生は熱血だが、特別慕われているわけでも、嫌われているわけでもない。
生徒が吐露した思いが、観客が勝手に期待する都合の良い展開や結末に転じることもない。
淡々と3学期の日常が過ぎてゆき、あっさり2年6組の解散を迎えるだけ。
涙を誘う解散にはならない。
なのに、とても心に残る映画だった。
上映後、観客から拍手が起こった。


気分良く映画館を出ると、時刻は20時近くになっていた。
渋谷駅に向かう人々が、スクランブル交差点の信号が青になるのを待っていた。

私は14歳で受けた衝撃から覚めずに、観劇や映画鑑賞を続けてきた。
「現実を見ないで虚構に逃げている」と何度も言われたが、止めようと思ったことはない。
それ自体1mmも後悔していないし、今なお止める気にはならない。
しかし正直、14歳の時の衝撃を自身のアイデンティティにしてしまって、自分を縛り付けているだけではないか、とも時々思う。

そんな事を考えていた私は、雑踏の中にいるグループを見て、モー娘。ファンの彼らを思い出した。
彼らの楽しそうなはしゃぎっぷりを、2年6組の活発な教室と重ねた。
14歳の生徒たちは、この先何にでもなれるという希望でキラキラしていた。
そして気づいた。

今現在も「あの頃。」なら、自分もまだ何にでもなれるはずだ

だから、もし本当に縛られていると、そしてそれが苦痛だと感じたなら、縛りを解いてしまえばいい。
そんな日が来るかわからないが、それまで私は、将来「あの頃。」として懐かしむことができる今を楽しむだけである。

信号が青になった。私は雑踏に混じり、渋谷駅を目指した。


…などと書いている私にとっての「note」だって、所詮は虚構なのである。


※映画『14歳の栞』は、2021年3月5日から東京・渋谷のホワイトシネクイント(シネクイントではない)で公開され、3月19日から全国5都市(大阪、博多、名古屋、札幌、池袋)での上映が決定している。


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