亡き福本清三先生に捧ぐ~映画『侍タイムスリッパー』~
亡き福本清三先生に捧ぐ
まさにその言葉どおりの映画『侍タイムスリッパー』(安田淳一監督、2024年。以下、本作)は、池袋シネマ・ロサのサービスデーでしかも舞台挨拶が予定されていたため、平日19:50上映回にも拘わらず満席だった。
いや、サービスデーで舞台挨拶があるから、だけではない。
2024年8月中旬にこの映画館だけで公開が始まった本作は、今週末(2024年9月13日)から、全国100以上の映画館での公開が決まった。
つまり、映画自体が人気なのだ。
冒頭の「福本清三先生」とは、もちろん、京都太秦撮影所で「五万回斬られた男」と異名をとる「斬られ役専門」の大部屋俳優で、その斬られ方の美しさ(エビ反り)はハリウッド映画『ラストサムライ』(エドガー・ズウィック監督、2003年)でも映えた。
そして、チャップリンの映画『ライムライト』をモチーフとした映画『太秦ライムライト』(落合賢監督、2014年)で初主演を果たし、『ライムライト』のヒロイン・テリー同様、映画は今や日本を代表するアクション俳優の一人である山本千尋を誕生させた(以前の拙稿にも書いたが、劇中の「オダノブ」の殺陣シーンは何度観ても鳥肌が立つほどカッコいい)。
本作は、斜陽である太秦撮影所を舞台に、幕末からタイムスリップしてきた新左衛門が大部屋俳優の「斬られ役」として活躍し、やがてかつて有名な時代劇俳優だった風見恭一郎(冨家ノリマサ)主演の映画の敵役に抜擢される、というストーリーで、それはまさに『太秦ライムライト』のオマージュになっている(『太秦~』では、松方弘樹先生が演じる時代劇スター・尾上清十郎の敵役として抜擢される。『太秦~』に引き続き本作でも、殺陣師として峰 蘭太郎が出演している)。
本作中にも登場するこのセリフは。福本清三先生が遺した言葉で、『太秦~』劇中でもご本人のセリフとして登場する(ちなみに、本作中に刀を振りかぶりすぎた新左衛門に殺陣師が『後ろの役者に当たる』と直すシーンがあるが、『太秦~』でも山本演じる伊賀さつきが福本清三先生演じる香美山に直される。かように、本作は『太秦~』及び福本清三先生のオマージュになっている)。
本作序盤は、「幕末を生きていた”本物の”」侍が、現代の文明と「時代劇という"偽物の"」侍のギャップに戸惑う、といったありきたりのタイムスリップ・コメディーものとして楽しめる……ように見える。
しかし、全くのところ「ありきたり」ではない。
本作は、「笑いあり涙あり」ではなく、主演の山口馬木也が言うように『笑いの中に涙があります』。
『笑いの中に涙があ』るのは、山口演じる新左衛門が純情で一本気であるからだが、その和やかな雰囲気が中盤、風見恭一郎登場によって一変する。
クライマックスの殺陣シーンは手に汗握る。それは、新左衛門の提案によるものだが、観客はそれすらも「映画のギミック」であるとわかっているにも拘わらず、それを忘れて真剣になってしまう。
それこそが、本作と他の「ありきたり」なタイムスリップものとの大きな違いで、つまり、殺陣が「真剣」なのは、斬り合う二人に「史実に基づいた大義」があるからだ。
これ以上は書かない。
口コミだけでたった1館から全国100以上の映画館に拡大したという本作を、是非、映画館で観てほしい。
観終わった後、絶対に誰かに伝えたくなるはずだ(だから、一人ではなく誰かと一緒に観るのがオススメ)。
そうして本作は、さらに繋がっていく。
……と言いつつ、『繋がっていく』ということで1つだけ。
タイトルの『侍タイムスリッパー』って少し妙な気がすると思いきや、「タイムスリップしてきた侍」ではなく「タイムスリップしてくる侍」と考えればしっくりくる。何故「してくる」なのかは、観てのお楽しみ。
メモ
映画『侍タイムスリッパー』
2024年9月11日。@池袋シネマ・ロサ(舞台挨拶あり)
たった1館から全国100館以上へ。
あまりにも夢みたいな話であるのは、舞台挨拶に登壇した山口馬木也氏が「何故なんだろう?」と終始首を捻り続け、しまいにはお客さんに理由を尋ね始めてしまったことからもわかる。
福本清三先生は、2021年1月1日に逝去された。
ちなみに、劇中、時代劇のスター俳優だった風見恭一郎が時代劇を辞めて、『東京へ下りはった』というセリフは、恐らく京都の人たちが日常的に使っているんだろうと思って、クスっと笑ってしまった。
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