映画『このハンバーガー、ピクルス忘れてる。』(映画『違う惑星の変な恋人』公開記念1週間限定特別上映)

もぉ、本当にメンドーーーーーーーーーーックサイ!!!!!!!

映画『このハンバーガー、ピクルス忘れてる。』(木村聡志監督、2023年。以下、本作)、冒頭から終幕まで、この言葉が頭から離れない。

『違う惑星の変な恋人』から、前々作『階段の先には踊り場がある』まで、同じ世界線で展開する木村聡志監督による深夜ドラマが大好評につき劇場版として登場!
KCU(キムラ・シネマティック・ユニバース)入門編と言える本作。

という謳い文句の本作、要は、その2作品の登場人物たちが、そのまま登場しているのである。とはいえ、「スピンオフ」といったものではない。

2024年2月公開の『違う惑星の変な恋人』は2023年の東京国際映画祭で先行上映されたが、同じように先行上映された映画『彼方のうた』(2024年)で脚本と監督を務めた杉田協士氏は、『自分は、登場人物が"その物語の中だけ"で生きているのではなく、その前も生きていたし、物語が終わった後も生き続けていると考えて作品を作っている』と語り、実際、過去作の登場人物たちがそのまま出ていたりする。
本作も同様であり、2023年の話という設定の本作に登場するベンジーさんを通して、2022年という設定の『違う惑星の変な恋人』の登場人物たちのその後も窺い知ることができる。

本作は『違う~』とは異なり、明確なストーリーがない。あるのは「関係性」だけ。これをメンドクサイ会話(というか、ほとんど一方的な屁理屈)で説明していく。

ということで、私も「関係性」をメンドクサイ方法で書いてみることにする。

本作、冒頭から「先輩」(平井亜門)の「(男)性器」のメンドクサイ話に圧倒(ウンザリ)させられるが、それはアキ(石川瑠華)がバーで語るメンドクサイ「チンピラ」の話に繋がり、だから冒頭で振ったはずのアキが「先輩」と結婚するのは自然なことだった。
で、その「先輩」の職場でアルバイトをするなっちゃん(森ふた葉)が「下着の1回性」について絡まれるのは、『違う~』でモーがむっちゃんに「パンティ」の呼び方で絡むのに繋がる。
じゃあ、アキとなっちゃんは一方的に「先輩」に絡まれるだけかというとそうではなく、各々「先輩」と同じかそれ以上のメンドクサさで絡み返す(まぁどちらも元々「先輩」が悪いのだが…)。
で、そのメンドクサイ人たちのハブ役が、バーの店主・澤(まるぴ)である(胸ポケットにさりげなく挿したキャンディーをそっと差し出す優しさがたまらない)。

で、冒頭の"オチ"を知っていると、結局のところ多部ちゃん(手島実優)は純粋にいい人(何でイチイチ握手をしてしまうのだろう)で可哀想な人に見えるが、「別の映画の人たちもどこかで生きている」というKCUの論理で云えば、彼女(手島)演じる「ドロボウ猫の上に猫ドロボウ」沢口真実子も相当にメンドクサイ。
家飲みしながら必ずゲラゲラ笑ってしまうこのエピソードは映画『猫は逃げた』(今泉力哉監督、2022年。本作パンフレットには木村監督が自身の作品について『今泉監督的っていわれる』と発言している)のワンシーンであるが、この映画の脚本は城定秀夫氏によるものだ。

で、本作に失恋したなっちゃん(森)が澤(まるぴ)のバーで酔いつぶれるというシーンがあるが、森とまるぴは映画『放課後アングラーライフ』(城定監督、2023年)で共に「アングラー女子会」のメンバーだったのだ(まるぴ演じる椎羅しいらが釣具店を営んでいる「自営業一家」繋がりで、本作の彼女(と姉)も経営者なのである)。

他にも、「先輩」役の平井亜門は映画『アルプススタンドのはしの方』(2021年)、ベンジーさん役の中島歩は映画『愛なのに』(2022年)で城定監督と繋がっている(ちなみに『猫は逃げた』と『愛なのに』は、"L/R15"という企画で、今泉監督と城定監督が脚本と監督を交換して撮られた作品であるが、さらに云えば平井と中島は城定監督の映画『銀平町シネマブルース』(2023年)にも出演している)。

『愛なのに』もそうだったが、中島は観客からも「安定のクズ」と評されるほどクズ男の役が多いが、本作(と『違う~』の)ベンジーさんも、もちろんクズ男である。

ベンジーさん(だけでなく中島が演じるクズ男)がどことなく憎めないのは、(「陰気な食べ物と陽気な食べ物を挙げろ」なんていう無茶ぶりにも割と真面目に答えてしまうくらいに)「メンドクサさを引き受ける」ことをいとわないからだ。
いや、厭わないのではなく、基本的に彼は「人間同士の関係ってそういうものだ」と思っているのだ。

「メンドクサさを引き受ける」というのは、根本宗子作・演出(月間「根本宗子」)の舞台『今、出来る、精一杯。』(2013年初演)に登場するセリフだが、90分の本作を観ながら、ベンジーさんではないが「あゝ、本当に人間が生きるって、『メンドクサさを引き受ける』ってことなんだなぁ」と、しみじみ思った次第である。

そんな人間の本質(或いは諦観)を思い起こさせてくれるベンジーさんで終わった本編から、みらんが歌うエンディング曲に繋がっていく。
やっぱり、ナカヤマシューコは、ベンジーさんと別れて正解だったのだ。

メモ

映画『このハンバーガー、ピクルス忘れてる。』
2024年2月17日。@新宿武蔵野館(映画『違う惑星の変な恋人』公開記念1週間限定特別上映)

本文に挙げた「陽気な食べ物」のように、木村ワールドでは本来その名詞に似つかわしくない形容詞で議論する(「元気なキノコ」って……)といった、関係性の謎(というか、ある意味不毛)が繰り返されるが、登場人物たちの会話を聞いているうちに、我々観客の脳内がグラングラン揺れて、やがて気持ち良くなってくる。
終始ヘラヘラ笑い続けていた私は完全に中毒者だ。

さらに、「メンドクサイ」ついでに、「登場人物たちは、他の物語でもちゃんと生きている」というKCUの論理にならい、過去の拙稿を列挙しておく。

石川瑠華さん

平井亜門さん

中島歩さん(『いとみち』『銀平町~』以外は、ホントにクズ男)

平井亜門さん・中島歩さん

手島実優さん


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