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17歳の乙女心は止められない~映画『17歳は止まらない』~(カリテ・シネマコレクション2023 先行初上映)

映画『17歳は止まらない』(北村美幸監督、2023年。以下、本作)の本編90分ちょっと、随所で爆笑したりしながらも、心の中ではずっと、ドキドキ・ハラハラしながら観ていた。
いや、正直に言えば、モジモジしていた。

主人公の女子高生・瑠璃(池田朱那あかな)が、猪突猛進(と池田自身が発言している)、というか、止められない暴走機関車となって、大好きな教師・森(中島歩)に猛アタックをかけまくるという、超どストレートな昭和の王道ラブコメを奇をてらわず地で行く展開に、モジモジしていたのだ。

こんな超どストレートな展開、50歳を過ぎたオヤジにとっては、別の意味で刺激が強すぎるが、それでも物語の最初から最後までキチンと楽しめたのは、上映前の舞台挨拶に登壇した北村監督のキャラが腑に落ちたからだ。

舞台挨拶に登壇した北村美幸監督は、背が高くガッシリとした体格で、真っ黒のサングラスを掛け、鼻の下にヒゲを生やした男性だった。
本作は、東映ビデオ株式会社が立ち上げた、新たな才能を発掘する新プロジェクト【TOEI VIDEO NEW CINEMA FACTORY】で、現在公開中の映画『神回』(中村貴一郎監督)とともに選ばれた作品だが、北村監督は『名前も年齢も性別も偽って応募した。だから、選ばれた時は喜びよりも「どうしよう」という気持ちの方が強かった』と語ったのだ。
さらに、一緒に登壇していたメインの女子高生役の4人から『楽屋で付けヒゲを付け始めてビックリした』と暴露までされてしまう。

つまり、監督は「照れ屋」なのだ。
それは単なる人見知りということではなく、「自分の真面目な気持ちを、そのまま真面目に伝える」ことに照れてしまうのだ(「何気取ってんだよ」とか、心の中で自分ツッコミが入ったりする)。
まして、パンフレットによると1963年生まれ(私より年上)で、それまで主にAV(アダルトビデオ)を撮ってきた人間が、17歳の女子高生を主役にした青春(商業)映画の脚本を書いたのだ。

そりゃぁ、あそこまで振り切らないと書けないよな。
映画を見終わった私は、素直にそう思ったのだった。

もちろん、私のモジモジも、北村監督の「照れ」に通じている。
だから、物語の最初から最後までキチンと楽しめたのだ。

さらに言えば、監督の年齢やキャリアも重要なファクターで、こんな、今どき絶対見られない振り切った超どストレートな王道青春ラブコメが成立したのは、初書きの粗さはあるものの、それは決して、憧れ・情熱・観念だらけの「若書き」ではないからだ。

王道を突っ走るのは、実は主役の瑠璃だけで、他の人物や物語の設定、展開は、とても抑制が効いている。
だから、こんなに無茶苦茶な展開なのに破綻しないのだ。

まず、「農業高校の畜産科」という設定がいい。
本作の中で、瑠璃たち生徒が自分で選んだヒヨコを育て、最終的に絞めて食肉にするというシーンがある。また、出産に立ち会った子牛を育て出荷する(2本足の家畜は個人で絞められるが、牛や豚など4本足の家畜は個人でほふれない。本稿最後に挙げる拙稿を参照)。
さらに、瑠璃に惚れる高校生・マサル(青山凱)に、屠る行為を「残酷」だと言わせ、怒る瑠璃に「残酷だと思うのは勝手だけど、君が食べている肉は、どこかの誰かが育てて殺していることを忘れるな」と言わせている。
物語全体に、この理性が貫かれている。

また、瑠璃の仲間である、モモ(片田陽依ひより)、彩菜(白石優愛ゆあ)、くるみ(大熊杏優あゆ)のキャラの配分とバランスが、とても抑制が効いている。

抑制が効いていることで最大の効果を上げているのが、瑠璃と森、そしてマサルの関係性だ。
瑠璃は教師である森に恋することで「大人」であろうとする
だからこそ、瑠璃の森に対する気持ちを「一途な恋心」として描かない。
そこには、他人(くるみや上級生の女子たち)に勝って誰かの特別な存在になりたい、そのために森に自分を選んで欲しい、母親が彼氏の所に泊まりに行ってしまうことによる孤独を埋めたい、そんな母親の元から自立したい……そういった複雑な気持ちが、森に対する無茶苦茶な行動に走らせる。
そんな彼女が、同い年のマサルに対して『同じ年頃の男子が好きじゃない。幼稚でガサツでバカでうるさくて……チンパンジーにしか見えない』と暴言を吐くのは当然のことと観客を納得させた上で、それを森の顛末によって、「自分は単に"大人"であろうとしていただけで、本当の"大人"の世界は全然違うところにあった」と瑠璃を叩き落とす展開は、見事としか言いようがない(こんなドライな表現は、絶対に「若書き」ではできない)。
で、「チンパンジーが実は自分より"大人"だった」という展開は、世代を超えた男子の「ファンタジー」ということで、これもやっぱり王道ラブコメである(やっぱり、男子を描こうとすると「マジ照れ」が入ってしまうのが、北村監督のいいところ)。

17歳の瑠璃の「止まらない」のではなく「止められない」乙女心炸裂の本作をモジモジと観ているうちに、とてもスッキリした気分になったのである。
何だか久しぶりに、こんな一途な、でも爽やかなヒロインに会った気がする。

メモ

映画『17歳は止まらない』
2023年7月27日。@新宿・シネマカリテ (カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション®2023 先行初上映。上映前舞台挨拶付き)

表題の写真にもあるとおり、本作、2023年8月4日全国公開となる。
「カリコレ」特別先行上映が「初上映」とのこと。
これから公開されるということで、本文ではあまり内容には触れなかった。

なお、表題写真は、左から北村監督、白石優愛さん(彩菜)、池田朱那さん(瑠璃)、片田陽依さん(モモ)、大熊杏優さん(くるみ)

偶然だが、ここ1カ月ちょっとで、白石優愛さんが出演された映画を3本観た。で、嬉しいことに、ご本人も拝見することができた。


本文中で家畜を屠ることについて触れたが、詳しくは下記拙稿を参照のこと(本作では鶏を絞めるところは巧く処理されているが、下記映画ではその作業もしっかり映っている)


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