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映画鑑賞

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映画感想など
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#ドキュメンタリー映画

歌の力は凄い!~映画『ラジオ下神白』~

震災なんて無かった方が良かった。
もちろん、そのとおりだ。
2011年の東日本大震災では自然災害だけでなく、それ以上に、原発事故や復興計画・復興事業の混乱・不手際といった人災に被災者の方々は翻弄され続けた。
震災なんて無かった方が良かった。
もちろん、そのとおりだ。でも、震災も人災も起きてしまった。
それがどんなに理不尽なことであっても、その過去を変えることはできない。
とても不謹慎な言い方かもし

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映画『かづゑ的』

映画『かづゑ的』(熊谷博子監督、2024年)を観ながら何度も泣いたが、それは「かわいそう」という気持ちからでは全くない。
そこに、夫婦の、人間の、「何げない平穏な日常」が溢れていたからだ。

とはいえ、"ずっと”「何げない平穏な日常」だったわけではなく、恐らく、”やっと"手に入れた「何げない平穏な日常」なのではないか。

このドキュメンタリー映画の主人公・宮崎かづゑさんは、瀬戸内海に浮かぶ岡山県の

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映画『全身小説家』(UPLINK吉祥寺【気がかりな映画特集】)

映画『全身小説家』(UPLINK吉祥寺【気がかりな映画特集】)

「井上光晴」という小説家をご存じだろうか?
今の人なら、映画『あちらに棲む鬼』(廣木隆一監督、2022年)の白木篤郎のモデル、といったほうが伝わるかもしれない。

『あちらに棲む鬼』の原作(朝日文庫)は、作家の井上荒野氏が実父・光晴と瀬戸内晴美(現・寂聴)の関係を光晴の妻(荒野氏の実母)の視点から描いた「小説」である。

私はまたしても原作小説を読んでいないのだが、どうやら白木篤郎のドキュメンタリ

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映画『フジヤマコットントン』

観に来てよかった。

映画『フジヤマコットントン』(青柳拓監督、2024年。以下、本作)を観て、心から思った。
それは、本作が山梨県甲府市にある障害福祉サービス事務所「みらいファーム」で働く障害者の方々を扱ったドキュメンタリー映画だから、ではない。
いや、「だから」と言ってもいいのかもしれないが、それは決して、障害者の方々への同情でも憐みでもなく、ましてやネット上の批判を恐れたが故の言葉選びでもな

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「何でも」を真正面から受け止めること~映画『その鼓動に耳をあてよ』~

何でも診る

「医者なんだから当たり前じゃないか」
そう思うかもしれない。でも「現実」はそうじゃない。
激務やそれに伴う人不足、成り手不足……「現実」の理由はいくらでも挙げられる。
しかし、本当の「現実」とは、「何でも」が実は何も意味しない曖昧で空虚な言葉だ、ということではないか?

映画『その鼓動に耳をあてよ』(足立拓朗監督、2024年。以下、本作)を観て、「何でも」の広さと深さに驚愕した。

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