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シニアになって働く意味を考える㉓ ~“天職”というのはどこかにあるもではない~

定年前後のシニアに「働くことの意味」についてインタビューした記事です。一人一人のインタビューを積み重ねて、「働くことの意味」のスペクトラムを描こうと思っています。目指すは100人インタビュー!今回は23人目です。


半導体製造の技術者から、51歳で新規事業を立ち上げるマーケッターへ転身

 Tさん(61歳2023年時点)は、51歳で(10年前)転職した半導体材料メーカーのマーケティング部門に勤める。社外に広い人脈網を持ち、いつでも約100人に声をかけられると言うから驚く。これを武器に新規事業を次々と立ち上げてきた。
 転職前は半導体製造の技術者として(大卒後から)23年間のキャリアを持つ。半導体製造は600〜800工程もあると言われ、Tさんは半導体の性能を大きく左右する製造工程のまとまり全般の専門家で、社内でも一目置かれる技術者だったという。

“天職”というのはどこかにあるもではない

 大卒後、地方工場の技術者としてキャリアをスタートし、8年目(36歳)に本社設計部門に異動。ここで部門長から「(地方工場で担当していた工程AとBだけでなく)、もっと幅の広いプロセス設計・設備技術、材料選定を担当し、誰にも負けない専門家になるように」と業務命令がくだる。(著者感想:これはなかなかキビシイ!本社へ異動していきなり、周囲の協力なしではやれない大きな仕事を任されるなんて。)
 Tさんの労働観を聞いてみた。「基本的にものづくりは好きではなかったんです。ただ、“天職”というのはどこかにあるもではないと思っていましたし、たまたまこの(与えられた)仕事を”自分の天職“にしようと思った」と言う。そして「狭い分野でもNo.1になれば楽しい」と思ったそうだ。

誰にも負けない専門家になる方法は?

 “その筋のNo.1”になるためにやったことは?を聞いてみた。
 「最終製品になった時に、製造工程Aはどんな製造法がいいのか?その前後の工程、いやもっと広い目で工程全体を見た時に、工程B, C, D...はどうあるべきか?をいつも考えていました」「全部の工程を見て、例えば工程Aをどうするか?」などなど。
 このアプローチで、Tさんは成果を出し続けるのだが、ここに思わぬことが起きる。「日の丸半導体」は世界的競争力の低下でリストラ時代に入る。個人の力ではどうしようもなく、早期退職制度を使って現在の会社(半導体材料メーカー)へ転職することになる。

転職後も“天職”にする(ダジャレじゃなく)

 「仕事人生満足度曲線」を描いてもらいました。


 「工程全体を見て、あるA工程に何が必要か」の半導体設計で得た思考癖は、転職先の仕事・マーケッターでも発揮される。扱う半導体材料はニッチな商材。どんな機能や性能が必要かは、製造工程のサプライチェーンを知ることだと言い、日本国内のみならず海外へも積極的に出かける。そして、材料の専門知識にプラスして、その材料に関わる人的ネットワークでも誰にも負けないようになる。
 この「友だち100人戦略」(著者命名)で、新規事業を立ち上げるというTさんの新しい“天職”ができあがる。

「友だち100人戦略」のコツは?

 「徹底したギブ」と「ギブアンドテイクのスパイラルです」と。ギブした相手からもらえるテイクだけではない。Tさんの懇切丁寧な信頼の高いギブは、別の人にギブされ、さらにまた別の人にギブされてと、どんどん伝わって行き、いつのまにか全く別の人からテイクされることがあるそうだ。
 ついにはニッチな半導体商材を求めて世界中からコンタクトしてくる存在になってしまった。(すごすぎる)

定年後は?やっぱりニッチ分野でトップに

 現在勤めている会社は62歳が定年。もうすぐだけどどうするの?と言う問いにTさんは「(年金がフルに出る)65歳まで働いてきっぱり辞める」と。「雇用延長か、もう一度転職するかまだ決めてないけど」と言う。
 65歳までの残り3年間の就労のことより、引退後のTさんのプランが具体的で明確だった。「今もその準備に時間を相当費やしているが、早く本格的に始めないと時間が足らない」そうです。ここでもニッチ分野でのNo.1がキーワードでした。(その内容については述べません)

「オレ、何で働いてるの?の図」

 著者の勝手な指標で作った「オレ、何で働いてるの?の図」を作ってもらいました。Tさんのは、こんな感じです。

 Tさんのこの労働観は、潔くて気持ちいいですね。インタビューの内容通り、目的とその戦略がはっきりしていて動機に迷いがないっていう感じです。爽快です。

「働くモチベーションの6つのカテゴリー地図」(初めての試みです)


 「学習のモチベーション」を描いたマップ(参考文献は下図に記載)を参考に、「働くモチベーションの6つのカテゴリー地図」というのを作ってみました。Tさんがどこに位置するのか図示してもらう。
 Tさんの働くモチベーションは「仕事自体が楽しい」、ついでにおカネが儲かればなお良い、です。繰り返しますが「たまたまこの仕事を”自分の天職“にしようと思った。狭い分野でNo.1になれば楽しい」の言葉が印象的です。

後記:


 実はTさんの人的ネットワークの中に私(著者)も入っていました。確かにいっぱいギブをもらっていました。とっても役立っていますし、今回のインタビューでもたくさんのギブをもらいました。なので、別の人にテイクしなきゃいけません。これは現代思想で言う「他力の哲学や中動態」のことではないかと思いました。
 余談:本投稿のテーマからちょっと外れるので本論に書かなかったことを記します。大卒後からの一貫したTさんの仕事のスタイルが、「直属の上司の仕事を奪うことを意識的にやり続ける」だそうです。「最初は上司から重宝がられるが、仕事を奪い尽くすと、いつの間にかその上司は職場からいなくなる」という恐ろしいことを聞きました。
 仕事はいつまでも同じことをしていてはダメなのですね。常に研鑽していかねば、強く思いました。合掌!

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