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【毒親連載小説 #21】父とわたし 2

家庭の経済状況は徐々に
苦しくなっているようだった。

それは当時、民族学校に通っていて
学費が私立並みに高かったのだが、
その支払いが度々遅れるようになったり、
中学から弟だけ日本の学校に通うことに
なったことから感じるようになった。

日本の学校に変わったことで弟は
とてもショックを受けていたことも
よく覚えている。

父はこの時期から、
お金のことになると表情を曇らせ、
苦虫を噛み潰すかのようにブツブツと
文句を言い始めるようになった。

私は父のそんな表情を見るのが
ものすごく嫌だった。

あの頃はまだ私の好きな父に
迷惑をかけたくなかったことも
あったと思う。

そんなことから私は高校からは
都内のファストフード店で
アルバイトを始めるようになった。

週に数回の数時間のアルバイト。

初日は「ラウンド」と呼ばれる
雑用から始まった。

都内の人通りの多いこの店舗は
いつも人でごった返していた。

店内はすぐにゴミで溢れ返り、
仕事は山のようにあった。

1時間もしないうちに
ゴミ箱はパンパンになり、
ゴミ袋を何度も取り替えては、
重たいゴミ袋を運び出す。

そして、隙間時間には
汚くなったテーブルを手早く拭き、
お客さんがジュースをこぼせば床掃除…。

必死でそんな対応をしていると、
いつの間にか時計は
高校生が働ける21時をとうに過ぎていた。

アルバイト初日の帰り道、
私はあまりにもくたくたで、
帰る気力も湧かず
思わず道端でしゃがみこんでいた。

そして、近くの自動販売機で
ジュースを買い、それを一気に
飲み干しながらしばらくボーッと
座り込んでいた。

自分では割と
体力はある方だと思っていたが、
さすがにあの肉体労働は堪えた。

それでも私は
どこか充実した気持ちもあった。

「私でもお金をちゃんと稼げる」

それが、あの頃の私にとっては
何よりも自信だった。

私にとってこのアルバイト代は
単なるお金というよりは、
大事な私の血と汗の結晶であり、
私の自尊心そのものだった。

アルバイト先で私は一番年下で、
私はコミュニケーションを
取るのも苦手だった。

時々、顔を合わせる
年上のフリーターの先輩に
なんとなく冷たい態度を
されることもあった。

それは、もちろん
気分のよいものではなかったけれど、
そんなことより私には
自由に使えるお金が必要だったし、
家庭内暴力や両親の喧嘩に比べたら
こんなことはどうってことなかった。

だから私はとにかく黙々と働き続けた。

そんなある日のことだった。

(つづく)

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