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【毒親連載小説#43】中国渡航編 1-3〜起死回生の道〜

あの時、
私は授業の準備をするために
事務所で教案を書いていたと思う。

その時、とある人物が突然
私たちの事務所にやってきた。

彼は脱北者だった。

なぜ、彼がここにきたかというと
私が当時勤めていた外国語学校は
田舎町では最も有名な場所で
地元のローカルテレビではいつも
この学校のCMが流れていた。

私は当時「外教(外国語教師)」
として撮影され、
このCMに出演していたのだが
このCMを見た彼は
ここに日本人がいるなら
亡命の手助けをしてもらえるのでは?
と思い、藁をも掴む思いで
ここにやって来たようだった。

聞けば、この地域は
北朝鮮との国境も近く
脱北者が逃げてくるのは
珍しくなかったようだった。

実際に地元の中国人の先生たちは
冷静に私たちにこう囁いた。

「相手にしなくていい」

その冷静さが私には
いささか冷たく感じていた。

また当時、
この学校には私の他に
男性と女性、それぞれ一人ずつ
外国語教師がいた。

その2人のこの脱北者に対する
意見や態度は全く正反対だった。

女性教師の方は顔をしかめながら

「面倒なことに関わらない方がいいよ。
 私たちにできることなんてないよ。」


と迷惑そうだった。

方やもう一人の男性教師は
年齢が私よりも年上で
とても正義感が強いタイプ。

「何か方法があるかも。
 どうにか助けてあげよう」

当時、外国語教師の中で
最も若かった私は
この二人の正反対の意見に挟まれながら、
一体、どうすればよいのか混乱していた。

同じ民族の人が困っている。

そんな気持ちが強かった私は
男性教師の意見を支持し
私にできることは何かないかと考えてみた。

人は窮地に追い込まれるからこそ
出てくる知恵というものがある。

私はまさしく
この窮地に立たされた状態だったのだが
突然、とある人物が私の頭の中から
ひょこっと思い出されたのだった。

(つづく)

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