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【毒親連載小説 #8】母とわたし⑥

私の家族円満という望みも虚しく、
両親の喧嘩は何日にも及ぶこともよくあった。

ある日の夜もまた、
あの激しい夫婦喧嘩が始まり、
父に全身で思い切り掴みかる母と、
それを振り払おうと
母の髪の毛を引っ張る父の姿があった。

ゼェゼェと荒い息を吐きながら
髪の毛を振り乱し

「殺せ!!早く殺せ!!!」

と鬼のような姿で叫び続ける母…。

「お前なんか殺す価値もない!!」

そういい返しながら、
その手を振りほどこうとする父…。

しかし、
振りほどこうとすればするほど、
母はいつまでもしぶとく
父にしがみついて離さなかった。

また、ある時は
取っ組み合いの喧嘩で
髪の毛を振り乱し
ぐちゃぐちゃになった母。

「もう死んでやる!!」

と叫び続け、
包丁を振り回したり、
これみよがしに
包丁でリストカットすることも
もはや我が家では日常茶飯事だった。

日常的に行われていく
両親の狂気的な喧嘩に、
頭ではもうこれ以上
反応したくないのだけれど、
それでもこの状況にたまらず
布団の中で縮こまり、
私は声を押し殺しながら泣き続けた。

そうやって事態が収まるのを
ただ黙って待つほかなかった。

母の腕に残った無数のリストカットの跡。
母の静脈の部分に傷はほとんどなかった。

なぜなら、母は死ぬ気は全くなかった。

母のリストカットの目的は、
父にそれを見せつけ、
父がいかに自分に悪いことをした人間なのか?

そう父に罪悪感を植え付け、
コントロールすることが目的だったからだ。

母の左腕の甲についた
無数のリストカットの跡。

何十年経った今でも、
しっかりと残っていることだろう。

(つづく)

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