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疾走、桜花獣旋風。 3/4 #こちら合成害獣救助隊

【前回】

少し考えてから、あたしは無言で少年にサムズアップした。「アマガサ」もたぶんこういう事するはずだ。再び迫りくるサメ型キメラに向き直り、あたしはマントを翻して突進する!

ホホジロザメ型キメラの恐ろしく発達した豪腕が容赦無く鉄拳を振るう。「本物のアマガサ」ならきっとスーパーパワーの鎧が守ってくれるんだろうけど、あたしが着てるのはヒーローショーの衣装だ。絶対に殴られたくない。あたしは回転しながら鉄拳を避け、すれ違う勢いのまま相手の脚と頭に二段蹴りをお見舞いする。着地と共に反転し、向き直ったサメ型の頭部へ飛び膝蹴りを叩き込んだ。

そのまま着地せず手刀を繰り出そうとして、あたしの背筋に悪寒が走る。攻撃を諦めて相手の身体を蹴り離れた瞬間、あたしの居た鼻先の空間はキメラの両手で押しつぶされた。合掌の音が響き渡る。あっぶな。

河川敷に痕を残しながら着地したあたしは、半身になってサメ型キメラを見る。まるで効いてない。やっぱり装備無しでこのタフネスを削り切るのは骨だ。だけど、今はそれが目的じゃあない。ちらりと上流を見やる。ワニ型キメラがバーベキューエリアまで侵入しようとするのが遠目に見えた。

あたしは軽くステップを踏むと、地を這うような姿勢でサメ型キメラの懐に飛び込み、腹部に掌打を打ち込む。そしてそのまま相手の脇腹を蹴って上流へ飛び離れた。空中でマントを翻しながら、あたしは挑発的に手招きをする。サメ型キメラは怒りとともにあたしを追いかけてきた。鬱陶しいでしょ。そう、キミたちの相手は、あたしだけだ!

扇さんの避難誘導放送が流れる中、ワニ型キメラは無人のテントやタープを引きちぎりながら暴れていた。近付いてよく見れば、足の数が異常に多いし、バッタみたいな脚も生えてる。サブ因子は昆虫だ。この子もいつ人混みに向かっていくかわかったものじゃない。だけど全力スプリントで急行してはいけない。追いすがってくるサメ型キメラに「逃げられた」と思われたら何の意味もないのだ。

テント破壊に唐突に飽きたワニ型キメラは鼻先を堤防側に向ける。くそッ、まだ打撃の間合いじゃ無いッ。あたしはパルクール機動の中でひっくり返されたゴミ箱から空缶を拾い、ワニ型キメラへ狙いを定める。野生の本能が瞬間的に急所を見抜くと、あたしはそこを避けて空缶を全力で投擲した。

唸りを上げて飛んでいった空缶は、ワニ型キメラの強固な背鱗に跳ね返されて明後日の方向へ消えていく。ダメージは無い。だけど、あの子の注意は確実に引いた。2発、3発。つのる苛立ちが爆発し、ワニ型キメラの咆哮が響く。よし、この子も釣れた。そういえばだんだん思い出してきたけど、「アマガサ」は銃を使うんだった。これで少しはそれっぽく見えるかな。

そのまま同じ要領でイカ型とアザラシ型の敵視も受けたあたしは、川面側のグラウンドへと4体のキメラを誘導した。ヒーロースーツの中を滝のような汗が流れる。呼吸も苦しい。当たり前だ。それでもやるしかない。部長達が来るまで、あたしが食い止めなきゃだ!

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SYAAAAAAA!!!!

アザラシ型キメラはダチョウのようにしなやかな脚と、爬虫類のようなシッポを備える恐竜のような姿をしていた。つぶらな瞳は感情の動きを伝えず、ただただ虚無の表情であたしに尻尾をぶつけにくる。

身を捻りながら沈み込んでそれを避け、重心の乗ったアザラシ型の脚を払った。土埃を上げて倒れるアザラシ型を越えて殺到するイカ型の触手をバックフリップで回避。空中のあたしにワニ型の巨大なアゴが迫る。スラスター噴…違う!あたしは空中で強引に身体を捻り、ワニ型の噛みつきをすんでのところで避けた。

ぐい、と引っ張られる感覚。「アマガサ」のマントが噛まれている。即座に脱ぎ捨てて着地。日差しが遮られた。上。見てる暇はない。あたしはゴロゴロと転がり、隕石衝突のようなサメ型のストンピングをやりすごした。息つく暇もない。

正対したサメ型の奥に控えるアザラシ型が起き上がり、あたしではなく堤防側へ向き直る。違う、あたしを見ろッ!連続で振り下ろされるサメ型の鉄拳を紙一重で避けながら、あたしは歯噛みする。更なる追撃。あたしは覚悟を決めてサメ型の拳に両脚を合わせる。打撃の勢いに逆らわず鉄拳のカタパルトから射出された。痛い、痛い、痛い!気合と悲鳴が混ざり合った叫びをまとい、アザラシ型キメラにショルダータックルを打ち込む。ダメージの蓄積が無視出来なくなってきた。もう、みんな、早く来てッ!

そんな弱音を吐こうが、キメラ達の攻撃の手は止まない。他でもない、あたしの選択だ。避ける。避ける。蹴る。避ける。突く。避ける。避けられない。耐える。あッ、ぐっ。

そしてついにあたしの脚をイカ型の触手が捉え、圧倒的な膂力を以てあたしは全力で振り回されて投げ飛ばされた。くそォッ!

凄まじい勢いで川面から飛ばされる。遠くに見えていたコンクリートの堤防斜面が迫る。いくらあたしでもそのまま激突したらただでは済まない。受け身タイミングからキメラ誘導の再開までいくつものパターンを構築する。よし、これで行おゴッ

脇腹にめりこんだのは、捕獲ユニットのエアバッグ。混乱するあたしを包み込むように拡がり、ぼよん、ぼよんと堤防の道の上を跳ねて止まった。うっえェェ。最悪。エアバッグに包まれて何も見えない中、がしゃんがしゃんとけたたましい機械音がやってきて、あたしはエアバッグごと持ち上げられた。部長のパワーローダーだ。

《おいレイ。生きてるか?》

「…遅いし、いま死にかけた。」

《他に思いつかなくてな。全く無茶しやがって。》

堤防を越えて運ばれたかと思ったらまたもやぼよんぼよんと跳ね飛ばされる。ゆっくり置いてよ!

エアバッグから這い出した先は救助隊の輸送トレーラー内だった。奥のハンガーにはあたしのアーマースーツがアイドル状態で鎮座している。よし。

《じゃあ俺は前衛に戻る。お前もさっさと来い。》

「人使いの荒いこと。りょーかい!」

がしゃがしゃと前線へ復帰する部長を見送り、あたしはトレーラーの扉を締める。「アマガサ」のヘルメットを脱ぎ、その顔を見つめた。あちこちへこんで傷だらけだ。弁償、自腹だよね。ありがと、ヒーローさん。

ぶるると頭を振ったあたしはヘルメットを置き、素早く耐圧耐刃インナーに着替えてハンガーにもたれる。インナーの端子を接続。認証。四肢の先から体幹へと装甲に覆われていく。最後に無貌のヘルメットが装着されると、四肢に向かってネオン光の筋が無数に走った。装着完了。開け放たれた扉から舞い込む桜の花びらをまとい、あたしは全速力で飛び出す!仲間も来た。鎧もある。ここからだ!

【続く】

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