見出し画像

疾走、桜花獣旋風。 2/4 #こちら合成害獣救助隊

【前回】

水の音、波の音、そしてそれらが弾ける音。その方角、遥か遠くの川面に水柱が立ち上がり、巨大な影が躍り出た。ええと…サメ!ワニ!イカ!…アザラシ?これは自信無い!

「扇さんッ!出動掛けて!救助対象、大型4!」

「どこ?!え?!」

「あっち!バーベキューエリアのあたり!」

「えぇぇ…?!うわっホントだ!大変!」

あたしの視力が見ているものを、扇さんも懐から取り出した双眼鏡で把握した。水中から飛び出してきたキメラは4体。ベースになっている動物は全部海洋生物だけど、どれも四肢なりなんなりが生えててしっかり陸上に適応してる。前に相手取ったクマ型キメラに比べたらいくらかサイズは小さい。だけど、いくらなんでもタイミングと場所が悪すぎる!

「ちょっとレイちゃん!待ちなさいッ!」

飛び出す寸前だったあたしの裾を扇さんが掴んで止める。

「顔!あなた顔隠せるもの無いでしょ!」

「………!」

「…おもむろにフード被ったってダメよ!飛び回ったら脱げるでしょそんなの!」

わかってるよ!キメラのあたしに救助活動が許されてるのはアーマースーツで身元を隠してるからだ。鎧の中身に猫耳が生えてるなんてバレたらどうなるか。あたしはあらゆる意味でイレギュラーなんだ。だけど!

「…なんとかゴマかすから!手配お願いッ!」

それが誰かを見捨てる理由になんてなるもんかッ!

あたしは扇さんを振り切って、茂みの中を全力で駆け出した。

------------------------

GRAAAAAAAAA!!!!!!

キメラの雄叫びが響き渡り、付近の市民はパニックに陥った。キメラ達は広い河川敷に散らばり、思うがままに暴れては出店を潰し、バーベキュー用の肉を喰らう。

恐慌状態で人々が逃げ惑う中、青山リョウジ・カナエ夫婦は息子ケイタの手を離してしまった。再び見つけた時、彼は豪腕を備えたサメ型キメラの前で泣きじゃくり動けなくなっていた。

名を叫ぶ。しかしその声は怒号と叫声にかき消されて届かない。リョウジはカナエの叫び声を背に、人の波に逆らって駆け出す。それを嘲笑うかのようにキメラも歩みを早めた。

やめろ、やめてくれ。間に合ってくれ。リョウジはどうにかキメラよりも早くケイタの元へ辿り着いた。しかし眼前に迫る恐怖を前に、リョウジの足は完全に動かなくなってしまった。

怯えるリョウジたちにキメラは暴威の塊のような腕を振り上げる。逃げられないと悟ったリョウジはせめてケイタだけでもと、その身体を庇うように抱きしめた。ケイタはお気に入りのヒーロー玩具を握りしめて祈るように泣いている。ごめんな、パパはヒーローみたいにうまくやれない。

だがしかし、サメ型キメラは何かに反応して振り上げた腕をもう一方の腕と共にクロスさせる。リョウジがそれに訝しんだ瞬間、白い旋風が親子を飛び越し、サメ型キメラのクロスガードに蹴りを叩き込んだ。凄まじい衝突音が響き渡った。

身にまといしは白い鎧に煉瓦色の胸当て、雨合羽の如き白いマント。それは、少年の持つ玩具と瓜二つの姿をしていた。

「…アマガサ?」

------------------------

あたしの蹴りを受けたサメ型キメラはやや間合いを取った。今あたしは河川敷で催されてたヒーローショーから勝手に拝借してきたフルフェイスコスチュームに身を包んでいる。なんだっけなこの白いやつ。あんまり詳しく無いんだよね。

サメ型キメラが再び攻撃してくる前に、あたしは後ろの親子を担ぎ、様子を見守っていた一団のところまで運ぶ。

「ケイタ!あなた!」

「青山さん逃げよう!こっちだ!」

よし。あとは任せよう。

「アマガサーッ!ありがとー!」

母親に抱かれて去っていく少年があたしを見て叫ぶ。そうだ、このヒーローそんな名前だった。朝やってる。なにか応えてあげたかったけどボイスチェンジャーが無い。少し考えてから、あたしは無言で少年にサムズアップした。「アマガサ」もたぶんこういう事するはずだ。再び迫りくるサメ型キメラに向き直り、あたしはマントを翻して突進する!

【続く】

ゲスト参戦パルプ

桃之字=サン、快諾してくれてありがとう!

こちらもオススメ



ええもん読んだわ!と思ったらぜひ。ありがたく日々の糧にします。