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疾走、桜花獣旋風。 4/4 #こちら合成害獣救助隊

【前回】

開け放たれた扉から舞い込む桜の花びらをまとい、あたしは全速力で飛び出す!仲間も来た。鎧もある。ここからだ!

《おとーさんおかーさん!アマガサ、いろかわってる!
あたらしいフォーム!》

堤防道路に上がったあたしのセンサーが聞き覚えのある声を拾う。たぶん避難途中のさっきの子供。そういえばヒーローは色が変わって強くなるんだった。全然似てないと思うんだけどな…。

彼方の現場を見やる。4体のキメラ達は部長達に包囲されて未だグラウンドにいた。よし。3秒で接敵出来る。あたしはスラスターを閃かせ、弾丸の如く現場へと跳んだ。一陣の風にでもなったような感覚に包まれながら、あたしはアザラシ型へ一気に接近。相対する田辺さんのパワーローダーへ尾の一撃が迫る。割り込み、腕を添えて投げ飛ばし、地面に叩きつける!

大量の泥が舞い上がる刹那、あたしは網膜に映る麻酔弾解析進捗を確認する。サメ型以外コンプリート。よし、使える!みんな分析ありがと!あたしは足元のアザラシ型に視線を戻す。論理トリガーで腕部アーマー展開。麻酔弾をバンカーに装填。下段正拳突き。手応えあり。圧縮空気が噴き出し、アーマーのモールドが緑に輝く。舞い散る泥が落着した。

《田辺さん!あとお願い!》

田辺さんに後を託し、あたしはイカ型キメラに突進する。うねうねと触手をくねらせるイカ型は西村さんと井岡さんが2人がかりで行く手を阻んでいた。あたしの急接近に感づいたイカ型キメラは2人の刺又から触手を離し、またもやあたしへ触手を殺到させる。そう何度も捕まるもんかッ。

あたしは前傾姿勢で跳躍し、ライフル弾のように横回転。両脚先の高周波ブレードの軌跡がランダムな二重螺旋を描き、迫りくる触手先端の吸盤部位だけを切断していく。触手の包囲を脱し懐に潜り込んだあたしは、そのままイカ型キメラに麻酔弾を叩き込んだ。あたしにもっと速さがあれば触手を斬り落とす必要もなかっただろう。だけどそれを悔いるのは後!残り2!

状況確認。奥にワニ型、手前に吉野さん機、そしてあたし。よし。あたしは吉野さんに向かって疾走。巨大なパワーローダーを踏み台にしてワニ型の頭上へ大きく飛び越す。ワニ型はバッタを思わせる強靭な脚でその巨体を垂直に打ち上げ、空中のあたしを逃すまいとその顎門で捕らえにくる。

《吉野さん!》

「任せろォ!」

地上から一斉に飛来したボーラワイヤーがワニ型のアゴを縛りつけた。更に胴体、脚が次々と縛り上げられていく。お見事。落ちていくワニと目が合う。もう少し我慢してて。あたしは着地と共に走り出す。墜落したワニ型に吉野さんが麻酔弾を撃ち込むのが見えた。あと1!

サメ型はその豪腕で部長のパワーローダーと殴り合いを演じていた。大型マニピュレーター装備の格闘戦仕様相手に、なんてタフネス。サメ型キメラの連続フックで部長のガードが崩され、追撃の右拳が迫る。

《させないッ!》

あたしは全力スプリントから跳躍し、空中回し蹴りをサメ型の右拳に叩き込んだ。鈍化した主観時間の中であたしの左脚とサメ型の右拳が鍔迫り合いを演じる。拮抗、反発、いいや、まだ押し込む!スラスターオン!

CRAAAAAAASH!!!!!

GYAIEEEEEEEEE!!!!!

輝くあたしの左脚はサメ型キメラの拳を押し返し、そのままその巨体を大地に沈めた。蹴り抜けたあたしは残光を纏いながらそのまま更に回転し、地面に激突した。ぐえ。

詰めの甘さに辟易しつつ起き上がり残心する。倒れて痙攣するサメ型は部長機が抑え込んでいた。麻酔も精製完了表示。あたしはサメ型キメラに歩み寄り、麻酔弾を装填した右腕を引き絞る。ごめんね。でも、これでおしまい!

救助対象、全て確保。
以て救助、完了だ。

…つかれた。めちゃめちゃつかれた。あたしはその場に倒れ込む気満々だったけど、ふとさっきの子供の声を思い出し、よろめく両脚に力を込めた。皆もう安全なところに避難してる。わざわざ危ないところに引き返して見てるわけがない。それでも、あたしは今ヒーローなんだと言い聞かせ、胸を張って現場を後にした。

救助したキメラの分離処置は上手くいくだろうか。どんな形でも、どうかこの後は元気に暮らしてて欲しい。恐い夢は終わったのだから。

不意に風が吹き、桜の花びらが舞い上がっていった。

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《…不審な生き物の痕跡を見かけたら、触らず、最寄りの交番まで、ご連絡ください。…こちらは開明(かいめい)市役所です…》

よく晴れた堤防道路を歩くあたしと扇さんの横を、市の広報カーが追い抜いていく。もうちょっと危機感を出して欲しいんだけどなぁ、と扇さんがぼやき、あたしは苦笑した。

足元にはきゃいきゃいと騒ぐ小型犬の群れ。今日はこの子達の散歩を引き受けている。やたらと元気だった子は案の定疲れ切ってしまい、まったく歩かなくなってしまった。しかたないなぁと、あたしはその子の前にしゃがみ込む。よーしよしよし、そんなところもかわいいね。ひとしきり撫でまわしてからその子を抱き上げた。

スーツ拝借の件は、やっぱり部長にとても怒られた。だけどあの大立ち回りを番組関係者が見ていたらしく、彼らは大喜びだったらしい。…アーマースーツアマガサ、登場しちゃうかな。そうなったら、あの子もあたしの人形で遊んでくれたりするかもね。元気かな。

すっかり葉桜になった桜並木の下をあたし達は進む。なぜか今日はずっと平和な気がする。鼻歌は初夏の空へ消えていった。


【こちら合成害獣救助隊「疾走、桜花獣旋風。」終わり】

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