5分 de 読む『古今和歌集』入門【3分の2まで無料】
『古今和歌集』とはどのような古典作品なのか、そのあらましや魅力を5分で読めるテキストにまとめました!
『古今和歌集』の概要・選者
『古今和歌集』は905年に編まれた勅撰和歌集です。
タイミングとしては、894年に菅原道真の提言で遣唐使が廃止された直後となります。遣唐使が廃止された要因はいろいろありますが、そこには、日本の政治や文化の体制がある程度整ってきたからという側面もあります。そうした国風文化の成長を示すものとして打ち立てた金字塔が、この『古今和歌集』であるといってよいでしょう。
醍醐天皇の勅命によって紀貫之、紀友則、凡河内躬恒、壬生忠岑が選者として編纂に当たりました。
選者の中でも『土佐日記』の紀貫之は有名です。彼の歌は『古今和歌集』にたくさん入っていて、全部で1100首の『古今和歌集』の歌のうち102首が紀貫之の歌というほどです。
古今和歌集ここがスゴイ!
『古今和歌集』の何がすごいのかというと、やはり最初の勅撰和歌集としてその後の和歌文学の規範・お手本・ルールになったというところです。
たとえば、部立や配列です。
「1100首の歌をどんな風に並べるか?」にはいろいろなやり方があり得ます。歌の頭文字によっていろは順に並べる方法もあり得たでしょうし、詠み手の生きた時代順に並べるとか、歌が詠まれた順に並べるとか、詠み手の階級別とか、色々なやり方があったと思います。
しかし、『古今和歌集』は四季の歌や恋の歌、そして旅の歌である羈旅の歌、人の死を悲しむ哀傷の歌など、歌の内容をベースにして歌を部立に分類しました。
さらにいえば、四季の歌や恋の歌に関しては、時間の流れを味わえるように配置しています。春の歌でいえば、まず暦の上で立春を迎えたところから、梅が咲いて、桜が咲き始めて、桜が散り、そして山吹や藤の時期になる、そんな季節の流れが味わえるように配列されています。
この分類・並べ方などは後世の和歌集のお手本となりました。
百人一首でも100首中24首が『古今和歌集』の歌であるなど、その存在感が際立っています。『古今和歌集』から約100年後に書かれた『源氏物語』の中でも、『古今和歌集』の歌が100首以上本文に引用されています。
紀貫之が描いた序文「仮名序」も後世に影響を与えました。
これらのフレーズはよく引用されます。
さらに、「仮名序」で言及された6人の歌人、
僧正遍照
在原業平
文屋康秀
喜撰法師
小野小町
大友黒主
は、今日でも「六歌仙」として有名です。これらの形で後世に大きく影響を与えたのが『古今和歌集』なのです。
吉田裕子の古今和歌集お気に入りポイント①日本人の風流の認識に影響
吉田のお気に入りポイント1つ目は、『古今和歌集』が平安時代以降の人の「何を美しく思うのか?」という感性に大きく影響を与えてきたという点です。
たとえば、興味深いのが夏の巻です。
春や秋は2巻あるところ、夏は1巻のみで、収録歌数は34首ですが、その34首にはどのようなことが詠まれていると思いますか?
私たちの今日の感性では、「夏」といえば、熱いとか、入道雲とか、夕立とか、汗をかくとか、ヒマワリが咲くとか、日焼けをするとか、海で泳ぐとか、そういうイメージだと思います。
しかし、『古今和歌集』の夏の巻は34首のうち28首まではホトトギスの歌になっています。とにかく「夏といえば初夏のホトトギス」なんですね。
この影響力は凄まじくて、ホトトギス以外の夏の題材、私たちが思い浮かべるような夏の題材がたくさん詠まれるようになるのは、江戸時代、俳句が隆盛となるまで待たねばならなかったほどです。それぐらい和歌の感性として「夏はホトトギスだ」と『古今和歌集』が決めてしまったわけですね
「何を歌に詠むべきか?」
「対象をどんな風に描くべきか?」
こうした風流心のベースの部分をかなり規定したのが『古今和歌集』です。
和歌に限らず、芸術を理解しようと思ったときに、「その芸術が今までの作品と比べてどう新しいか?」という比較が鑑賞のポイントになるケースは多いです。
和歌の場合、まずは『古今和歌集』という基盤を知っておくと、「あっ、普通、夏ならこれを詠むのに、この人はこれを詠んでいる。新しいな!」とか「普通は女郎花という植物を詠むとき、こういうところに注目して詠むのに、この歌はこの角度から詠んでいる。新しいな!」とか、後の時代の歌の新しさを知ることができます。
こうした比較理解のためにも、まずは基本として『古今和歌集』の題材の選び方や詠み方を知っておくことが役に立ちます。
吉田裕子の万葉集お気に入りポイント②言語芸術としての和歌のスタート
吉田が気に入っているもう1つのポイントとしては、「文学・言語芸術としての和歌」に踏み出したばかりの人たちの興奮ぶりがあります。
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