駆け出し百人一首(13)亡き数に思ひなしてや問はざらむまだ有明の月待つものを(伊勢大輔)
亡(な)き数(かず)に思(おも)ひなしてや問(と)はざらむまだ有明(ありあけ)の月(つき)待(ま)つものを
後拾遺和歌集 雑三 1004
**訳:近ごろ訃報が相次いでいるから、私も死んだと思っているの? それで逢いに来ないの? 私はまだ生きているわ。こうして有明の月が出るのを待つかのように、あなたからの連絡を何ヶ月も待っているのに……。
Do you think that I have already been dead? If not, I cannot understand why you haven't come for several months. I'm alive here, waiting for your letter.**
詞書は「世の中騒がしき頃、久しう音せぬ人のもとにつかはしける」。恐らくは995年頃の歌。この年、関白・藤原道隆が糖尿病で亡くなり、その弟の道兼も疫病(麻疹)で関白になって僅か7日で逝去。このとき、政権中枢の上達部14人の内8人が亡くなっています。
その時代状況に寄せて、連絡の途絶えた人に送った和歌です。恋の歌のように訳しておりますが、後拾遺和歌集の雑の巻に入っているので、友人や親戚宛てのものかもしれません。
和歌の修辞法
まだ有明の月待つ:掛詞。「まだ在り」(まだ生きている)と「有明の月」、「月(が出るのを)待つ」と「(何ヶ)月(も)待つ」が重なり合っている。
文法事項
思ひなしてや問はざらむ:「や」から「む」に係り結びの疑問。
ものを:逆接の接続助詞。「ものから」「ものゆゑ」と同じ。
古文単語
思ひなして:「思ひなす」は「見なす」と同様の語。
問ふ:訪問する。見舞う。手紙などで連絡を取ることにも使われる。
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