ガンバレ!女性心理職−「育児」編−
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1.心理職は2種類の世界を生きている!?
心理職は、クライエントさんの人生において起きる問題の解決や改善を支援することが仕事だ。その点で、「クライエントさんの世界」に深く関わる立場にある。しかし、心理職は、仕事とは異なる場においては、「自分自身の世界」を生きている。
心理職が心理支援の仕事で関わるのは「クライエントさんの世界」である。もう一方で、心理職自身の現実は、その「心理職自身が生きている日常世界」である。その点で心理職は、2種類の世界を生きている。
大学の学部や大学院では、問題行動や障害を「クライエントの世界」で生じる出来事として学ぶ。心理職が心理支援で扱う「クライエントの世界」は、対象化された向こう側の世界だ。臨床心理学の学習においても、クライエントさんが抱える問題を、自分事ではなく、“他人事”として学ぶ。資格試験も、「あなたは、このようなクライエントの問題をどのように理解し、対処しますか」という設定で、出題が作成される。
では、本当に心理職が扱う問題は、他人事なのか? 向こう側の世界の問題なのか?
2.資格試験で覚えたモロー反射に直面した心理職
3.モロー反射とは
モロー反射は、生後 0〜 4か月頃までの赤ちゃんが外部の危険から自分の身を守るために起こる反応だ。産まれて間もないころは危険の予測が難しいため、あらゆる外部刺激に対して反応してしまうのがモロー反射である。たとえば、乳児の頭を正面に向けて少し起こし、その後に急に頭を下げると、びっくりしたように両手を広げ、指もすべて伸ばして開き、続いて何かに抱きつくような動作を示す。
モロー反射は、乳児には生来備わっている原始反射だ。原始反射とは、外部からの刺激に対して反射的に反応する動作である。赤ちゃんの原始反射は、多くの場合、とてもカワユイ※)。でも、モロー反射は、特に保護者にとっては、カワユイだけではすまない。抱っこしていた赤ちゃんをベッドに置くことができずに、ずっと抱いていなければいけずに、「もういい加減にして!」と言いたくなる。
※)https://www.youtube.com/watch?v=KZnsTqeUlTs
4.ちなみにバビンスキー反射とは
ちなみにバビンスキー反射は、足の親指が広がる原始反射だ。足の裏の外側を、少しとがったものを使って、かかとからつま先に向けて刺激すると、足の親指が外側に曲がり、他の指は扇のように広がる。バビンスキー反射は、出生後すぐから反応が見られ、生後1〜2年程度で自然に消失する※)。
※)https://www.youtube.com/watch?v=vxciZ5CPChk
このような原始反射は、発達心理学では、乳幼児期の重要項目として学習する。その際、育児経験のない学生や心理職にとっては、“他人事”として学ぶことになる。試験問題にも、余計な感情を伴わずに答えることができる。モロー反射で不眠になり、さらに育児ノイローゼや虐待的反応をするクライエントに接したときには、心理職は、冷静にクライエントの話を聞き、問題を分析する。
ところが、自身の育児においてモロー反射で苦労した経験を持つ心理職は、他人事ではいられない。自分自身の世界で起きた出来事としてモロー反射の大変さを痛感する。そのような育児経験を持つ心理職は、クライエントさんの育児の苦労や、それによって不安定になっている事態を他人事として受け取ることはできない。そこにおいてクライエントさんの世界と心理職の世界が交錯することになる。
5.子育て中の心理職が育児相談を担当する
6.お友だちに手をだすという現実を共有する
通常は、クライエントの世界と心理職の世界は、交錯することはない。心理職にとって、クライエントの問題はあくまでもクライエントの世界で起きた出来事だ。その点でクライエントの世界は、心理職の世界とは別の世界である。
しかし、心理職が自分自身の生活世界においてクライエントさんと同じ問題に直面している場合、その2種類の世界は交差し始める。同じ問題を抱えているという点で同じ現実を生きていることになる。そして、二人の世界は交錯する。
転移−逆転移という関係が生じた場合に、クライエントさんの世界と心理職の世界は交錯する。それは、両者が無意識を通して交錯することだ。それに対してクライエントと心理職が同じテーマの問題に取り組んでいる場合、現実において両者の世界は交錯する。それは、心理職に、ある種の”reality shock”を引き起こす。
7.育児中の心理職の“reality shock”
8.心理職にとってクライエントの現実とは
ある心理職は、日常生活で夫婦喧嘩を繰り返しており、離婚するかどうかを悩んでいた。そこに、夫婦関係の問題をテーマとするカップルが相談を申し込み、その心理職が担当となった。そこでは、クライエントさんと心理職の課題は重なっており、両者の世界が現実に交錯することとなった。
もちろん、両者の夫婦関係の問題は、具体的には異なっており、問題が完全に一致していることはない。しかし、心理職は、主観的には自分の夫婦問題とクライエントさんの夫婦問題が重なり合い、クライエントさんの問題を我が事のように感じ、冷静にいられなくなった。
確かに、このように同じ問題を抱えている場合、心理職はクライエントさんの問題を他人事として冷静に見ることができなくなる。さらに、同じ問題を抱えていなくても、生きていること自体が人間にとっての共通課題と考えるならば、クライエントの課題は他人事ではない。クライエントさんの問題の本質は、人間として共通する課題でもあるのだ。クライエントの問題の本質が親子関係や愛着の問題、自己コントロールの問題にあるならば、それは誰にとっても自分事となる。
このように考えると心理職は、自分の現実世界とクライエントの現実世界が交錯するところで仕事をしていると見ることができる。その交錯するところでは二つの世界が重なり合って複雑な渦巻きが起きる。心理職は、渦に巻き込まれないように自分の気持ちの動きを静かに観察しなければならない。そのために役立つのが、冒頭でご案内をした「最新のマインドフルネスの活用」である。(最後は、宣伝になってしまった)
■記事制作 by 田嶋志保(臨床心理iNEXT 研究員)
■デザイン by 原田優(公認心理師&臨床心理士)
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