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39-2.コンパッション・フォーカスト・セラピーを学ぶ

(特集:秋だ!心理職のスキルアップの季節だ!)

下山晴彦(臨床心理iNEXT代表/跡見学園女子大学教授/東京大学名誉教授)

Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.39-2

注目新刊本「訳者」研修会

◾️コンパッション・フォーカスト・セラピーを学ぶ
−日本の心理職の栄養源となる理論と技能−
 
【日時】2023年10月9日(月:休日) 19時〜22時(※夜間講座)
【講師】有光興記 関西学院大学 教授
    小寺康博 英国ノッティンガム大学 准教授
【注目新刊本】『コンパッション・フォーカスト・セラピー入門』(誠信書房)
 https://www.seishinshobo.co.jp/book/b10031905.html
 
【申込み】
[臨床心理iNEXT有料会員](1000円):https://select-type.com/ev/?ev=19ydGYbhNT0
[iNEXT有料会員以外・一般](3000円):https://select-type.com/ev/?ev=Tqf0fAgBsVg
[オンデマンド視聴のみ](3000円):https://select-type.com/ev/?ev=NM9AWJCKeUk


1.  コンパッション・フォーカスト・セラピーを学ぶ

秋の研修会第1回では、世界に広がりつつあるコンパッション・フォーカスト・セラピー(CFT)を学びます。CFTは、日本人に馴染みのある大乗仏教に起源をもち、自分や他者の心の中に温かさや安心感を培うことを重視した心理療法です。愛着、恥、恐れ、安心感など、日本人にとって重要な感情に焦点を当てており、日本の心理職にとっては非常に親和性のある理論と方法となっています。
 
研修会では、下記に示したようにCFTの理論と方法を解説するとともに、「コンパッション」を経験していただくワークも実施します。日本の心理職にとって馴染み易い「思いやり」や「癒し」と重なるコンパッションがテーマとなりますので、研修会で学んだことは、日頃の臨床に取り入れ易いものとなります。また、コンパッション体験のワークを通して日頃の疲れを癒していただければとも思っています。多くの皆様の参加を期待しています。

コンパッション・フォーカスト・セラピー(C F T)のスケジュール(夜間講座)

【前半】19時〜20時25分

1.コンパッション・フォーカスト・セラピーの理論説明_有光興紀
2.コンパッション・フォーカスト・セラピーの研究紹介_小寺康博

<休憩>
 
【後半】20時35分〜22時
3.コンパッション・トレーニングプログラム紹介とワーク_有光興紀
4.コンパッション・フォーカスト・セラピーのQ&A_有光+小寺


2.  有光興記先生 interviewed by 下山晴彦

研修会に先立って、講師の有光先生にコンパッション・フォーカスト・セラピーについてお話を伺いました。そのインタビュー記録を、今回と次回の臨床心理マガジンの記事として2回に渡ってお伝えします。
 
[下山]私は、有光先生が監訳をされた『コンパッション・フォーカスト・セラピー入門』を拝読し、とても感動しました。これは多くの人に読んで欲しいと思って今回の研修会を企画しました。特に本書の内容は、今の日本の心理職が直面している課題を解決していくのにとても役立つと思いました。ところで、先生にとって、コンパッション・フォーカスト・セラピー(CFT)の魅力はどのようなものでしょうか。

2. 有光興記先生


下山晴彦


3.穏やかな気持ちを育むCFTの魅力

[有光]私の目から見ると、認知行動療法(CBT)などのエビデンスに基づくセラピーが世界的に広がる中で、ポジティブ感情がなかなかターゲットになりにくいと思っています。治療ベースとなり、エクスポージャーやトラウマフォーカスなどのようにクライアントは苦しみながら治療を受けるといった場面も多くなっています。

それに対して、治療者としても支援者としても疑問に感じるような場面も出てくると感じていました。しかし、その一方では、今までのカウンセリングモデルでは、有効性を認められないということもありました。そのような状況において、コンパッションにフォーカスしながら心理療法を進めていくアプローチを魅力的に感じたということがありました。

CFTは、本当に苦しくて自分の感情も人に言えないという人に対しても、優しい気持ちを思い出してもらい、そのようなイメージを育むことで日常生活から穏やかな気持ちになっていただくというアプローチですね。これは、いろいろなクライアントに有効であると感じています。

[下山]私もCBTを実践してきて、ただ直面化すればいいというわけではないことを実感しています。例えば、エクスポージャーであっても、直面化する前提として、共感的な関係や安心できる場の共有がとても重要です。ところが、共感や安心があまり強調されていなかった。それで良いのか思っていた時に、本書を読ませていただき、「そこが大切なのだ」、「むしろ、そこにこそ回復に向けてのベースがあるのだ」ということがしっかりと理論化されていたので、感動しました。


4.CFTは、認知行動療法を超えている

[下山]それと関連して教えていただきたいのは、CFTは、CBTの中の一つなのかなという疑問です。本書の原書は、The CBT Distinctive Future Seriesの中の一書として、つまりCBTシリーズの一つとして出版されているわけですね。私は、CFTはCBTの一種というのではなく、むしろそれを超えているのではないかとも思いますが、どうでしょうか。

[有光]おっしゃる通りだと思いますね。CFTは、広い意味でCBTとして位置付けられます。認知や行動を扱いながらエビデンスに基づくセラピーを進めていくという意味ではCBT学会などで発表されています。ジャーナルでもそういうところに出ています。しかし、CFTは、認知や行動だけにターゲットを置くわけではなく、CBTとは異なる面があります。

CFTでは、自分に厳しい行動をすることに至る履歴にも注目します。特に大事にしているのが愛着の関係です。過去を振り返り洞察するので、精神分析の話も当然出てきます。そのような多様な側面に注目する中で、常にあるのが「コンパッションに焦点を当てていかなきゃダメだ」ということは、徹底しています。

[下山]CBTは、ヨーロッパの近代化の中で生まれた方法ですね。個人が認知や行動を調整して現実に適応していくことがメインターゲットとなっています。それに対してCFTは、感情、特に感情制御が大きなテーマになっている。そこがCBTの枠を超えていると私は思います。


5.CFTは、マインドフルネスとは異なる

[下山]さらに、もう一つ気になるのは、CFTとマインドフルネスとの関係です。多くの人は、コンパッションをマインドフルネスの一部、あるいは一つの亜流と考えているのではないでしょうか。その点について先生いかがでしょうかね。

[有光]心理療法としてのマインドフルネスや、企業が何かの目的で使うマインドフルネスは、明らかにコンパッションに基づく心理療法とは違うものと思います。ただ、広い意味ではマインドフルネスは、私たちを幸福に導くものですし、気持ちを穏やかにするものです。そのようなマインドフルネスという状態は、コンパッションあふれる状態で、両者は融合していいます。

マインドフルネスとコンパッションは、両輪として互いに必要としているようなものです。今回の本でも、CFTを実践するにはマインドフルな気づきが必要で、瞑想法も実践すべきと明記されています。ですので、より大きな目で見るとどちらがどちらかに取り込まれているというのではなく、融合しているというのが実際の姿なのではないかと思います。

[下山]お互いがお互いを必要とし、支え合う関係ということですね。ということは、両者は異質な面もあるわけですね。両者は、いずれも仏教を起源としていますが、どう違うのでしょうか。


6.CFTは、仏教の基本概念「慈悲」に根ざしている

[有光]もともとは仏教の基本概念に慈悲、つまりコンパッションというのがありました。CFTは、明らかにそこに根差しており、本書でも仏教概念の八正道が触れられています。マインドフルネス瞑想も仏教由来のもので、単独でもいろいろな心理的効果があります。でもマインドフルネス瞑想を実施しても頭がこんがらがって何も感じられないこともあります。そこで必要なのがコンパッションで、気持ちを穏やかに、混乱していても自分の身体の感覚や感情・思考を優しく見守る姿勢ということになります。

見守る姿勢は、Careful Awarenessと教示されます。Careful とは注意深くと翻訳されますが、この場合は優しく見守る、Gentle Awarenessという意味で、コンパッションが含まれています。実践においてコンパッションとマインドフルネスの両方大事だという、元々仏教で言われていたことが、この本では強調されています。

さらに、詳しく申し上げると、CFTではコンパッションを持った自分自身のイメージを培います。自分の良いところも改善したいところも理解していて、ずっと寄り添って優しい声をかけてくれる自分自身をイメージするのです。その自分自身とか他者に対して優しくしましょうという話になります。自分自身がコンパッションあふれるようになるというのは、仏教の中でも大乗仏教的ですね。

[下山]大乗仏教的だから、日本人に馴染み易いのですね。

[有光]すでに悟っているような自分が存在しているけれども、それが発揮できてない。だから、そこに注目し、それをイメージしていつでも出てこられるようにしたら、自分自身を優しく見守れますという話です。


7.CFTは、チベット密教に由来し、ユングとも繋がる

[有光]優しい自分をイメージすることを調べてみたところ、チベット密教由来ですね。弥勒菩薩を観察して、それをイメージしてそれになりきるということにルーツはあるのです。ポール・ギルバー先生は、そこまで仏教の話はされませんけど、本やワークショップでは、チラチラとそのようなことも伝えておられます。

[下山]私は、本書を読んでCFTにとても親和性を感じました。大乗仏教や密教に由来するという点で日本の文化に近いと感じますね。

[有光]近いですね。そこでユングの集合的無意識の話題につながってくるのだと思います。

[下山]その点で日本の心理職には、CFTは馴染みやすいし、受け入れやすいでしょうね。


8.   日本人が親和性を持つCFTを学ぶ意味と魅力は何か

[下山]有光先生は、そのように日本人が親和性を持つCFTを学ぶ意味や魅力をどのように考えておられますか。そのような点も含めて研修会参加を考えている心理職の皆様へのメッセージをお願いします。

[有光]一つとして、コンパッションは私たちが支援するときに感じている感情なので、その理論を学ぶことは自分たちがしている実践の振り返りにもなるし、実践の場でさらにコンパッションの力を使っていくきっかけになると思います。

[下山]確かにCFTの理論は、日本人の普通の心理職がやっていることの裏付けになるものですね。

[有光]もう一つは、コンパッションのワークによって自分自身が穏やかな気持ちになるという体験ができます。それも大きな意味があります。自分で体験していると、それができていないクライアントさんに教えるというとき、こういう状態になるんだとわかって、教えやすいということがあります。今回の研修会では、まずは自分で体験してみるワークをしていただきます。コンパッションには成功も失敗も全然ないんですね。とにかくやってみてどうなるかを試してみることが大事なのです。楽しんでいただければと思います。(次回号に続く)

■記事制作 by 田嶋志保(臨床心理iNEXT 研究員)
■デザイン by 原田優(公認心理師&臨床心理士)

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臨床心理マガジン iNEXT 第39号
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.39

◇編集長・発行人:下山晴彦

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