P-610

俳句川柳アカ新設しました→ https://note.com/miki_wahoo/

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魔法使いはいらない

 五年生になった時から担任の先生がキラいでキラいで、いっつも顔怒ってるから誰怒っとるんや思うてよう見たら僕を怒ってるらしい。  先生の名前は大江信一。歴代担任最速で覚えた。  他のクラスの担任の先生はアイドルみたいなかっこいい先生やのに、うちの大江先生は時代劇で切られる専門みたいな顔をしてる。  まあ、僕も怒られたくらいでしょげるのがイヤなのでわりと反発をした。  反発をしたら何回も職員室に呼び出された。あくじゅんかん、や。  お母さんからついでに、じょーしゅーはん、いう言葉

    • 仕事の関係で一時期noteを休眠していた頃俳句、川柳を少しずつ作っていました。 この度別アカを作りました。 どうぞ覗いてやってください。 https://note.com/miki_wahoo

      • 遠き島より

         じいさんの家の床の間には椰子の実が転がっていた。それは十分に乾燥しずっしり密度感があってしっかり磨きこまれたような光沢があった。  そしてそれは時々家の中のあちこちを漂流してはまた元の位置に漂着した。漂流の張本人は子どもの時分の私に違いなく漂着に導いたのはばあさんであった。  子どもの柔らかい爪で押したくらいで凹まない。固くてかてか光る椰子の実を見てはこれは木の実でなく木そのものではないのかと思って匂いを嗅いだり先端を探り繊維を割こうとしたりしたが子どもの調査にはせいぜい

        • 冬の日本へ 愛するあなたたちへ

          南国の海外単身生活も四年を迎える。 あれほど疎ましかった日本の冬が今懐かしい。 そんな今日あなたたちにメッセージを送る。 母へ 今日もまた暖かいよの声凍え 私を気遣わせないよう電話の声はいつも明るい。しかし冬が暖かいはずはないんだよ。愚痴、泣きごと大歓迎。無理しないで身体に十分気をつけて。 二人の息子たちへ こないだの声より晴れて年始め 少年期から青年期へ。時々は元気のない時もあるが詮索はしない。また電話するよ。君たちの晴れた声が聞きたいから。 妻へ 肩越しに

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        • 遠き島より

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          物語

           十代の最後の日にミチは一つの物語を書き始めた。 その物語は高校生の頃から温めていた筋書きで美しい景色とどこまでも広がる夢に溢れていた。明日ミチは大人になる。少し感傷的な気持ちがミチに筆を執らせた。  この物語が完成したら十代の作品て言ってもいいのかな?  いたずらっぽく笑う。  硬い芯の書き味は痛々しくて原稿用紙を虐めるようで好きではない。柔らかい芯の鉛筆で優しい物語を紡ぎ出す。鉛筆削りで芯を削った時の鉛筆の木と芯が合わさって焦げたような匂いもミチは好きだった。小さな光量さ

          羨ましいクリスマス

           サンタさんだって時には子どもたちが羨ましい時があるのです。  子どもたちがすやすやと眠る顔を見ながらサンタの家系に生まれた自分にはこんなイベントはなかったぞと少しは妬いてみたりするのです。  さて、今年もこのイベントがやってきました。子どもたちの希望に従い間違いなくプレゼントを配り回らないといけない。今年は桜町一丁目からひまわり台五丁目までが彼の担当です。  サンタさんはケンタくんの家にやってきました。ケンタくんはサングラスが欲しいと願いを掛けていました。 「シブい!」

          羨ましいクリスマス

          幸せの光量

           世間からは相変わらず暗いニュースしか聞こえてこない。それでも私は富に恵まれている。運にも縁にも恵まれる。万事うまくいっている。私は夜空を仰いでアクセルを踏んだ。ハイウェイの閃光が冴えたラインを作った。納車されたばかりの真紅のスポーツカーの絶叫音がただ心地よい。  君には解らない。共同経営者の彼はそう言って私に憐れむような目を向けて去っていった。学生時代の頃からずっと共に日の当たる道を歩き続けてきた。そのめでたいご身分はいったい誰のお陰なのだ!一人になった社長室で私は叫声を

          幸せの光量

          レインドロップス

           加奈は赤い色のキャンディを口にほうばりバスに乗る。 キャンディを口の中でコロコロ転がすだけで街の景色一つ違う。 昨日恋を失った。結局一睡も出来なかった。でももうくよくよしない。 バスは重い車体をゆらりと傾けながら駅前に停車した。 加奈は山のように積まれた仕事を思い浮かべ日常を取り戻す。  駅の改札を通り抜けて加奈はホームのいつもの位置に立った。 彼女の後ろに並んでいた仁志は今日予定される社内プレゼンテーションの筋書きを何度も何度も反復していた。 辛口の問答応酬が過ぎって苦

          レインドロップス

          冬のアゲハチョウ

          「アゲハチョウが卵から成虫になるまでの生存率って1%にも満たないんだって」  ミチが教えてくれた。 「それって、ほとんど羽化できないってことじゃないか」  ボクたちは病院の敷地内で午後のデートを楽しんでいた。  ミチの一番のお気に入りスポットに二人並んで座る。  そのボクたちにぶつかりそうなほど生命力をほとばしらせながら二匹のアゲハチョウが舞っていた。  ミチは続けた。 「そうよ。この二匹だって奇跡のように生き残って、わずか何週間という短い一生の中のほんの一瞬だけ巡り合ってる

          冬のアゲハチョウ

          卓上のメリークリスマス

          見習い中のトシオは作業がひと段落ついたので手についた小麦粉を払って表に出た。 故郷の仲間たちが羨ましがる東京暮らしだが、実際にはこの小さな中華料理店の裏口からほんの休憩時間に都会の風景を見るだけの東京暮らしだった。 それでも十分に楽しい。都会のカレンダーの一周目はとにかく何もかもが新鮮だ。 そして今日はクリスマス。 いつもより一層きらびやかな服を来た歩行者たちのご機嫌な表情と上ずった話しぶりがおおよそ夢でしか見たことのない楽園の風景を作っている。 クリスマスツリーを模したネオ

          卓上のメリークリスマス

          カッタン

           だまって私を見据える母の目のどこにも目立った変化をとらえることは出来ないが姉が言うには随分症状が進んだらしい。  さらに最近「カタカタ」と意味不明の言葉を繰り返してごねるという。  カタカタ?カタカタ?私は二回棒読みで繰り返した。  そんな私に向かって母は、カッタンカッタン、と言った。  ほらね。姉が少しおどけたように首を傾げる。  母の言葉を「解読」しようとはするがまったく糸口が見つからない。  ただ、カッタンカッタン、を繰り返し訴えるばかりである。  ミシンを踏む音だ

          カッタン

          じぶんのいろ

           買ったばかりの青いバスタオルをご主人が不用意に洗濯機に投げ入れたものですから、その色が他の洗濯物に色うつりしてしまいました。  黄色いタオルはたちまち若草色に。桃色のハンディタオルは紫色に。  彼らはますます青ざめたバスタオルの背中を叩きます。 「実はオレ若草色が大好きだったんだ。気にするな」 「私だっていつまでも子どもじゃないからね。大人の色サイコー!」  Tシャツはそんなやり取りを見て、 「人生いろいろ」 とまとめようとしますが、元々あんたは黒色だから色うつり関係ないわ

          じぶんのいろ

          約束

          「お父さん!お母さん!」  勢いよくハルくんが朝の食卓に飛び込んできた。 「サンタさんからプレゼント!ほら見てごらん」  両手で頭の高さまで掲げた箱には白地に金と銀の雪の模様の包み紙。その上から赤と緑の太いリボン。  その場でその包み紙をしわくちゃにしながら開いてさらに金切り声で歓声を上げる。 「わあ!サンタさんにお願いしていたロボットだ!」  今度はロボットを抱きかかえて子ども部屋と食卓をスキップしながら行き来する。  嬉しい表情が溢れて止まらない。  ハルくんのお父さんと

          約束

          時滑り

           大鏡に映る顔は今日も自信に満ち溢れている。  髭をあたりながら今日行うことを予定組みする。  てきぱき物事をこなす事が私は好きだ。  周囲の人間にもそれを要求する。私の周囲も同じスピードで回転しなければ私のこのパフォーマンスが無駄になるからだ。  私は軽やかに舞うように生きてきて成功した。こういう生き方に皆が憧れ皆がそれを果たせず一生を終えるのだ。  鏡を通してキッチンのデジタル時計を見たら19:30を指していた。  おや故障か。時計が時間を間違えてどうする。舌打ちしなが

          時滑り

          喜びの意味は

           その昔、調べものをするに図書館に行くしかなかった。  バスと電車を乗り継いで行っても他の者がたまたまそれを借りていたのならまた出直すことになる。バスと電車に乗って。  急ぐ場合は書店に行って自分で買うしかない。ネット販売のない時代のことだ。見つかるまで書店に電話で在庫を確認することになる。  面倒な時代だが、当時の人たちはその制約の中で学習、仕事またレクリエーションをこなし、ささやかな充実感や幸福感を味わい暮らしていたのだ。  それから比較してインターネット社会は大変進化

          喜びの意味は

          たくぼうとじいじと夏 【落語台本】

          孫と祖父  ある夏の日のことでございます。  この家のわんぱく坊主が縁側にもたれかかってさっきから落ち着かない様子で家の中をのぞいております。 たく「おーい!じいじ、じいじ!」 じい「おお、たくぼうか。ジージジージてセミの鳴き声かと思うたわ」 たく「しっかりしてえな。男と男の大事な話があるんやで」 じい「なんや、大ごとやな。ぶるぶる緊張してきたわ」 たく「おカネを融通してもらいたいねん」 じい「えらいもんやなぁ。今日びの六歳は難しい言葉知っとるんやのう」 たく「じいじ知ら

          たくぼうとじいじと夏 【落語台本】