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全てのクリエイティブはイマジネーションから始まる

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人間力最大化計画計画長の倉本美津留が聞き手となり、アートの巨匠ヒロ杉山の人間力に迫る。
※昨今のコロナウイルスの感染拡大による社会情勢のため、
 人間力最大化計画は開講日が7月3日(金)に延期となりました。

──ヒロさんがクリエイターとしてブレイクポイントとなった出来事とは。

1997年にグラフィックアートユニット「エンライトメント」を立ち上げたことですね。
きっかけは、イラストレーションの世界にコンピューターが出てきたこと。
それまでは、僕も含めてイラストレーターはみんな手書きだったから、テクニックがある人や絵がうまい人がプロになっていた。
でも、コンピューターの導入でテクニックがカバーされるようになり、センスや感覚でどんな絵も書ける時代になった。
「イラストレーションの世界が変わるな」という予感がしました。
それは逆に言えば、誰にでもイラストレーターになれると時代になったということでもあるんです。

かつてイラストレーターは一つのオリジナルスタイルを確立したら、10年20年30年と同じスタイルで仕事できていたけど、これも変わると思いました。
逆に、コンピューターによって、色んなスタイルをどんどん作って、何個もメニューを用意し、そこから好きなものを選んでください、っていう
新しい仕事のやり方ができるんじゃないかと気付いたんです。
イラストレーションというより、「ビジュアルを作る」っていう概念に切り替えてやったら、それがうまくハマったように思いますね。

──印象的なのは有名人のポートレートシリーズ、特にTBCの木村拓哉のビジュアルですが、この作品はどのようにして生まれましたか。

もともとは、「絵の具で書いていたものを、デジタルで表現したらどうなるか」という発想から始まっているんです。
というのも、当時は3Dソフトがブームで、絵の具ではできない表現、たとえば金属やプラスチックのリアルな表現とかが流行っていた。
僕はそれ逆行して、コンピューターで絵の具の表現ができないかと考えたんですね。
コンピューターを買って半年間くらい実験して、ようやく自分なり表現方法が見つかった時、ちょうどいい具合に仕事が来たんです。

TBCの木村拓哉の作品は、当時博報堂だった佐藤可士和くんから
「アンディ・ウォーホルがプレスリーをアートにしたみたいに、キムタクをアート表現できないかな」と相談があり、
「じゃあ、ちょうど今こういう表現をやっているんだけど」って紹介してできました。

──クリエイティブを形にするには、どのようなチーム作りをしているか。

手書きだった頃は基本的に一人でやっていましたが、コンピュータを導入してからはチームで仕事できるようになりました。
コンピューターの良いところは、誰が使っても同じソフトなら同じタッチができるということ。
手書きの時代は、どうしても作家本人の筆のタッチなどで差異が生まれてしまいますが、コンピューターはクセが出ない。
チームみんなで作品を共有して一つのビジュアルを作れるんです。

だから感覚のあう仲間さえ揃えばチームはできる。ただし、大切なことは「同じ方向を向く」ということですね。
同じゴールを共有して持っていないと、てんでばらばらになってしまう。
具体的な細かいものでなくても、漠然とでもいいので、同じ方向を向いて頑張ろうねっていう意思の共有が大切です。

そのためには「僕自身がブレない」ことっていうのがすごく大事だと思っています。
社長やリーダーがブレると周りがついてこられないので、僕自身はブレずに前に向かって進み、その姿勢に賛同してついてきてもらう。
同じ方向に進めば、僕が考えも付かなかったことをスタッフが提案してくれたり、思わぬ化学反応が起こったりします。

「任せる」っていうことも非常に大事です。
全部こうしろああしろって言ってしまうと、どうせヒロさんが決めるでしょって、本人たちのやる気も責任感もなくなっちゃう。
だから僕は完全に仕事を振りますし、我慢しながらも何かが出てくるまで待つ。
僕の師匠もそういう人で、とりあえずやってみろって丸投げされて、できたものを見せて、アドバイスを求めてっていう指導法でした。

(倉本)大事なところはリードする。任せるところは任せる。任せたところに新しいものが生まれる。
クリエイティブに関わる全ての仕事に共通ですね。
いい先生に付いて、やり方をなぞることも非常に大事なので、今回の生徒さんたちにもそうしてほしいですね。

──コンピューターの登場でイラストレーションの変化を予想したように、世間の空気や時代の変化をどう感じ取っているのか。

僕らの職業って人気商売だし、時代と共に生きていかなくちゃならない職業なんですよ。
自分の仕事と直接関係なくても、自分が興味あることだけじゃなくても、何が流行っているか、人気の音楽や映画は何かを捉えておく。
世間の空気感を感じ取っていないとズレてしまいますし、世間全体を見て浮かび上がってくるものこそが時代の空気だと思います。
でも流行や時代に完全にリンクしちゃうとそれは全くダメで、時代と共に消えていっちゃう人になる。
「時代を横目で見つつ、時代と並行して進んでいく」、そんな感覚を常に持つようにしています。

──クリエイティブには失敗や批判がつきものですが、どう捉えているのか。

失敗は忘れることにしています。基本は忘れて、教訓にもしない(笑)
僕は本当に能天気なんで褒められれば嬉しいし、注意されたことは忘れるという性格なんです。
生徒の作品の講評でも、良いところが2%で悪いところが98%なら、2%だけを注目して何が良いかを説明して残りは触れません。
そうすると生徒は良かった部分をしっかり考えて伸ばし始めるし、良いところが大きくなると自然と悪いところは消えていく。
良いところを伸ばすのは気持ちの良い作業だけど、悪いところを修正するのはネガティブなエネルギーを使いますからね。

──ヒロさんにとって、「クリエイティブ」とはなにか。

クリエイティブというのは、「発想力」「イメージする力」「イマジネーション」だなと、いつも思っています。
言い換えれば、ゼロから何かを作り出す作業の力ですよね。1を2にするよりも、0から1にする力だということです。

でも「苦手」って口癖の人が多くて、「苦手」って言うことで自分を洗脳してしまい、自分で自分を狭めている。
僕は「苦手」とか「できない」って言わないようにしていて、ものすごく難しいオーダーが来た時も、まず「できます」てって言うよう心掛けている。
そのせいで後から困ることも多いですが(笑)

昔、細野晴臣さんと高橋幸宏さんのユニット「SKETCH SHOW」のジャケットを頼まれたとき、
細野さんから「「ヒロくんさ、PVも作れるよね?」って言われたんです。
当時はPVってやったことがないし、大御所のオファーだったのに、「大丈夫です、やります」って引き受けた。
しかも細野さん達は自分達は出演したくないというので、私は「全部絵にします」って提案してアニメーションにしてしまった。
そこから1ヶ月、まさに死ぬ思いでスタッフと一緒に頑張りました。

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──時代はどんどん進んでいきますけど、ヒロさんは未来をどう見ているのか。

難しいですよね、そういう意味では、僕は未来をこうしていこう、っていうのはあんまり考えていないのかもしれないな。
目の前にあることが必死すぎて、今日やる仕事のクオリティーしか考えていない。
毎日毎日を必死だから、俯瞰の未来予想はあんまりしてないですね。

(倉本)今日のエネルギーを思いっきり出すっていうことは、未来に触れていることでもありますよね。今日の連続が未来になる。
今をどう生きるかによって過去も未来も変わりますよね。

──「人間力を最大化する」というこの講義で、どんな授業をするか。

「イマジネーション」「想像する力」「イメージする力」を付けることをテーマにしたいです。
「想像する」っていうのはクリエイティブだけじゃなく、例えば人の気持ちを想像することも含まれる。
僕は大学で教えていますが、学生たちのイマジネーションの力が弱っている気がして、平気で人を傷つけるようなことを言ったりする。
誰に何を言うと相手が傷つくか、これを言うとことで相手が落ち込んでしまうとか、そういう想像ができなくて平気で言ってしまう。
美大生なんだからもっとイマジネーション働かせろよ!と思うんだけど、そういうところが弱かったりする。

子供が最初に絵を描く時、僕らからすると何も考えてないように見えるけど、きっと自分の頭の中にあるものを形にしている。
これはすごく大事なことで、頭の中にあるものは誰も見えないけれど、それを物質化することによって人に伝えることができるから。
「イメージする力」を伸ばすために一番大事なことは「何か描く」ことです
下手でもいいから、鉛筆と紙でもいいから、頭の中のイメージを書いてみるっていうのが、一番大事かなと。
その行為こそがイマジネーションであり、クリエイティブなんだと思います。そんなようなことが伝えられたら。

──課題やセッションで想定しているものとは。

「イメージする力」のトレーニングをしたいなと。
たとえば僕が意味のない言葉を発して、その音だけでそれぞれが絵に描いてもらう。
意味のない音声から何を想像するか、それこそが各人の感性で、食べ物と感じる人もいれば生き物と捉える人もいる。
自分はなぜこの表現したのかを説明することが大事で、決してうまい絵を書けということでも、上手い下手で判断することでもないです。

(倉本)他人の作品を見ることでイマジネーションの多様性も理解できるし、説明できるということはコミュニケーションの力も養われる。
生徒さんのレベルが違っても、全体の力を底上げしていただけたらと思いますよね。

──講義を受ける生徒さんにメッセージを。

「人間力」って誰しもが持っているものだと思うけれど、自分の器を小さく意識しているところがある気がしています。
僕はその器をできるだけ広げるだけの役割ですが、広がればそこに色んなものがわーっと入ってくるようになりますから。

(倉本)こういうことを学べる場所はあまりないですよね。12人のとんでもない巨匠に、色んな角度で皆さんの人間力を広げてもらって、大事なことを学べる場所にできればと思っています。

ヒロ杉山

ヒロ杉山ポートレイト

東京生まれ。アーティスト、アートディレクター。
東洋美術学校卒業後、湯村輝彦氏に師事。その後フリーとなり、1997年グラフィックアートユニット、エンライトメントを結成。
ファインアートの世界で国内外の展覧会で作品を発表する一方、グラフィックデザイン、広告など幅広いジャンルで独創的な作品を発表しつづけている。
さらにPV制作やVJなどの映像分野での評価も非常に高く、三代目 j soul brothers、EXILE、m-flo、安室奈美恵、BOA、少女時代などへ、
ライブ映像を提供している。

代表作:雑誌 SUPER YOHJI YAMAMOTO X LESLIE KEE,、ディオヘッド トム・ヨーク ポートレイト(雑誌スタジオボイス)

人間力最大化計画

放送作家の倉本美津留が発起人となり、各界のトップランナー12名が集結する特別集中ゼミです。
映画、CM、音楽、デザイン、写真、編集、アート、お笑いなど、各界のトップランナーたちの代表作の秘話や、自身が考える未来戦略を講義など、対話・セッションを通じ、ここでしか学べない特別な見識を身につけてもらうことを目的としています。
https://ningenryoku.jp/

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