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プロモデラーの師匠と情けない俺の話      第三話                   ~初対面で弟子入りを断られた~

いよいよプロモデラーの師匠と初対面である。他のお客さんが誰もいない田舎のデパートの狭いフードコートの中、一番外側のガラスに面した席で待っていた。子供の頃から大好きなガンプラのパッケージ写真のプラモデル制作者と会えるというシチュエーションは野球少年が地元出身のプロ野球選手に偶然コーチしてもらえるかもしれないチャンスが訪れた!そんなような興奮と緊張だったと思う。

普段から忘れっぽい性格だし当時は緊張していたこともあり、もはや断片的にしか覚えていないが自己紹介から始まり、ガンプラとの出会いや当時置かれていた自分の状況を話した。質問もかなりたくさんしていたと思う。師匠がプロモデラーになったきっかけやこんな修行をしたとか、すべての話がキラキラしていて刺激的で前のめりで聞いていて大興奮した事だけは覚えている。

一時間だったか二時間だったか、お忙しい中見知らぬ高校生に時間を作ってくれて真剣にちゃんと話をしてくれたのが印象深かった。そして話しの最後に今回の一番の目的である弟子入りさせていただけるか否かの応えは期待通りのものでは無かった。

師匠「基本的には弟子はとっていない。君を弟子にすることは出来ない」
お会いできただけで奇跡だし嬉しかったし興奮したし心のどこかで弟子入りさせてもらえると思い期待していたのでこの一言は正直ショックなものだった。
しかし、そこには師匠の筋の通った納得させられるだけの考え方があった。基本的に弟子を取らない理由としては仕事柄裏方稼業であり何も公表出来ない立場であり仮に公表出来たとして弟子入り志願者が殺到する恐れがありとても対応しきれないとのこと。これは至極当然の理由である。

そして高校生の俺の弟子入りを許さなかった理由としては、この仕事はフリーランスのプロモデラーでありメーカーから受注を受けてやっていることなので大手に属しているわけではなく何の保証も出来ない。
ましてや19歳という若者が何年もこの業界に入って職としてものにならなかった場合資格も何も残せずにいい歳になる頃フリーターになって路頭に迷ってしまう可能性が非常に高くその責任も取れない。そもそもプロモデラーは極少数で、そのほとんどが副業であり専業はさらにほんの一握りで現実的な職業では無い。
この仕事に憧れや夢を持ってやってみたいプロを目指してみたいと若者に思ってもらえることは非常に嬉しいことだが同時に若者の現実的な未来を奪い芽を摘む事になる可能性が高いから弟子として取れないことを理解してほしい。ただし、ちゃんと就職して仕事しながら休日に趣味としてやるなら教えてあげるから作業場に来ていいよ。と言ってくれたのである。

正式な弟子入りは断られたが教えてもらえることになったのだ。
見知らぬ子供にここまで真剣に向き合ってくれる大人は初めてだった。
プラモデルの技術よりも人として大事な何かを初めて会った日にすでに教えてくれていたのだ。

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