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fictional diary#16 消えていく色

その海岸から海をみると、なぜだか波打際がピンクに染まって見えるんだ、ガイドブックには載ってない隠れた名所だ、と泊まっているユースホステルの従業員の男の子が教えてくれたので、朝ごはんを食べたあとさっそく海へ向かった。空は灰色でもくもくした雲が浮かんでいる。10分くらい歩いて辿り着いた海は、たしかにほんのり赤っぽく染まってみえた。近くで見てみたくて、海岸まで走っておりていった。すると海の赤みは幻のように消えて、波打際にはなんの変哲もない、透き通った水が揺れていた。あれ、と思ってまたすこし離れてみるとまたピンク色が戻ってくる。あ、と思ってまた駆け寄ると、わたしから逃げていくように色は消える。追いかけっこみたいに、行きつ戻りつ何度も走っていたら、すっかり疲れてしまって、水際に座り込んだ。足をひたひたと澄んだ水に浸す。空は相変わらず灰色で、雲はまるでピンでとめてあるみたいに動かずに宙に止まっている。その日は自分の部屋に戻り、ベッドに入るころになっても、波の音が耳の奥に残って消えなかった。


Fictional Diary..... in企画(あいえぬきかく)主宰、藍屋奈々子の空想旅行記。ほんものの写真と、ほんとうじゃないかもしれない思い出。日刊!