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"あなたが必要です"と言われること。『盲目的な恋と友情』を読んで

先日、辻村深月先生の『盲目的な恋と友情』を読みました。

本当に重く、盲目な主人公達にヒヤヒヤするし時には呆れる。
でも、そんな2人の心理描写は、よくよく考えると自分の周りの人や自分自身にも心当たりがある感情。
この物語のキーワードとなる"支配欲"と"執着"は誰しも少なからず持ったことがある感情だと思う。

だからこそ、怖い。
"あの感情"を拗らせていたら、こんな未来が待っていたかもしれないと思うから。

私は正直言って、恋に溺れたことも愛に陥ったこともないので、主人公とその年上彼氏の話はどちらかと言うと『おー、怖。』という感想しかでてきませんでした。
(それはそれで自分が情けなかったです汗)

それで、私が読んでいて自分ごとのように『うわーーー、きちぃーーー。』と思ったのは、後半パートの主人公、瑠璃絵の話。

後半パートを完結に説明すると、
誰からもまともに愛を注がれたことがなく卑屈になっていた、とんでもなくプライドが高い主人公(瑠璃絵)が、自分とは対照的な輝きを持つ蘭花の親友に選ばれることで、自己を肯定していき、蘭花に執着していく。
といった話だ。

瑠璃絵は客観的に見ると、
周りとは少し違う価値観を持つ女の子でちょっとプライドが高いのかな?
くらいにしか見えない。

でも、そんな瑠璃絵の中は周囲の人間に対する劣等感にまみれていて、それを打ち消すために必死になって他人を見下している。

そして、飛び抜けたステータスを持つ蘭花の親友になることで、自分自身に価値を見出そうとしている。他者から評価されようとしている。
『蘭花の隣を歩く私を周囲に見られたい』
そう本気で思っていた。

本という媒体を挟んで客観的に彼女を見ると、本当に哀れで虚しく思える。

でも、瑠璃絵は現実から遠く離れたファンタジーの中の人間でもないと思う。

私は社会人になるにあたって、世間的に有名なビジネスマン向けの自己啓発本を何冊も読み漁っていた時期があります。
ジャンルとしては、人に好かれるコツや人を動かすコツが書かれた心理学的な。

それで、何冊も読んで気づいたことは、結局どの本も言ってることは一緒ってこと。

どの本にも『"私にはあなたが必要なんです"的なことを上手く伝えろ!』的なことが書いてあると感じたんです。
ビジネスマン向けの本ですよ?恋愛心理の本でもあるまい。
これに気づいた時、正直なところ馬鹿馬鹿しいなと思いました。

でも、瑠璃絵を見ていてふとこのことを思い出したんです。

瑠璃絵は幼少期に周囲からの愛情が全くと言っていいほどもらえなかった。その結果、卑屈な性格になった。
そして、自分を保つために周囲を見下していたら、今度は自分が認めた人からの愛しか受け入れられなくなった。
もちろん見下された人間達も彼女を愛するわけがない。

そうやって、瑠璃絵は誰からも本当の愛をもらえることはなかった。

こんな簡単な言葉で片付けていいとは思えないけど、
瑠璃絵は愛に飢えていたんじゃないかと思う。

誰かが瑠璃絵を愛してくれていれば、、
愛ではないとしても、その存在を必要としてくれていたとしたら、瑠璃絵は救われたと思う。
"親友を通じて自己肯定感を得よう"だなんて、考えもしなかったと思う。


瑠璃絵を見ていて1番心が痛かったのは、親友であるはずの蘭花が傷ついてどうしようもない時、蘭花から電話を受けて心の底から喜んだところ。

"親友"であるはずの蘭花の気持ちなんてどうでもいい、蘭花がピンチの時に頼ったのが自分だったということが何より嬉しくて仕方がない。

正に盲目的な友情。

瑠璃絵にとって本当に大切なのは"親友の蘭花"ではなく、"蘭花の親友である自分"だ。

そして、皮肉なことにそんな蘭花にとって瑠璃絵は"いい友人の中の1人"
蘭花は蘭花で、友達に対していい意味では執着せずほどよい距離感を保つが、悪く言えばとても都合の良い扱いをする。瑠璃絵に対してもそう。
だから、真の友情という点では2人はどっちもどっちだった。

あの自己啓発本達も教えてくれていたけれど、
人間は想像以上に他人からの評価を気にしている。
そして、必要とされることに飢えている。

それは多分、無意識のうちに。

そしてそれらは、意外と言葉じゃないと伝わらない。

行動で示せるのはもちろんかっこいいけど、行動心理を正しく解釈できるほど全員が全員精神的に余裕はない。意外と人間は不安定に生きていると思う。

だから、言葉で"あなたが必要なんです"と伝える。

それができる人間の周りの人は本当に救われていると思う。

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