見出し画像

『 Luchu 譚 』 (※初めての創作)

幼な子の手
しっかりとつなぎ合い
丘をゆっくりと歩く
長らく刈り込まれた
異国のような芝生面は
やっと息を吹き返し
足元を島の植物が歌っている
しばらく抜けなかった轟音空耳は
今はなりをひそめ
戻ってきた鳥の声だけが響く
遠くに見える海からの風が頬をなでる

かつて
あそこに整然と並ぶフェンスがあった。
(未撤去の箇所には蔓性ゴジラ植物)
村の水源の音が聞こえる。
幼な子はもうすぐ学校がはじまる。
公用語は3つ。琉球語・英語・日本語。
他にもたくさん憶えたいと目が語る。
もうすぐ先祖のお墓も見えてくるはず
(もう許可は要らない)
「海の向こうも見てみたい」
そうだね たくさん学んでね
島を出るにはパスポートが要るよ
多くの国がビザを許可してくれる稀有な島
「ねーねーは那覇の国連大学に入りたいって勉強してるよ。うちはやんばるの国立公園で働きたい」

日本からの移住者が基地のそばに住み、長年、高額納税してくれたから、そのおかげで島の鉄道も隅々まで完成もうすぐだ。
観光客も最初の2日はエコ&ダークツーリズムを通らないと他へは行けない。
昔、ひどいパンデミックが猛威をふるったから検疫は厳しい。入国するにはまずいったん△△島に降り立ち、検査を受けて、環境税を払ってからになる。
「めんどくさい島になった」とこぼす観光客も移民も最近は慣れてきたのかその面倒は勲章のような土産話に変わってきている。
以前より貧しくなったかもしれない。
でも媚びへつらう事が無くなり息がしやすい。
太陽と海流の発電は安定してきたし
台風時のテストさえクリアできれば望みもつながる。

不発弾処理はまだ当分続く。
遺骨もすべては帰れないでいる。
(だから地下鉄は難しいかもしれない)
(地下シェルターも)
先日、国際司法裁判所で、不発弾処理の費用はそれを製造・使用した国が全面的に持つ判決が出た。過去にも遡り、被害を賠償する義務も負う。朗報だ。

現在の島の収入源は観光ではなく、自然災害に強い農作物。研究成果が評価され、島は全体として「学研都市」へと変貌した。派生して「医療の島」ともなった。
(その年、わが国では「薩摩芋」の正式名称が「琉球芋」となった)
あらゆる国からの留学生も一定数おり、小さな島は多様性を学び実践する土地としても再生した。

尖閣は「あわいの島」となり、かつてない平和な緩衝地域(海域)としてアジアに貢献している。難民の方々がそこで命を取り戻し生活を立て直している。鰹節工場も復活し、島の中心産業となっている。

沖縄戦から○○年目の年、島の女性たちがあらゆる理不尽や不平等を訴え、大規模なボイコットが起こった。それはやがて記念日となり毎年行われるようになった。
女性議員の割合が過半数を越えた年、「沖縄島」が過去に他の島々へ強いてきた痛みを超党派で話し合い、長い年月のもやもやした感覚を今からでもより良くしていこうと一致した。(委員会初年度、その中に男性議員はいなかった)

女性たちの助け合いの精神は自ずと「包括的性教育」を推し進める形となった。予算が多く組まれるようになったその政策は、停滞していた出生率を少しずつ上昇させていった。

ことばを取り戻した島々は芸能の島としてもますます発展した。アーティストへの手厚い補償があるこの国は日々いのちのことほぎに欠くことはなかった。
(無機と有機をつなぐ彼らの存在は、島の隅々にまでインスピレーションやイノベーションをもたらした)

リゾート開発の名残である“プライベート・ビーチ”群は、先ごろ法制化された「自然享受権」を基に、国民の共有財産として資本の手から取り戻される。

「核の日米密約」も、さらなる情報公開の日が迫ってきた。
検察官や公共放送のトップが選挙で選ばれる仕組みになり、風通しも良くなってきた。
最初はどうなることかと思われたが、この島(国)が自立し発展していくためには、選挙の投票を「義務」とするのが相応しいと人々は判断し、スタートを切った。

国会や最高裁判所の仕事も日々、透明性を問われ、国民からの権力監視はいつでも無料でアクセスできる公共メディアにより実現されていた。

この幼な子もすでに「人権教育」を受けている。成人した頃にはどんな社会になっているだろうか。

非戦を誓い、恒久の平和を宣言した私たちの憲法は、あの時、庇護を求めて復帰した日本国憲法も参考にしている。
今はそこからの独自の歩みを選択した。

たくさんの島の人間が、この国の平和と法律について話し合い、考え抜く日常が続いている。

わが国の憲法の前文は、こう結ばれている

「琉球国民は、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う」

一緒に唱えながら歩いていた幼な子が、
ぱっと手をはなした
駆け寄った丘の上で
彼女の母が手を広げ、幼な子を抱きしめた
向こうに見える木陰には
弾痕の残る亀甲墓が佇み
その前で彼女の父と姉が手を振っていた

深呼吸ひとつ
見上げた空は
まぎれもなく島の空だった


🌿芋仁

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?