カメラ大好き
その女の子はどこに行くにもカメラを持っていた。女の子と言っても既にいい大人だし、カメラと言っても携帯電話だ。今日食べたものや旅先で自分にカメラを向けて繕ったように笑いそして大きな声で独り言をカメラにぶつけている。画角に気をつけてゆっくりシャッターボタンを押して、これはダメだと首をもたげる。対面の席にあたかも視聴者がいるように振舞っている。
すこし大げさに身振り手振りを加えていかにその料理がおいしいかを雄弁に語るが、ほとんど口には運んでない。他愛もない近況を報告することに終始している。
私は何度この光景を見たのだろう。腹立たしさと苛立ちと悲壮感が胸をいっぱいにして、私の頭は彼女の行なっている一挙手一投足に支配される。今にも立ち上がって彼女に詰め寄り、この胸の内を全てぶつけてやりたい衝動を抑えるのに必死だ。
今日もまた妻の作業が終わると、彼女はため息をついて俯く。そしていつもの顔でこちらを振り向き、風が枯葉を撫でるような声でごめんねと謝り、これが最後の撮影だと告げる。
「あなたがこの動画を見る頃には…ママは…」
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