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SYNERGYCAプロジェクト note企画Vol.3—IMGSRCデザイナー・デベロッパーが語る『SYNERGYCA』にかけた想い

イメージソースにて幅広い領域のクリエイティブを担当させていただいた、住友化学株式会社(以下、住友化学)の『SYNERGYCA(シナジカ)共創ラウンジ』の施設設計プロジェクトは、クリエイティブの密度や濃さといったものはもちろん、規模としても大きな案件でした。クライアントやその先のお客様に喜んでいただける働きができたのは、社内の様々な人材の活躍とチームワーク、共通した想いがありました。本記事では、各コンテンツを担当したデザイナーとデベロッパーにその想いを語ってもらいました。

<インタビューメンバー>
菅野 悟史|Satoshi Kanno
ディレクター・マネージャー
本田純一|Junichi Honda
テクニカルディレクター
小山潤|Jun Koyama
アートディレクター・デザイナー
石井つぐみ|Tsugumi Ishii
デザイナー
猿橋朋子|Tomoko Saruhashi
モーションデザイナー
梅園孝|Takashi Umezono
デベロッパー
鳥井 裕太|Yuta Torii
デベロッパー
大塚賢太郎|Kentaro Otsuka
デベロッパー
小久保 由惟|Yui Kokubo
デベロッパー

<聞き手>
圓島努|Tsutomu Marushima
アートディレクター・デザイナー

▶公式サイト|SYNERGYCA

▶IMGSRC WORKS|SYNERGYCA


「テクノロジー」コンテンツ

「テクノロジー」コンテンツは、「Playful Materials」をコンセプトに、8面からなる壁面ディスプレイと、Webブラウザを通じた体験で、住友化学の取り組み・技術・製品を紹介、まるで子どもが新しいおもちゃで遊ぶように、楽しくアクティブにマテリアルの新しい世界を体験できるコンテンツです。

膨大な製品群の情報整理および情報設計をもとに、ビジュアルプロダクション、アーキテクチャ設計、インタラクションデザイン、UX/UIデザインからフロントエンド開発、什器デザインの各領域をインテグレーションすることで、膨大な情報量と複雑な情報構造を感じさせない軽やかな体験を叶えることができました。

リモートネイティブなクリエイティブ制作

圓島:オフライン体験である壁面インスタレーションとオンライン体験であるWebとが連携したこのコンテンツのUX/UIデザインは石井さんが担当してくれましたよね。プロジェクト初動のリサーチ段階からロングランで動いてもらいました。カラースキームやタイポグラフィーといったブランドエレメントの設計から実装やユーザー体験を見据えたUIデザインで、全体を俯瞰して高いクオリティを実現できたと思っています。プロジェクト全体を振り返り、どうでしたか?

石井:これまでおこなってきたインスタレーション案件では、実機確認をしながらのデザイン制作を基本としていましたが、本案件はコロナ禍における長期的な制作となりましたので、デベロッパーと実機や現場で都度やり取りをしながらではなく、デザイン上で検証できるものは私の方でおこない、社内での検証や現場での調整は菅野さん(ディレクター)と圓島さん(アートディレクター)とリモートで会話しながらおこなうという変則的な進め方は、自分としてチャレンジングなことでした。

菅野:普段とはだいぶ異なる進め方でしたが、リモートでの打ち合わせを多く設けることによってクオリティを担保できたのではと思います。製品ごとのカラースキーム策定や、日・中・韓の言語対応など、デザイン的に難しい課題もありましたが、石井さんのきめ細やかな仕事が印象的でした。

石井:Figmaを用いたデザインを会社や現場で画面共有をしながら確認するといった、リモートワークならではの進め方でも、誰かに丸投げをするのでなくチームみんなで相談しながら進められたことは良かったと思いますし、完遂したいま振り返ると、難しく感じたことがありながらも乗り越えられたのではと。言語表記の違いによって読みやすさや画面の印象が変わってしまう文字のデザイン検証なども丁寧におこなっていくことで、納品後にネガティブなフィードバックもなかったのではないでしょうか。

体験の基盤となるアーキテクチャとユーザーフレンドリーな体験の橋渡し

圓島:体験者にとってベストな体験をつくるうえで欠かせない、技術選定やアーキテクチャ設計といったテクニカルディレクションでは、本田さん(テクニカルディレクター)の方で、かなり熟考していただきましたよね。

本田:データベースは初期の段階でコレだというものが決まっていましたが、壁面のインスタレーションでゲームエンジンのUnityとソフトウェアのElectronどちらを選定するかというのは、ギリギリまで迷いました。菅野さん(ディレクター)には多くの検証に付き合ってもらいました。ハードとの連携といった基本的なことはもちろんですが、情報が膨大な時には、例えば戻るのボタンひとつでも単純に戻るではなくそのアイテムが所属するカテゴリに戻るを指定するなど、体験している方が苦痛に感じないように設計するのですが、そういった体験者への配慮のようなものを多角的に捉えて選定していきます。デザイナーのこだわりの具現化をしつつ。

圓島:膨大な製品群を飽きることなく体験者に楽しんでいただくこと目指して、デザインチームとして、こだわりは高く持ちつつ、デベロッパーチームに苦労もかけつつ(笑)、体験設計と実装ができた案件だったと思います。

菅野:ベストな選択と実装をザインチームとデベロッパーチームがひとつになって制作していた案件でしたね。入社間もないながらもワイヤーフレームのモーション試作から参加してもらったモーションデザイナーの猿橋さん、入社後1年半のデベロッパー小久保さん、イメージソースで長くデベロッパーとして活躍している大塚さんと、在籍期間に関わらず個人のスキルを活かしたワンチーム感ある制作をしていたのが印象的でした。

小久保:壁面インスタレーションでは、ライブラリの基盤となるReactとの相性や、触って動作するといったインタラクティブな面で相性がいいライブラリを使用し実装しました。他社で映像制作の経験を積んできた猿橋さんが入社したこともあり、デベロッパーとモーションデザイナーとが協力した表現に挑戦したいと申し出、このような大きなプロジェクトでもイメージソースのいちデベロッパーとして技術を発揮できるいい機会になりました。After Effectsで作成したモーションのデータを値通りに実装しても実際の画面では異なった印象となる点などを、現場で調整していきました。

猿橋:キービジュアルのモーションデザインでは、「テクノロジー」コンテンツ、「歴史」コンテンツ、公式Webサイトと、それぞれの空間を意識した制作となりました。今回Webでの制作をはじめてさせていただいたので不安もありましたが、そこは圓島さんや菅野さんとディスカッションしながらブラッシュアップしていきました。モーション制作のスキルがWebにも活かせるという手応えも感じましたし、After Effectsで制作して実装する、小久保さんとのコラボレーションの流れも良かったのではと思っています。

圓島:抽象度の高い画作りのなかで時間をかけて精度を上げていったモーションキービジュアルは、最終的にインテリジェンスな雰囲気に仕上がったと、デザイン監修をされた柴田文江さんからも評価をいただきました。このデザインは、今回のプロジェクト全てに共通するエレメントをプライマルな形体に抽出して、私と猿橋さんを中心に詰めていったものです。光のメタファーや柔らかい建築の様なイメージを取り入れ、最終的に満足のいくものに仕上げることができました。

猿橋:光のニュアンスを見せるため、3Dで動きをつくり込むというよりも、色味で光を表現し品のあるものに調整していきました。アートディレクターやディレクターと何度もディスカッションを重ねたコミュニケーションの結果だと思います。

菅野:大塚さんがハンドリングしてくれた壁面のインスタレーションは、スピード感をもちつつ途切れることなく次々とページ閲覧できる体験性が、クライアントから好評でしたね。

大塚:壁面のインスタレーションでは、ページ単位でデータ取得するWebとは違い、ローディングの際に一括取得することによって、ストレスのないページ遷移ができる仕組みにしました。そのことによってアプリケーション自体が軽快に動いたのではと思います。また、モック段階のアニメーションをもとに、デベロッパーからもベストな体験性を提示して、体験するうえでの軽快さや体験にとって一番重要な課題について社内調整できたことも大きいと思います。アニメーションは活用手法によってエクスペリエンスを高めることもあれば損なうこともあるので、そういった選定や意見をデザイナーと調整していくのもデベロッパーの役割だと思っています。

菅野:最終的に、UX分野でいう「自己帰属感」のある体験が実現したと思います。さらに今回、壁面ディスプレイの横にあるマテリアルライブラリーに展示されている製品と一緒に、製品情報を読み込むRFIDカードを使用したことは、体験全体にアクセントを与えてましたよね。担当した梅園さん(デベロッパー)、いかがでしたか?

梅園:展示する数に決まりがない状態で、今後増えたり減ったりすることを考え「RFID」を、また什器サイズも決定していなかったのでソフトウェアは「Raspberry Pi」を選択しました。「RFID」に関してはこれまでも使用実績はありましたが、今回、販売元のメーカー担当者との調整をおこなったので、そこは今回知見を溜められた点だったのかなと思います。仕組み自体は交通系ICカードと同様ですが、今後運用していくにあたり要件整理と選定をおこないました。壁面ディスプレイとの連携はこれまでの経験がありスムーズでしたね。

「歴史」コンテンツ

「歴史」コンテンツは、施設エントランスに位置する映像インスタレーション。「Passage of Time 時の路(みち)」をコンセプトに、住友化学の創業から現在までの歴史を、「スタンバイ・モード」、「クロニクル・モード」、「ワールド・モード」、「マテリアル・モード」の4つの映像体験は、文脈と視点の整理をした映像制作をはじめ、什器デザイン、アプリケーションデザイン、サウンドデザインとトータルな設計をしました。羅列的に扱われやすい「企業の歴史」をフィジカルに感じられる体験をめざしました。

「壮大」「エモーショナル」な空間を設計するために

圓島:このインスタレーション開発では、共創の場の入り口となるエモーショナルな体験として、住友化学の歴史をひとつの宇宙空間のようにとらえて、壮大さを感じさせる体験にするというテーマがありましたが、小山さん(アートディレクター・デザイナー)や鳥井さん(デベロッパー)とは、プロジェクトの序盤から最終段階まで、途切れることなく、対話をしながら制作していきましたね。

鳥井:共創の場である『SYNERGYCA』は空間デザインもフレキシブルであることが大切にされていましたので、この歴史コンテンツがあるエントランスも開放的な空間となっていました。壁が湾曲し2画面あること、没入感を高めたいのに光が差し込んでいること、難しい前提条件があるなかの制作でした。とくに湾曲した空間であった点では当初より難航しそうだなと踏んでいました。

圓島:モニター画面で観て良い感じでも、湾曲した壁面向けに調整しないといけないという。

鳥井:はい。空間の奥行きをイメージできるよう、3Dソフトで進めていましたが、現場で実際に見た際に違和感があったりと、体験者目線で空間体験を成立させる点には苦労しました。試行錯誤した結果、2D的に縦横での拡大縮小とで動かすといった判断をし、一歩一歩詰めていきました。

小山:モックはめちゃくちゃ綺麗なのに現場で違うなと何度も試作できたことは良かったですね。デベロッパーとそういった感覚の共有ができるのはチームの強みであると感じています。2Dでのデザイン制作では、縦横と上下、どう動かしたら長い時間見ていられるようなものにできるかといった点で苦労しました。
ある時、社内でのディスカッションで映像の流れや動きの構成をガラッと変えた時があって、その時がブレイクスルーで、一気に完成に向けて動きはじめた印象があります。体験の強度を上げるためには、チームメンバーと何度もあきらめず対話していくことが必要ですね。

鳥井:ちょうどその時期に日山さんや中村さんのサウンドができあがってきて、自分のなかでのイメージが固まっていくきっかけになりました。サウンドに合わせ現場で調整していった際にもクオリティが上がったなと思っていました。

SYNERGYCAプロジェクトの経験を通して

菅野:クライアントをはじめ、チームメンバー、各パートナーと、前向きに、一緒に紐解いて積み上げていく経験ができましたね。みなさん口々におっしゃっていましたが、まさに「共創の場をつくるための共創」だったと思います。また、対話を繰り返しつくっていく制作過程もプロジェクトの大きな特徴でした。つねに変化しながら研ぎ澄まされたものづくりをしていくこのスタイルは、イメージソースのプロトタイピングのマインドによく似ています。今回60名ほどのパートナーがいる大所帯の座組みのなかでも、しっかりとしたクリエイティブドリブンの考え方を持ちながらプロジェクトを進めていったことは、クライアントに寄り添い、喜んでいただいた大きな要因であったと思います。

本田:エンジニアサイドとしては、普段は直接クライアントにお会いしてリアクションを聞くことのないWebチームもいい経験ができたのかなと思いました。デベロッパーチームとしても、インスタレーションチームとWebチームで一緒にやる案件は近年あまりなかったので、そこはイメージソースの新たな強みになったかなと思います。Webも組み合わせたインスタレーション、かつ規模感も大きい。今までとはタイプの違った案件を通し、立場や経験年数といった括りにとらわれることのない、イメージソースの新たな活躍が見出せたのではと思い、クライアントをはじめとしたチームのみなさんに感謝しています。

圓島:プロジェクトを通して様々な課題がありましたが、何をどう見せていこうかといった点に自信をもって進められたのは、事前のコンテクスト・リサーチがあっての結果であったと感じています。膨大な情報や様々な要件をもとに、造形的な共通点や文脈をつなげて、一本筋の通った新しい価値をチームでつくりあげていく経験は、今後のイメージソースのクリエイティブの提供価値のひとつになったと思います。

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インタビュー撮影:
阿部 大輔 Daisuke Abe / Photographer (bird and insect ltd.)
野口 章子 Akko Noguchi / Retoucher (bird and insect ltd.)
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