SYNERGYCAプロジェクト note企画Vol.1 — 共創的な関係から生まれた『SYNERGYCA』というクリエイティブ・シナジー
住友化学株式会社(以下、住友化学)の東京本社移転にあわせて新たにオープンした『SYNERGYCA(シナジカ)共創ラウンジ』の設置プロジェクトに参画したイメージソース。施設全体のキービジュアルやサウンドプランニング、住友化学の「歴史」「テクノロジー」の2つのデジタルコンテンツの企画・設計・デザイン・制作など幅広い領域のクリエイティブを担当した。設置プロジェクトの完遂に至った背景について、様々な協業企業との関係性などを、今回住友化学・ 同施設ダイレクターのクナップ カルロス氏を迎え、インタビュー形式でお話を伺ったので、以下に記事をお届けいたします。
▶公式サイト|SYNERGYCA
▶IMGSRC WORKS|SYNERGYCA
SYNERGYCAとは? プロジェクトのはじまり
-まずはじめに『SYNERGYCA』がどのような場所であるか、プロジェクト当初よりあるコンセプトについてお話しいただけますでしょうか。
クナップ:『SYNERGYCA』は、住友化学グループのテクノロジーを、見て、触れて、体験していただきそのうえで交流や議論を通じて新たな価値の創造につながるアイデアや気づきを生み出すための共創の場です。「世界を化(か)える話をしよう~Chemistry for innovation~」をテーマに、住友化学の社員と、産学官様々な分野のお客様との間で、相互に理解を深め、語らうことを大切にしています。
自社単独での技術開発や事業化に拘らず、自社では難しいところは他社と一緒にやる、いわゆる「オープンイノベーション」がひとつのキーワードです。住友化学では2019年頃より積極的にオープンイノベーションの推進に取り組んでおり、国内外で活躍するスタートアップや官学との連携強化などを図っています。そのような状況のなかで『SYNERGYCA』のような共創の場の必要性を検討しました。
2020年から約半年間、住友化学社内の複数部署から人を集め、ワークショップ形式で、共創の場のようなツールの必要性とあり方について議論しました。そのワークショップでわかったことは、自社の社員ですら、会社の事業領域の広さから、普段関わりの薄い事業領域の製品や技術、そして会社全体の活動について把握し、他者へ説明することが難しいということです。また、「社外との交流の際に、お互いの興味を話すだけでなく可能性を見出す議論をしたい」「会社に顧客を招待する際に、あちこちに点在する工場や研究所について一括してご紹介したい」といった社内ニーズがあることも分かりました。
そこで、そういった社内ニーズにこたえる共創の場を設置するため、共創の場づくりに知見と経験のあるKOKUYO様をパートナーに、プロジェクトを立ち上げました。
圓島:100年以上の歴史と多岐に渡るプロダクト、技術、未来に向けた研究と、長く広く展開されている企業ゆえのニーズですね。『SYNERGYCA』の世界観を表現するために当初から大切にしていたことをあらためて教えてください。
クナップ:「フレキシブル」×「リアル」×「バーチャル」の3つの要素です。「フレキシビリティ」については、時代の変遷やその時々のニーズ、人数の変化にも対応できるよう、壁を極力少なくしました。また、四角い会議室とは違う雰囲気で、住友化学社員と来客者がフラットに意見交換できるように、円を基調とした空間デザインとしました。デザインや工事に携わった方々の苦労話を伺うと相当大変だった模様ですが、非常にシンプルで自然な空間に仕上がったと感じています。イメージソースに担当していただいたデジタルコンテンツも人がナチュラルな気持ちで居られるといった空間の特徴に合ったものに仕上げていただきました。
「バーチャル」については、コロナ禍によりニーズが高まったものです。最初の共創の場の必要性を検討するワークショップをスタートさせ、1ヶ月程で世界はコロナウィルスに飲み込まれ、急にすべてがオンラインでのコミュニケーションとなりましたので。
圓島:プロジェクトの根幹を揺るがす状況が生じたのですね。
クナップ:はい、ですが大変ポジティブな私はチャンスだと思いました。世界が変わりコミュニケーションの方法が多様化する中で、リアルでも、バーチャルでも、そしてハイブリッド形式でも、人と繋がり、対話を進めることができるようにすべきだと感じていました。リアルと相違ない体験をバーチャルでも実施できるよう、イメージソースの皆さんにお知恵をお貸しいただきました。
▶プロジェクト概要・主要パートナー等|住友化学
良いクリエイティブはフラットな関係でこそ生まれるもの
-多くのプロジェクトメンバーと共創空間を作るうえで意識されたことや共有の仕方について教えてください。
クナップ:プロジェクトメンバーのみなさんがフラットな気持ちで進められることは良い価値創造を行うために、必要なことと認識しています。特に、今回のプロジェクトは、住友化学の我々だけでは絶対にできないことを、パートナーの皆さんに依頼させていただきましたが、フラットにその道のプロの意見に耳を傾けるのは当然の姿勢だと思います。共創の場を創るためのこの協力、連携こそが、正に”共創”であると、強く感じました。
今回のプロジェクトは、例えるならばまるで「馬車」のようだと感じました。最初は数人ですが、プロジェクトが進むにつれて徐々に乗る人が増えて、互いに気遣い合いながら、走り続ける。プロジェクトに参加したての方がいる際には、みんなで同じ場所に向かっていけるように、できるだけ情報共有することを心掛けました。これまでも数多くの体験づくりをしてこられたイメージソースの皆さんが加わった時は、すでにできつつあったコンセプトが、一気に具現化していく推進力を感じました。
菅野:迎え入れてくださる雰囲気をとても嬉しく思っていました。プレゼンの際のフラットな雰囲気が何より印象的で、弊社の考えもしっかりと受け止めてくだったうえでのご返答やご提案、さらには活発にディスカッションできたことが、私たちとしても楽しく、やりやすく、最善の方向に進められた大きな要因であると思っています。
圓島:プロジェクトの進め方がアジャイル的だったことも良かったですよね。イメージソースはプロトタイピングが企業の文化としてあるので、提案して是非を問うような進め方ではなく、クリエイティブの過程を共有しながら、どんどん実現に向けブラッシュアップしていくこの進め方がマッチしていました。クナップさんのお人柄と冷静なご判断、KOKUYOの江崎さんのプロジェクトマネージメントの手綱さばきや、施設全体のデザイン監修を担われた柴田文江さん、先にチームに参加されていたコンセントさんやスマイルズさん、みなさんが、共創の関係にあって素晴らしいなと。
クナップ:そう聞いて安心しました(笑)。
何が大切なのかを見抜くことがクリエイターの役割
-イメージソースが参加後、プロジェクトにあった課題やその解決はどのようにしていったのでしょうか。
圓島:今回のプロジェクトは、イノベーションのための共創スペースをつくるという新しい取り組みであることはもちろんポイントのひとつなんですが、コンセントさんからプロジェクト参加のお話をいただいた当初から意識していたのは、住友化学グループの、1世紀以上の歴史や化学分野の事業領域のグローバルな規模感を踏まえ、このプロジェクトを契機に住友化学が、どういった新しいスタートを迎えると良いのか、どういう未来に向かっていくと良いのか、ということでした。
当初ご相談いただいたのは「歴史」「テクノロジー」2つのデジタルコンテンツでしたが、『SYNERGYCA』という存在を私たちなりに理解するには、もっと根源的な課題を設定し掘り下げる必要があると感じていました。また、その課題に応えられるクリエイティブを提案するためには、頂いた要件を多くのリサーチをもとに一度分解・再構築し、住友化学のエッセンスや本当に必要な要件を私たちなりに確信的に見抜くことが必要でした。
-そういった課題の本質を見抜いたうえでクリエイティブにつなげていったんですね。
圓島:そうですね。クリエイティビティやテクノロジーが人間のコミュニケーションを活発化させる存在であるために、私たちの提供するクリエイティビティやテクノロジーが、もっと空間的で、ユーザーとの関わりも自然なものであるべきだという想いから、サウンドデザインの提案もさせていただいたりしましたね。
イノベーションというと、新しいテクノロジーや画期的なサービス、時価総額幾らといったキラキラした部分がフォーカスされがちですが、例えば服についているボタンのように、静かでさり気ないけれども、その存在の前後で明らかに世界を変えてしまうものが実はイノベーションなのではないかと、経済学者の成田悠輔さんが仰っていたのを思い出しましたが、『SYNERGYCA』という共創の場も、自然に、さり気なく社会や世界を変えてしまうものとして成立するよう、イメージソースのクリエイティビティがお役に立てればと心掛けていました。
クナップ:この点はとても大事なことだと思います。結局、人と人との対話やコミュニケーションが大事であることを気づかせてくれたのも、イメージソースの皆さんです。イメージソースは常に人を中心に考えてくださり『SYNERGYCA』のコンテンツは、どのエリアでも、人とコミュニケーションがどんどん進むきっかけとなっていると思います。オープンして2ヶ月経ち、来ていただいたお客様からコンテンツを見ていただいて、住友化学への興味が湧いたとのコメントや、住友化学のことが良く分かったとの反応をいただいており、嬉しく思っているところです。
吉井:UXファーストですね。何が一番適切かをみなさんで突き詰めていった結果だと思います。イメージソースではもちろん、技術やインタラクティブの押し売りはするつもりはなく、あくまでUXとして適している技術やデザインを突き詰めていっています。お客様やファシリテーターの動線、案内の手順などシュミレーションした時に、長期運用も踏まえ、最適な構成を導き出すことができたと思っています。
当初検討されていた入り口や壁面ディスプレイでのセンサー導入はナシにするなど、弊社が入ったことで、いわばノイズとなるような技術は省くといった取捨選択がスムーズであったとプロジェクトメンバーからも嬉しいお言葉をいただきました。ただ指示された通りにしかやらない会社とは違うと。イメージソースの提案するUXは、単純に使いやすさだけではなく、記憶に残るようなものとのバランスを常に考えられたものです。今回の制作では、壁面にディスプレイパネルを8面使用して印象的なものにしたいとか、エントランスで映像投影するプロジェクターは2点でも没入感あるものにしたいなど。あとは情報の羅列ではなく、価値のあるものとして提供することもミッションとしてあり、突き詰めて設計していきました。
圓島:バランスのチューニングはUXの要ですよね。エントランスでの「歴史」コンテンツエリアでも、なにが大事か、住友化学のなかでも異なる立場や意見など無数のレイヤーやグラデーションがあったと思うのでそこを対話して詰めていくお時間をいただいたことも、助かりました。
菅野:プロジェクトを進めるうえで私もみなさんも大切にしていたのは「対話」であったと思います。最終的に『SYNERGYCA』を訪れる方の体験に繋がることを心に留めながら、私も「対話」を大事にした会議全体のファシリテーションや資料の提示、現場でのデモンストレーションなどをおこなっていました。
古川:クリエイティブ制作のハードルのひとつに、相反する物事をうまく着地させることがあると思いますが、今回の「対話」を大切にしたプロジェクトでは、そのプロセスにケミストリーを感じました。例えばエントランスの「歴史」コンテンツ のディレクションで言えば、限られたスペースでありながら光が差し込んでしまう空間のなかで、没入感とインパクトのある映像を出したいといった希望をどう叶えていくか。「対話」を通して化学反応のような驚きのあるものを生み出せたのではと思っています。
-様々な場面でシナジーが生まれたプロジェクトでしたね。
クナップ:『SYNERGYCA』は、プロジェクトに参加したみなさんそれぞれのアイデアや考えが融合されてできた場所ですね。プロジェクトがスタートした当初には思ってもみなかったようなアイデアがどんどん出てきて、プロジェクトメンバーが互いに気づき、互いにアドバイスする姿が印象的でした。みなさんの想像を遥かに超えた『SYNERGYCA』が出来上がりましたね。
圓島:競合ともなり得るみなさんが集い、自社の役割を遂行するだけではない、いい影響を及ぼす関係ができたのは嬉しいことでした。
クナップ:良い意味でのコンタミネーションがされていましたね。みなさん、それぞれの意見を持ちながらも重なるところは重なる。そのような関係のなかでイメージソースに感じていたのは、いつも丁寧かつオープンでポジティブだということ。プロジェクトの都合で急な要望が入ることもありましたが、柔軟に寄り添ってご対応いただきました。まさに一緒に馬車にのっている感覚があり、同じ立場にいるかのような視点と態度で、ベストなソリューションをタイムリーに提供いただきました。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
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インタビュー撮影:
阿部 大輔 Daisuke Abe / Photographer (bird and insect ltd.)
野口 章子 Akko Noguchi / Retoucher (bird and insect ltd.)
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