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肌で記憶し、肌で思い出すあたたかいことば【身体と心のつながり】


誰かの誕生日のように暦を見て思い出すということではなく、その瞬間の空気感というか、肌で感じる記憶というものがある。何気ないときに「あ、そういえばこの季節に、あそこに行ったな、あの人がいて、あんなことあったなあ」と、その情景とその時の感情が脳裏に浮かぶというか、ダイレクトに体感として思い出すのだ。そして、改めて日付をたどってみると、それが何年前の出来事でも、やっぱりこの季節だったんだ、と答え合わせをすることがある。そういうことって、ありませんか?

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布団から起きだすとき「寒っ」

暖かいリビングから台所へ行っては「寒い、寒い・・・」

ベランダで洗濯物を取り込むときに「あーさむ、さむ・・・」

玄関開けて外出するとき「おーっ・・・さぶ」

と、最近ひとりごとの口ぐせのようになっている。

こんな寒さが身に染みる季節になり「そういえば・・・」

ふと思い出したことがある。

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7~8年前、看護大学で助手として働いていた。大学3年生になると10月から2月は病院や施設での実習があり(2020年度はコロナ禍で病院実習に出られない学校が大半だと聞くが)、その実習指導という形で学生とともに病院へ行っていた。早朝、病院の本館とは別棟の学生控え室でユニフォームに着替え、その日の実習についてのミーティングをし、渡り廊下を渡って、実習病棟へ向かう。

学生控え室は、元々は数十年前に小児病棟として使われていたという古い建物で、ちっとも暖房が効かず、冷たい床から底冷えし、時折すきま風が拭くようなつくりだった。寒さに身を縮こませ、両手をすりすりとさすりながら、30分間ほどかけて1グループ6名の学生たちがその日の実習計画をそれぞれ発表する。その後、本館へとつながる壁のない吹きっさらしの渡り廊下を一列になって歩いていく。ユニフォームは半袖のため、皆、腕にはサブイボを立てながら「さむーい!!」と声を出し、小走りになる。

屋内のエレベーターホールまでたどり着き、北風からはまぬがれるものの、暖房などはない。エレベーター待ちの数分間も、数十名の学生たちは口々に「寒い」「寒い」を連発し、ガタガタと小刻みに震えたり、自ら体を動かして寒さを紛らわせようとしている。


すると、ある一人の学生が突然『あったかいもの連想ゲーム!こたつ!』と言い出した。一瞬間が空いて、「お布団!」「ホッカイロ!」・・・次々に声が上がる。「鍋!」「お~いいねえ~」何人かのつぶやきが聞こえる・・・。エレベーターがやってくるまで、それは続き、いつの間にか、その場が笑いとほっこりとしたあたたかい雰囲気に包まれ、それぞれの実習病棟へと向かっていった。


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寒さと病院実習という交感神経緊張状態の中で、心地よさをイメージし、仲間と笑いを共有し、身体も心もリラックスして、血管がゆるんで、血流も良くなり、体温も0.0?何度かは上がっただろう。なによりもまず、心がほわっとあたたかくなった。余裕のない状況の中でも、学生がとっさに発した言葉、その機転とユーモアに感心し、心と身体のつながりと『ことばのもつ力』について体感として気づかされた。

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その当時の学生が、今どこでどうされているかは知る由もないが、看護職として働いていれば、もう中堅どころとしてその役割と期待を受け、力を発揮されていることだろうと思う。たったひと言で、その雰囲気で、目の前の人たちをあたたかくさせてくれる素敵なナースになっているだろうな。

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そんなほっこりとした思い出と同時に、その当時の自分がどこまで目の前の学生をあたたかく見守りサポートすることができていたのだろうか、と振り返ると自信がない。せめて、いまは遠くからでも、このご時世に懸命に働いているナースたちが、1日のほんの少しの時間でもいい、「おつかれさま~今日も1日よくやったよ」と自分を労り、ほっとできることを大切にしながら、自分らしさを忘れずに仕事ができるようにと願っている。



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