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スタートライン


栓を抜くと浴槽の排水溝に
悲劇がひとつ吸い込まれていった
うろおぼえのぬるま湯とともに
生まれる間もなく死んでいった

煙草を押しあてた畳の焦げ跡は、うれしいと後ろ頭をさするみっともない癖は、酔った勢いで初めて抱いた女の名は、夜ごと綿棒を突っ込まれる耳のはがゆさは、かなしいという言葉では足りないのだ、さみしいという言葉ではかなしいのだ、僕は中学校教師になりたかった、僕は一級建築士になりたかった、すべてが失われてしまう前に、誰かの人生を横切ってみたかった、

風呂掃除を終えて
缶ビールを飲んだ
コンビニの店員を思い浮かべて
いつものように自慰をして寝た

失恋とか中退とか完済とか星のもとだとか

終わりははじまりだなんて思いたくもないのだけど
また何か落ちてないかを探している
まるで明日が来ることを望んでいるかのように
拾われることも企てている

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