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桃の剥き方

 立派な桃が大量に届いた。それはそれはいい香りが漂って、もう本当に幸せ。(全部でいくらするんだろう)

 桃を剥いたことがないわたし、一個目、何も考えずにざっくり真っ二つにかち割った。見たことない種さえも半分になって現れて、思わず、え?と声が出た。愛らしい桃からは想像がつかないほど、おっかない感じの種。いくら指で引っ掻きだそうとしても、包丁で刺して引っ張りだそうとしても、びくともしない。桃にこんな種があるなんて聞いてないよ。林檎くらいのイメージだったのに。桃に文句を言っても仕方がないし、何としてでも食べたくて、種?の周りの実を大きい小さい関係ない切り方で乗り越えた。

 そのアンバランスな切り身でさえ、桃は輝かしかった。どんないびつな形でも桃は桃。ときめくほどに甘くて、口に入れるとたっぷりの水分が溢れ出して、なんという幸せ。ひとりであっという間にまるごと一個食べきってしまった。

 わたしは、次の日も桃剥きに挑戦した。動画投稿サイトで、「桃 剥き方」なんて調べて、いくつかの方法を学んだ。桃の頂点に十字の切り込みを入れて、そこにハサミを突っ込んで種を引っ張りだすという方法をやりたかったが、それに使えそうなハサミがないため断念。

 次に可能性がありそうな方法は、アボカド切り。くるくると種を中心に切り込みをいれて捻り、桃ををふたつにし、片側に残した種を包丁の角に引っ掛けて取る方法だ。切り込みを入れるところまではなんなくクリア。問題は捻るパート。柔らかい実に力を入れると、桃の果汁が溢れて仕方がない。無理。もう、勿体なくて勿体なくて、力を込められないし、種もなかなか頑丈。しょうがないので、さらにクロスするように切り込みををいれた。なんかそんな方法も見た気がして。それで捻ってみるが、やっぱり全然ダメ。結局昨日と同じ方法で桃を裁いた。
 この日は、贅沢なおかずの一品にする予定で、ちょっと高い生ハムを用意しておいた。食べやすいサイズに切った桃を皿に並べ、その隙間を埋めるように冷蔵庫にあったクリームチーズを置いていく。その上に生ハムを適当に乗せ、大粒の胡椒と塩を少々振り、仕上げにオリーブオイルをたらり。完成!
 甘い、しょっぱい、甘い、しょっぱいの最高峰。これが美味しいと思えることが大人になった証拠だと思う。ちょびちょび食べながら、ビールを飲む夜。出来すぎている。(桃は剥けなかったけど)これまたあっという間に食べきってしまった。一個じゃ少なく感じてきてしまっているが、桃はまだまだある。冷蔵庫にも、段ボールにも。(自分だけこんな幸せでいいのか……と、罪悪感に駆られてきた)

 あんまり得意ではない夏が、桃のおかげで少し好きになった今日この頃。冷蔵庫の二段目を陣取っている大量の桃を見ていると、それだけで顔がほころびた。

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