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【お薦めの一冊】 才能 vs 努力  / 「超一流になるのは才能か努力か」 アンダース・エリクソン ロバート・プール

今まで多くの本を読んできました。

その中には、私の人生に良い影響を与えてくれた本が沢山あります。

そんな本の感想を書き留めておくことで、私自身の備忘のためにも、また、これを読んで下さった方の本選びにも、少しでもお役に立てればと思っています。

なお、本書は題名の通り、いわゆる超一流と呼ばれた人たちが、その能力が先天的な才能であったのか、それても、後天的に努力で身につけたのかについて、科学的根拠に基づいて明らかにしたものです。

個人的には特にお薦めの一冊で、とにかくあらゆる人に読んで欲しい一冊ですがが、特に、子供を持つ親、子供に教育をする教師、自分で高めたい能力がある学生・社会人には是非読んで欲しい一冊です。

なお、以下では、「超一流になるのに必要なのは才能か努力か」についての結論にも触れていますのでご注意下さい。

1.著者 アンダース・エリクソン氏及びロバート・プール氏とは

本書は、心理学者のアンダース・エリクソン氏と、ライラーのロバート・プール氏との共著となっています。

ただ、本書で紹介されている理論は、アンダース・エリクソン氏の研究がベースとなっています。

【アンダース・エリクソン氏】

アンダース・エリクソン氏は、フロリダ州立大学心理学部の教授です。残念ながら2020年7月に逝去されています。

30年以上にわたり、スポーツ・音楽・チェス・医療などあらゆる分野における突出した成果をあげる超一流の人たちのパフォーマンス及びその源泉がどこにあるかを科学的に研究しています。

その結果、本書で紹介されている「限界的練習」理論を発表しています。

【ロバート・プール氏】

ロバート・プール氏は、サイエンスライターです。

上述の通り、本書で紹介されている理論はアンダース・エリクソン氏の研究成果ですが、本書は、アンダース・エリクソン氏とロバート・プール氏との両名が、互いに議論を交わし、執筆に取り組んだものです。

2.超一流と呼ばれる人たちの能力

昔から、私たち常人からかけ離れたパフォーマスをあげる超一流の人たちが少なからずいます。

モーツァルトは、7歳の頃から多くの楽器を弾きこなし、どんな音を聞いてもその音の高さを識別し言い当ててしまう絶対音感を持っていた。
カーネギーメロン大学のごく平凡な学生であったスティーブ・ファルーンは、1秒間に1個づつランダムに読み上げられる数字を、1回聞いただけで82個記憶することができた。
ロンドンのタクシー運転手は、その免許の取得のために、ロンドン中心街の半径約9.7キロメートルの地域についての全ての通り・主要な建物の名称・配置をほぼ記憶する。
ロシアのチェスプレイヤーであったアレクサンドル・アレヒンは、ニューヨークのチェスプレーヤー26名を相手に目隠しで対戦を行い(相手の打った手だけ、伝達係りに声で教えてもらう)、16勝5敗5引き分けという結果を収めた。
イタリアのバイオリニストであるニコロ・パガニーニは、演奏会の際、4本あるバイオリンの弦が3本切れ、1本のみになってしまったが、最後まで見事に曲を引き切った。
ハンガリーの心理学者ポルガーの3人の娘は、長女のスーザンは15歳で女性のチェス世界ランク1位となり、次女のソフィアも女性チェスプレイヤーの世界ランキングで6位となり、三女のジェディットは25年間にわたり女性チェスプレイヤーの世界ランキングで1位に君臨した。

上記の通り、音楽やスポーツといった分野だけでなく、あらゆる分野で特出したパフォーマンスを発揮した事例は多く見られます。

3.超一流になるにために必要なものは努力

では、なぜこのように驚くほど優れたパフォーマンスを発揮する人がいるのでしょうか。

このような人たちには、他人にはない生まれた持った才能があったのでしょうか。つまり、超一流になるか否かは、先天的な才能によって決まってしまうのでしょうか。

著者アンダース・エリクソン氏の研究に基づけば、彼らがこのように優れたパフォーマンスを発揮できた原因は、努力です。決して先天的な才能などではありません。

地道で長い期間にわたる練習こそが、このような能力を身につける唯一の方法だったのです。

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4.なぜ努力により超一流の能力が身につくのか

では、なぜ、超一流の人たちの能力は、持って生まれた才能ではなく、練習によって身につけられたものと言えるのでしょうか。

詳細なエビデンスについては本書で言及されていますが、その理由は、脳の神経可塑性にあります。

この神経可塑性とは、脳の適応性とも呼ばれ、脳の神経回路は後天的に変えることができることを意味しています。

つまり、人間の脳は、生まれた時点でその構造が決まっていて、その後は変化しないわけではありません。

どのような人も、生まれてからの学習・経験によって、脳の構造は変化していきます。

そのため、仮に何らかの能力を発揮する才能が脳に必要だとしても、その脳の構造は、誰もが後天的に得ることができることを意味しています。

つまり、脳は後天的に変えられる以上、どのような能力も後天的に得られるのです。

この脳の神経可塑性については、多くの書籍でも言及されており、例えば、集中力も練習により向上させることができる点は以下の書籍でも触れられています。

この神経可塑性が私たちに理解されにくい点は、脳の変化が目で見て分かり難い点にあります。

例えば、筋肉であれば、それを鍛えることによって、筋肉が強化され体つきが変わることを目で確認することができます。

一方、脳を鍛え、変化させても、頭が大きくなるわけでもありませんし、その様子を自分の目で直接見て確認することができません。

この点が、この神経可塑性が私たちに理解されにくい要因になっています。

しかし、MRI(電気共鳴映像法)で脳映像を確認すれば、脳の神経回路は確実に変化しています。

適切な訓練や練習を通じて人間の脳の神経回路を書き換えることで、様々な能力を生み出すことができるのです。

5.ただし、「正しい」努力が必要。ただ努力するだけでは能力は向上しない。

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このように言うと、誰でも単に努力さえすれば望む能力を身につけられるという印象を受けるかもしれませんが、本書はそれを明確に否定しています。

重要な点は、正しい努力が必要ということです。

そして、正しい努力には、適切な練習の質と量が必要となります。

具体的には、以下の2点が必要です。

(1)正しい練習方法を、
(2)十分な期間にわたって継続する

「どのような練習でも、とにかく継続さえしていれば、緩やかであれ能力は向上し続ける」と思っていれば、それは大間違いです。

英語を中学・高校・大学と何百時間学んでも、実際に英語を話せるようにならないのも、また、会社で何回も会議でプレゼンを行っても、スティーブ・ジョブスのようなプレゼンができないのも、上記の理論を踏まえれば当たり前です。

実際に、一度弾けるようになったピアノの簡単な曲を20年間弾き続けても、ピアノの能力はそれ以上向上しません。

また、趣味でテニスを素人仲間と20年間続けても、プロ級のテニスの腕前になることはありません。

6.正しい練習方法とは、限界的練習と呼ばれる方法

では、正しい練習方法とは、具体的にどのような練習方法でしょうか。

本書では、それを限界的練習(Deliberate Practice)と呼び、詳細に説明してくれています。

この限界的練習は、脳の神経可塑性を利用して、以前は不可能であったことを成し遂げる能力を徐々に獲得していく方法です。

この方法は、必ずしも超一流を目指す方だけでなく、私たちがある能力を身に付けたい・伸ばしたいと思った時には、あらゆる分野で活用することができます。

具体的には、限界的練習とは以下の特徴があります。

(1)はっきりと定義された具体的目標を設定する
(2)「集中」して「行う」
(3)フィードバックを得る
(4)コンフォート・ゾーン(居心地の良い領域)から飛び出す

それぞれ簡単に内容を紹介します。

(1)はっきりと定義された具体的目標を設定する

何より、まず自分が目指す能力につき、具体的な目標を設定する必要があります。

ここで注意が必要なことは、抽象的な目標ではなく、極力、客観化・数値化できる目標を設定することです。

「上手くなる」といった抽象的な目標でなく、数値化できる目標を設定します。

例えば「ゴルフが上手くなりたい」ではなく「ゴルフのスコアを90を切る」などです。

そして、上記の最終的な目標を達成するためのステップをさらに細かく分けます。

例えば、「スコアを90を切る」ためには、「ドライバーで250ヤードの飛距離を達成する」。同様に、パターやアイアンでも具体的な目標を設定します。

そして、そのような細分化した目標を踏まえて、その日行う練習で何を身に付けたいのかを明確にします。

(2)「集中」して「行う」

上記で設定した具体的な目標を意識して、その日に行う練習を集中的して行います。

ただ回数をこなすだけといった練習や、指導者の言われたことを行うだけの練習では意味がありません。

集中するということは、とても精神的に疲れる活動ですので、練習後に、脳の疲労を感じないのであれば、その練習には集中できていなかったと言えます。

長時間の練習をダラダラと繰り返すよりは、短時間を集中して行った方が効果があることも実証されています。

また、練習とは、実際に行動することを意味します。

あらゆる能力で大切なことは、「何を知っているか」ではなく「何ができるか」です。

数学の能力を向上させたければ、数学の問題を解き、ピアノの能力を向上させたければピアノを弾き、野球が上手くなりたければ、素振りをすることが練習です。

ピアノの教本を読むだけや、YouTubeで野球の解説を見るだけでは、能力は向上しません。

つまり、練習とは、集中して実際に何かを「行う」ことなのです。

(3)フィードバックを得る

練習の最中や練習後には、目標達成のために自分に何が足りていなかったのか、何がまだ習得できていないのか、どのように改善すれば良いのかといった点について、適切なフィードバックが必要です。

何らフォードバックがないと、ひたすら同じことを繰り返すだけの練習になってしまいます。

上記でも触れましたが、「どのような練習でも、とにかく継続さえしていれば、緩やかであれ能力は向上し続ける」と思っていれば、それは大間違いです。

フィードバックを得て、練習内容や自身の取り組みを改善していく必要があります。

なお、本書では、なかなかフィードバックを得られない状況にある方でも、どのように自分自身でフィードバックを得るかについても紹介されています。

(4)コンフォート・ゾーン(居心地の良い領域)から飛び出す

そして、最も重要と言えるかもしれない点が、この点です。

コンフォート・ゾーン(居心地の良い領域)から飛び出すとは、具体的には、今取り組んでいて、少し難しいと感じるレベルの練習を行うことです。

同じレベルの練習を繰り返しても、それ以上のレベルには到達しません。

常に、現在のレベルを少しだけ超えるレベル(今まで出来なかったことであるが、全く歯が立たないほどに困難ではないこと)に取り組むことが必要です。

このようなレベルの練習に取り組むためにも、上記(3)のフィードバックを得ることが重要になります。

7.超一流になるには、とてつもなく膨大な練習が必要

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上記の通り、正しい練習方法を行なったとしても、超一流になるには、もう一つ重要なことがあります。

それは、十分な期間、限界的練習を継続する必要があることです。

超一流に近道はなく、わずかな練習時間でエキスパートになる天才などは存在しません。

同じ限界的練習を行なっている者同士での能力の違いは、ひとえに練習時間の違いによることになります。

本書では、どのようにモチベーションを維持し、練習を継続するかについても様々な方法を紹介してくれており、参考になります。

8.限界的練習はあらゆる分野で活用可能

このような限界的練習は、あらゆる分野の超一流と言われる人たちが行なっていた練習に共通の仕組みです。

つまり、スポーツが上手くなりたい、楽器の演奏が上手くなりたい、英語が上手くなりたい、などあらゆる分野において、その能力を高めたい際に利用することができます。

もしかすると、脳の神経回路を変えることで、なぜスポーツが上手くなるのかと疑問に思う方もいるかもしれません。

確かに、特定のスポーツでは遺伝的な身体的特徴がパフォーマンスに大きな影響を与えることがあります。

例えば、バスケットボールやバレーボールなどは、身長という遺伝的特徴がパフォーマンスに大きな影響を与えることがあります。

ただ、そのような身体的特徴を除いては、スポーツなどにおける身体の動きをいかにスムーズに制御し、今後の展開を予測し、瞬時に適切な判断を下すかという点において、脳は重要な役割を果たします。

つまり、身体機能の反応についても、脳内での処理能力を向上させることができるのです。

9.残念ながら人生には才能も魔法もない。それでも人生は変えられる

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本書を読んで頂ければ分かりますが、残念ながら、私たちの誰にも、生まれつき信じられないような才能が備わっていることはありません。

また、漫画やテレビドラマのように、ある日突然、魔法のようなことが起こり、努力もなしに能力が開花するといったこともあり得ません。

どのような能力についても、地味で莫大な時間の練習のみが、それを獲得するための唯一の方法です。

どのような超一流と言われる人も、皆、途方もない努力によって能力を向上させたに過ぎません。

逆に言えば、誰でも、本書で紹介されている限界的練習を継続することで、自分の望む能力を身につけることが可能です。

人間の能力や人生は、遺伝的特徴などによっては決まっていないのです。

「私には才能がない」「私は昔から頭が悪いので無理です」「私はスポーツ音痴なので出来ません」などは、自分への言い訳に過ぎないのです。

また、「この子には運動は向いていない」「この子は音楽の才能はない」などと言った決めつけも、全く根拠はありません。

繰り返しになりますが、あらゆる分野における能力は、後天的に身に付け・向上させることができます。

将来のある子供の教育に携わる親や教師、また、自分の能力を向上させたいと思っている学生や社会人の方は、是非一度本書を読んで頂ければと思います。

人生が変わるかもしれません。

本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。

記事に関する質問など、何でもご遠慮なくコメント頂ければ幸いです。まだまだ勉強不足の身ですが、できる限り回答させて頂きます。