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バーチャルトレーニングが日本の未来を変える

 こんにちは。イマクリエイト株式会社の松迫です。
 最近スマートスピーカーと部屋の照明を連携させ、寝るときは虚空にむかって「おやすみ」と唱えています。

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 イマクリエイトでは、ヒトの空間三次元+時間一次元における「動き」に着目し、VR/AR技術を使って動きを記録・伝達するサービスを開発し販売しています。「ナップ」と命名されたそのコア技術は、これまで「見たり」「聞いたり」「読んだり」するだけでは難しかった技能の伝承を、バーチャル空間に「入る」といった新しい体験によって効率化しています。

ナップ01

 何か技能を習得する際、「習うより慣れろ」とはよく言ったものですが、実際には場所も、時間も、お金もかかります。ナップを活用したバーチャル環境でのトレーニングは、VR/AR技術を使うことで場所や時間にとらわれずに従来よりも速く正確に「習うより慣れる」ことを実現しています。

 本記事では、イマクリエイトの事業が今後数年かけて日本、そして世界に大きなインパクトを与えていくであろう理由を、一社員である僕が勝手に分析します。

技能伝承の課題解決

 少子高齢化が進む日本を初めとする先進諸国では、製造業や伝統工芸などの分野で技能伝承人材育成が大きな課題となっています。熟練の技術者の高齢化が進み、新人に十分に技能を伝承する前に定年退職してしまう例が増えてきています。また、製造業や伝統工芸の現場で働こうと思う若者が減り、若手の採用が厳しくなっている現状も高齢化に拍車をかけています。

 また、製造業の現場では長年「技は見て盗むもの」「習うより慣れる」という考え方が重視されてきました。これまでの歴史を否定するつもりはありませんが、実際問題として従来のそういった教育方法は数十年単位の下積み時代を要することになり、少子化やネット社会におけるスピード感を鑑みても、今の時代とはそぐわなくなってきています。

 イマクリエイトが開発する、「動き」をバーチャル空間に立体的に再現し可視化する技術「ナップ」を活用した様々なサービスは、VRやARといった新しいテクノロジーを使用していることから、「これまでにない画期的な教育方法」と思われるかもしれません。しかし実は、根本的な考え方は従来とほとんど変わりません。先にも述べたように、ナップを活用したバーチャルトレーニングは「習うより慣れる」トレーニングなのです。そして従来「技は見て盗むもの」と言われていたことは、ナップにおいては「技は『入って』盗むもの」と言えます。

 「画期的」と呼べるような従来との大きな違いがあるとしたら、それはナップは「時間と空間を自在に操れる」ということです。

 これまでの技能伝承の現場は、物理法則に縛られていました。師匠の技を盗みに、家から遠い工場に行かないといけない。練習用の道具は摩耗し、お金がかかる。師匠のお手本を毎回近くで見れるわけでもない。場所の移動や道具の切り替え、練習のフィードバックのやりとりには時間がかかる。(これが悪いと言っているわけではなく事実としての話です)
 物理現実に生きる以上、これらのことは言うまでもなく当然のことです。これまでの人類史上、数えきれないほど多くの人が技能習得の際にこの物理法則による制約に苦しめられたことでしょう。毎日お腹が空いて眠くなるのと同じぐらい、どうしようもなく、解決したくても出来なかったことです。

 しかし、バーチャルリアリティ技術を使えば、物理法則を超越できます。時間と空間を自在に操れます

 時間と空間を自在に操れる、とはどういうことか?いくつかのバーチャルトレーニングを例に挙げて説明します。

①時間をあやつる
 けん玉の技を習得したいとき、上手な人の動きをよく見て真似しながら練習したいところですが、そもそもけん玉上級者が近くにいることの方が稀ですし、見られたとしても速すぎて目が追いつかないなんてことがあります。これは色んなスポーツや芸能でも言えることかもしれません。
 バーチャルトレーニングでは、上級者の動きを空間三次元+時間一次元的に記録し、その動きをVR/AR内で再生することが出来ます。本当に目の前に上級者がいるかのような環境で、近づいて細部を見れたり、別の角度からのぞき込んだりできます。それだけではなく、上級者の動きをスローモーションにして見ることもできます。ここまでだと従来の映像教材の単なる3D版という感じもしますが、それだけではありません。
 バーチャルトレーニングはトレーニング自体をVR/AR空間で行うので、練習の際の時間の流れも操作出来てしまいます。時の流れがゆっくりになったような、玉がゆっくりと動く無重力空間のような環境で練習をし、徐々に物理現実の環境に近づけていくことで、いつの間にか実際にけん玉が出来るようになっているのです。

 溶接の練習は、母材と呼ばれる鉄板を用意し、それと別の金属を溶け合わせる作業をひたすら繰り返します。また、溶接には「アーク溶接」「半自動溶接」「TIG溶接」など様々な種類の溶接方法があり、それぞれで使用する道具も異なります。
 できれば練習物が出来上がるたびに先輩に見てもらってフィードバックを貰いたいところですが、先輩溶接工も自分の仕事があり時間は有限です。それに毎回母材を交換したり、別の道具を取りに行って持ち替えるということをしていると、積もり積もって相当な時間のロスにつながります。
 しかし溶接のバーチャルトレーニングでは、これらすべてを解決できます。
 1回の練習が終わったら、ボタン一つで母材や道具を即座に交換することができ、スムーズに連続して練習することが出来ます。また、練習中の動きや溶接の結果は全てコンピュータ上で三次元的に記録され、即座に分析します。熟練工と共に綿密に開発した評価のアルゴリズムに基づいて、その場で練習の評価をもらうことができ、次の練習に繋げることが出来ます。すべてバーチャルトレーニング内で完結するので、先輩溶接工の貴重な時間を割く必要もありません。新人研修生の時間も、先輩熟練工の時間も、どちらも以前より短縮できます。結果的に、ヒトの時間を操っているのです。

②空間をあやつる
 バーチャルトレーニングは、電気と機材さえあればどこでだって出来ます。いまやVR/ARマシンはバッグに入れて持ち運べるくらいコンパクトになっており、今後さらに小型化していくと考えられます。
 たとえば秋田県の伝統工芸品「曲げわっぱ」。お弁当箱などでも見かける、日本の素晴らしい伝統工芸の一つです。

曲げわっぱ

 曲げわっぱ職人は、他の伝統工芸や製造業と同様、後継者が徐々に不足している仕事の一つですが、仮にフランスに曲げわっぱに魅了された少年がいたとしたらどうでしょう。フランスで本場の曲げわっぱ作りを学ぶことは難しいでしょうし、日本に行くと言っても家庭の事情や金銭的にもなかなか「おう、行ってこい!」となることは少ないでしょう。最近の某ウイルスの影響が長く続いたとしたらなおさらです。
 しかしバーチャルトレーニングは、そんな距離の制約はものともしません。VR/ARヘッドセットさえ手に入れてくれれば、そのなかに曲げわっぱ職人の全てのノウハウが集約されています。フランスの少年も、バーチャルトレーニングで曲げわっぱづくりを習得し、フランス国内のスギやヒノキの木をつかってフランス産曲げわっぱをつくることが出来るのです。そしてそれは結果として、曲げわっぱづくりの技能がこの地球上で未来へと伝承されたことになるのです。

 ちなみに「ナップ:曲げわっぱ」はまだイマクリエイトでは開発しておりません。すみません。


 このように時間にも空間にも縛られないイマクリエイトのナップという技術によって、失われつつあった伝統的な熟練技は再び人々のもとに届き、習得の機会を得ることが出来るようになります。そして熟練者のワザはデジタル情報として保存されているので、人間の寿命とは無関係に、未来永劫残されていくのです。

 余談ですが、物理法則を超越できるバーチャルリアリティ技術とはいえ、人間の空腹睡眠欲は現在はまだ解決できません。時間と空間の制約を克服した人類が次に解決しようとするのは、「食事」「睡眠」なのではないかと日々妄想しています。僕も一生眠いので、ここが解決出来たら泣いて喜びます。

ジョブ型雇用社会との相性

 話は変わりますが、「ジョブ型雇用」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。欧米諸国では主流になっている働き方のことで、労働時間ではなく成果で評価する雇用システムのことです。対して日本型の雇用形態は「メンバーシップ型雇用」と呼ばれます。日本のメンバーシップ雇用が「人に仕事をつける働き方」なのに対して、ジョブ型雇用は「仕事に人をつける働き方」です。
 詳しくは、色んな記事があるのでそちらをご覧ください。

  従来のメンバーシップ型雇用において超過労働による過労死やパワハラが問題視される中、日本でもジョブ型雇用への関心が高まっています。
(とはいえ日本の歴史をみるとメンバーシップ雇用のメリットも多く、一概にジョブ型雇用への完全シフトがいいとはいえません。それぞれの雇用スタイルの「いいとこどり」をしたハイブリット型がこれからの日本に合っているという話もあります。)

 ジョブ型雇用は「仕事に人をつける働き方」と言われているように、会社で生じた課題に対して専門性の高い人を雇い、配置するスタイルです。つまり、ジョブ型社会においては何らかの専門性をもっていなければ仕事が来ません。これまでメンバーシップ型雇用をベースとした教育制度や社会構造の中で生きてきた多くの日本人にとって、なかなか世知辛い条件です。

 これからの日本がジョブ型雇用に近づいていったとき、実は「バーチャルトレーニング」が思わぬ真価を発揮するのではないかと考えています。

 高い専門性が問われるジョブ型社会において、新しいこども世代はそれに合わせてなんらかの専門性を持つべく教育されるでしょう。しかし、かつてのメンバーシップ型雇用時代に生きてきた世代にとって、大人になってから何らかの専門性を獲得するにはお金も時間も労力もかかります。手っ取り早く高い専門性を身につけ、働き口を見つけたいものです。
 そんな忙しくも悩める社会人の味方となるのが、バーチャルトレーニングです。先に述べたように物理法則にとらわれないバーチャルなトレーニング環境は、技能習得の効率が圧倒的に高くなっています。専門的な技能を素早く正確に習得するために、上級者のノウハウに基づいた必要最低限のトレーニングを時間と空間を圧縮してパッケージ化しています。

 子どもも大人も、自分に合った専門性を身につけ、社会に還元していく次の時代において、バーチャルトレーニングはこれまでにないほどのニーズを発揮します。

カラダだけでなく、ココロもアップデート

 さて、これまでは「身体の動き」にフォーカスしてきました。けん玉の技習得、ゴルフスイングのトレーニング、溶接の新人技能研修、どれも物理で存在する「カラダ」をアップデートさせるバーチャルトレーニングです。しかし、そのコアである「ナップ」技術は、カラダだけでなく「ココロ」をアップデートさせるポテンシャルも秘めています。この最後の項では、「ココロをアップデートする」その意味についてお話しします。

 冒頭でも述べたように、ナップ技術は「バーチャルリアルに『入る』」ことで「習うより慣れる」新しいトレーニングのコア技術です。これは必ずしも物理的な身体に限ったことではありません
 僕たちが自分の能力について悩むとき、「足が速くなりたい」「絵がうまく描けるようになりたい」「プログラミングが出来るようになりたい」など、手や体、頭脳を使った技能のレベルアップを求めがちです。それらは詰まるところ、指や手を上手に動かすこと、脳の働きとしての記憶力や思考力を高めることであり、「カラダ」のアップデートです。

 しかし僕たちが真に悩み、「変えたい」と思うのは、実は「心」ではないでしょうか?
 「ポジティブになりたい」「人に優しくなりたい」「やる気が欲しい」「依存から抜け出したい」。これらはどれも、身体をアップデートすることよりも難しく、それゆえ誰にとっても根深い悩みの種です。そしてその根深さゆえか、なかなか他人には打ち明けられない部類の悩みであることが多いです。
 「プラセボ効果」というものがあるように、人は心の持ちようが変わるだけで、身体にも大きな影響を及ぼします。能力を拡張するバーチャルトレーニング技術は、ヒトの「心」という未知の領域に踏み込み攻略できたときに、誰も開拓したことのない新しいステージにいけると考えています。

 とはいえ、「人々の心を操作しアップデートするビジネス」と言われると、怪しさがプンプンします。その怪しさゆえか、信頼できるビジネスとして成立している心のケアは、心療内科や精神科、心理カウンセリングくらいです。人の心にアプローチすることは、一歩間違えればその人の人生を狂わせてしまうことにもなるため、慎重に進めなければいけないテーマです。「心のアップデート」を直接のテーマに掲げたITベンチャーは聞いたことがありません。しかしだからこそ、挑戦する価値のあるテーマであり、沢山の人に良いインパクトを与えられる可能性を秘めていると思います。

 具体的に取り組むにあたっては、学術研究十分な実証データなど、信頼性の高い根拠をベースに、心をアップデートするバーチャルトレーニングを開発していくべきです。例えば、バーチャルリアリティと「心」のデザインが密接にかかわる研究の一つに、「ゴーストエンジニアリング」というものがあります。ゴーストエンジニアリングとは、アバターをはじめとする身体変容体験を通じて、自らの心(ゴースト)を自在にデザインする工学的技術のことです。こういった研究を社会実装する形でバーチャルトレーニングとして展開し、多くの人の心が豊かになるようなサービスを創っていきたいです。

 僕は、近いうちに「心」の時代が来ると考えています。いや、もう来ているのかもしれません。「多様性」という言葉が叫ばれ、ジェンダーや人種に関わらずお互いの個性を認め合おうという世界の流れ。「努力」「友情」「勝利」だけでなく「優しさ」の要素が大ヒットにつながった鬼滅の刃。それらはどれも無関係ではなく、人間の「心」というパーツにおいて密接に関係しているような気がしています。

終わりに

 短時間で正確に高い専門性を身につけられるバーチャルトレーニングは、まるで映画マトリックスに出てくる仮想世界トレーニングマシンのようでもありますし、ドラえもんに出てくる「アンキパン」「ほんやくこんにゃく」のようでもあります。

マトリックス

ドラえもん

 かつてSFの世界で描かれ、憧れられてきた技術は、現代において思わぬ形で実現へと向かって行っています。そしてその技術は、現実の社会問題や人々の生活と密接にかかわっており、人類がより豊かに幸せに暮らしていくためになくてはならないものになっていきます。
 そんなものを、イマクリエイトでは創っています。

 今ここにない未来を一緒に創る仲間、お待ちしております。

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