【The Process】まちづくり部を通して、こどもが主体的に参画できる地域に。~株式会社イツノマの都農町における取り組み~
宮崎県の中東部に位置する都農町。人口約9,500人のこの地域では、株式会社イツノマが運営する「まちづくり部」が新しい部活動(地域クラブ)の取り組みとして注目されています。
今回はまちづくり部設立の背景や活動内容、目指す未来像などについて、株式会社イツノマ・代表取締役社長の中川敬文氏へインタビューさせていただきました。
■株式会社イツノマ設立の経緯とまちづくり部
—株式会社イツノマ設立の経緯とまちづくり部について教えてください。
元々ベンチャー企業一筋でやってきました。ポーラでも新規事業開発担当だったので、約30年間ベンチャー気質で活動をしてきて、地方から日本を変えられるという感覚を持っています。
そのため自分の中のキャリアテーマとして「地方×子ども×ベンチャー」があり、子どもに可能性を感じています。
株式会社イツノマについて
会社のミッションは「人からはじまる、まちづくり」。ビジョンは「地方でワクワクを起こす会社」。活動内容は大きく、場づくりとまちづくり教育の2軸です。
場づくりでは、空き家や廃校の活用など、町並みづくりを企画から運営まで考えて行っています。また2軒の空き家と1台のトレーラーをリノベーションした「HOSTEL ALA」をつくり、町内外の人たちが共にまちづくりを学び、実践し、都農町の未来を創る「まちづくりホステル」を経営しています。
そしてもう1つがまちづくり教育です。まちづくりをテーマに、都農中学校で総合的学習の授業を年間24時間、各学年を担当しています。そこから発展し、小学生のゼロカーボン推進チームや、中学生で「まちづくり部」をつくって運営しています。
移住をしてから4年が経ちますが、4年目に町長が変わったことで「これまで4年間続けてきた活動がゼロになるかも知れない」という事態に陥りました。町は教育に理解があるので教育委員会の予算を新たに取得したため、今も継続させてもらっています。
なぜ「まちづくり教育」に辿り着いたのか
まちづくりの側面と会社の経営という側面の2つから辿り着いたのが「教育」でした。元々、教育に興味があったわけではないのですが、まちづくりや経営の実務に携わる上で、結果的に辿り着いたものが人であり、人が活躍するために総合学習や体験学習を大事にしています。
企業で採用担当をしていた経験上、べンチャー経営では人が資産だったので、面白い学生が必要だと思った際に「重要なのは高校生のキャリア教育だ」と思いNPOを立ち上げました。早い時期の教育をどうしていくべきかすごく考えました。
■まちづくり部設立の背景
—まちづくり部設立の背景を教えてください
「つの未来学」(都農中学校で総合的学習の授業を年間24時間実施)で、私たちの活動に興味を持ってくれた中学生がいました。しかし「土日に何かやろうよ」と声をかけても、部活が忙しくて参加できないという子が多くいました。それであれば、まちづくりの部活を作ったらいいのでは?と考えたのがきっかけです。
そこで部活動設立に関して、教育長と校長に直談判をしたところ、二つ返事で了承を得ることができました。部活として活動するためには顧問が必要になるため、まちづくり部は地域クラブにすることにしました。
また、部活動の選択肢の少なさも一つの理由です。私自身、サッカー部でしたけど、もちろんやりたいスポーツではありつつ、消極的にいうと、「他に面白そうな部活がなかったから」ともいえます。
特に、文化系における選択肢が寂しいです。都農中学校で文化系となると「美術部」と「吹奏楽部」の二択しかありません。もっというと、運動部か文化部かの二択も寂しいです。
起業や経済、建築、不動産があってもいいんじゃないか?そんな思いから、「まちづくり部」という提案がうまれていきました。
まちづくり部の活動内容について
—まちづくり部の活動内容について教えてください
月曜・火曜・木曜・金曜の週4日、授業が終わってから18時まで毎日このオフィスに来て活動します。具体的に何をしているかというと、話をしているだけ、という感じに近いかもしれません。ただし、月1回僕らの敷地でALAガーデンのイベントを実施しているので、まずはそこで年商10万円を目指しています。彼らはいま「稼ぐ」ということに興味を持っています。
また、去年の最初に「自分たちがやりたいこと100個のアイディア出し」を実施した中で、みんなが一番やりたいと思った事が「YouTubeチャンネルを作る」ということだったので、YouTubeチャンネルの運営をしていることも活動の1つです。
このように、まちづくり部では「稼ぐこと」と「YouTubeチャンネル運営」 の二本柱で活動をしています。まちづくり部の現在の部員数は6名で、全員が毎日参加しています。2年生が5名と1年生が1名。2年生の1人の子はクラブチームでサッカーを兼任している関係で、月曜、金曜だけ参加しています。
スタートしてから1年経った成果としては、部員6名が仲がとても良くなったことがあり、活動していてすごく良かったと思っています。
試験期間中にもみんなで土曜日に遊びに来ることもあるので、近所の子ども会の延長みたいなイメージですが、とてもいい関係性を築けていると思います。
まちづくり部の活動|ALAガーデンのイベント企画とYoutubeチャンネル運営
ALAガーデンのイベントでは「自分たちで何を販売するか?」という段階から決めて実際に原価計算もしながらお店を運営してお金を稼いでみる経験をしてもらいました。
例えば、一番最初は「カラフルジュースを売る」企画がスタートして「三ツ矢サイダーとカルピスを混ぜたものに、色素を入れてあなた好みの色を作ります。」というコンセプトでジュースを販売しました。
ジュースを100杯以上販売することができましたが、原料の仕入れ数が多すぎたり、 保健所の営業許可を取得するために3,600円かかったりと想定外の出費があったため1回目は 920円の赤字で終わりました。
その後は「次に何を販売するか?」を決める時に「原価が高すぎると儲けが出ない」など様々な議論をした結果、綿菓子という新しいアイデアがうまれました。
製造に使用する綿菓子機を町からレンタルしましたが、最終的には、4,000円ぐらい黒字化できました。 そういう風に、試行錯誤をしながらお店をやっています。
もう1つは、「つのさんぽ」というYouTubeのチャンネルを立ち上げて、撮影から編集して動画作成までの一通りを自分たちで行っています。先日、チャンネル登録者数が100人超えたところです。
※チャンネル登録をお願いいたします↓↓↓
まちづくり部の子どもたちに対する大人の関わり方として、一緒に悩むことや一緒にチャレンジすることを大切にしています。自分もお店をやったことがないですし、YouTubeも立ち上げたことがないので、教えようとしがちなところもあると思いますが、あえてフラットにチャレンジするスタンスをとっています。
子どもたちが「やってみたい」といったことを彼ら任せでいるとなかなか実現に至らないこともあるので、大人の役割としてある程度のレールを引きながら段取りを考えています。実現に向けて主導権は彼らに任せながらうまく役割分担し子どもたちと協働することを理想に掲げています。
—まちづくり部で今後実施したい事や発展をしていくといいなと思ってることありますか?
昨年1年間の振り返りを実施したときに、「何が一番楽しかったか?」を考えたところ「手伝いに来てくれる東京の高校生との交流が楽しかった」という意見が多くありました。
来月(取材日:5月28日)に新渡戸文化高等学校の学生が来る予定なので、そこでチームを作り「都農ワイン」という、地元のワインメーカーと「南国プリン」というプリン屋さんと「ヴェロスクロノス都農」 というサッカーチーム3社で、東京での PR企画 を一緒に考えるプロジェクトを設計しようと思っています。
中学生の興味が持続すればの話ですが町外の中高生、あるいは大人との交流を数多く仕掛けていくことが、個人的に理想かなと思っています。
まちづくりに一番必要なのは「未来志向」だと考えます。子どもたちがいちプレイヤーとして参画してる状態を作っていかないと、将来的にまちづくりは機能しなくなってくると想像しています。
■まちづくり部の活動を通して得られた気づき、今後育成したい人材
地域の素敵な大人との出会い、経営的な難しさ
都農町にも素敵な経営者が何人もいます。1万人の町で経営を継続することはとんでもない経営力が必要なので、会ってみると結構印象が変わると思います。
子どもたちにとってはそういう人と会うだけでも、経験としてだいぶ違うかなと感じています。逆に経営者さんも、子どもに会う機会が少ないという課題意識を持っているものの接点がないので、地元の中学生の為に協力を依頼すると最優先で来てくれます。 町の子どもと接点をつくることの重要性は町の経営者も感じています。
ただクラブ経営の視点で考えると、儲かりにくい話なので、なかなか難しいなと実際に運営していて感じてます。地域クラブの運営は国がしっかりと予算をつけない限り難しいと思っています。
地域における”起動人材”の大切さ
——地域において、どのような人材の育成を目指しているのでしょうか?
「まちづくり部」や「つの未来学」で目指していることは”起動人材”の育成です。”起動人材”とは、「いいことを思いついちゃったから、一緒にやろう!この指止まれ!」をする人なのですが。 何か言われたときに常に疑問を持って「なんでなんで?」っていうことが重要だと考えています。
「いいことを思いついちゃった」という感覚が教育のプロセスの中で言えなくなる現状があります。学校の授業は30人学級など大人数で実施しているので、言えなくなることは致し方ないことかと思っています。
だからこそまちづくり部のようなサードプレイスで「いいこと思いついちゃった!」というアイデアに対して、誰かが参加してくれるという経験ができる環境になると良いなと思っています。
また今後地域の主体になる人たちみんなが、自分がどうなりたいかを考えたり、言い合えたりするようになると、それが地域の未来につながるのではないかと思って、日々まちづくり部の子どもたちに関わっています。
まちづくりに若者がいない課題感と将来に向けて
「自分の町は自分が作っている」という感覚がないと、東京などの便利な地域に出たまま戻って来なくなると思っています。
町を出るのは 高校・大学・就職のタイミングなので、 産まれた町で過ごす時間は18歳になるまでの間。18歳までの間で子どもたちが経験することは、家や学校、塾、駅などに限られてしまっています。
学校と駅しか往復してない子も多い現状だと、子どもたちは地元の飲食店も知らないし、街のイケてる大人にも会ってないので、町のことはほとんど知らない状態で都市部に出て行くことになってしまいます。
なので自分が生まれ育った町に抱くイメージとして「地元は田舎だし、つまんなくて面白くないから帰らない」という話になりがちです。
小中学校の時期から町のかっこいい大人に会ってみたり町中のいろんなところに行ってみるなど、子どもの生活範囲では分からないことを体験してもらえると、まちづくり部を地域クラブとしてやっている意義が出てくると思っています。
■取材後記
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