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『ガイスト《ペルメア諜報特務庁の電脳スパイ》』|愛夢ラノベP【スパイもの】【ファンタジー】【短編小説】

第零部 第二次ペルメア戦争

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 火が走る。兵も走る。おまけに体に痛みも走る。
 ――バン! 乾いた銃声が自宅に響く。
 そのたった一発の鉛弾に父の命が奪われる。鮮血の赤、硝煙の白、鉄砲の黒。凄惨な場景に目が奪われる。

「お父さん!」と声が口から飛び出す。

 薔薇の花弁のようにバラバラと血が飛び散る。敵兵の罵声も飛び交う。それでも、意識だけは飛ばない。
 自宅は紅い血の海。街は赤い火の海。生き残るのは強い人のみ。
 父は、こめかみを撃たれた。もう言葉を発しない。私への愛すら語れない。

「お母さん……お母さん!」

 私を抱き締める母を揺する。しかし、返事はない。既に母は事切れていた。

「フハハハハッ、十二才くらいのお嬢ちゃんだ。俺が貰うぜ」

 大国ガレウスの賊兵が私を襲おうとする。思わず地べたを這いつくばる。

「イヤアァア、止めて下さい。見逃して下さい」

 頭を下げる。為す術のない私は、ただ自由を願う。赦しを乞う。悪魔のごとき敵に懇願しかできない。

「それは無理な相談だ。お前の初めてを貰うぜ」

「止めてぇー、離して。イヤアァアーン」

 ビリビリと服が破れる音。穢れた男の手を振り払う。すると、腹を蹴られた。私は「グハッ」と呼吸が止まる。

「大人しく言うことを聞きやがれ」

 男の手が体に触れる。胸を揉まれる。股をまさぐられる。
 理不尽だ。なぜ私だけが……どうせ為すがままにされても、私は殺される。ならば、抗おう!

「ウワアァアー」と立ち上がると、男を押し倒す。
 体勢を崩した男が銃を落す。同じく視線も落とす。銃を即座に拾う。銃口を穢らわしい悪魔に向ける。

「待て、待ってくれ!」と男が切望した。

「それは無茶な相談ね。お前の命を貰うわ」

 私は引き金を引く。銃が火を噴く。男の頭がスイカみたいに吹き飛ぶ。
 あぁ、人を殺したんだ。でも、あまり実感は湧かない。
 人の命は儚い――ガラス細工みたいだ。

「貴様、よくも同胞を」とガレウスの兵士が銃を構えた。

「全員、殺してやるわ」とリロードを試みる。

「待て、そこまでだ」と若い男の声がした。

「「はっ、テリムク大佐!」」

 残り二人のガレウス兵士が敬礼をした。私は震える手で銃を向けたまま動けない。
 テリムク――二十代くらいの男性、凛々しい顔立ち、身長は百八十センチ、逞しい体躯。
 水色の短髪で、群青色の軍服に黄色いズボンを合わせている。

「お前たち、ペルメアの捕虜に手を出すなと言っただろ」

 テリムク大佐は部下の一人を殴った。そして、彼は膝を突いて、私に優しい顔で非礼を詫びた。

「ペルメアの少女よ。どうか部下の無礼を許してくれ。そして、銃を下ろして投降してくれないかい?」

 私は迷った。嘘かもしれない。しかし、私は血迷った。彼の優しい笑顔と恐怖に負けた。銃を手放す。
 ――三年前の九月二十九日、ペルメア南部の戦争。
 これが私とテリムク大佐との出会いだ。そして、なぜか彼は敵国の私を三年間も育ててくれた。
 もちろん、テリムク大佐の胸中など知る由もない。




第一部 HOODOO作戦
第一章 祖国侵入

「はっ……また夢を……まだ私は過去に囚われているのね」

「オウル、どうした? 何かあったか?」

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 テリムク大佐が寝室にやって来た。彼の右手首にはクリスタルのブレスレット。半年前に私が贈ったプレゼントが煌めく。

「キャー! 乙女の部屋にノックもなしで入らないで下さい」

「痛い! すまん、心配だったもので……」

 私が投げた枕がテリムク大佐の頭にクリーンヒット。だが、大佐の覗きの方が酷い。自業自得だ。

「何でもありません。あの日の夢を見ただけです」

「そうか、着替えたら食事にしよう。もしかしたら、今日が最後の朝食になるかもしれないからな」

「大佐、不謹慎ですよ」

「あっすまん」と詫びだけ残して大佐は部屋を出た。
 ベッドから起き上がる。眠い目蓋を擦りながら、写し鏡の前に立つ。
 寝癖がついたブラウンのショートヘアーを解かす。自分で言うのもなんだが、梟のようなクリクリした丸い目が自慢だ。
 身長は百七十四センチ、スラッとした細身で雪のように白い肌。今はブルーのパジャマ姿だ。

「オウル、朝食ができたぞ。降りてこい」

 大佐の呼び掛けに、私は「えぇ」と返事をする。今、大佐の家の二階にいる。
 小さな勉強机、クタクタのお人形、可愛らしいワンピース――三年間も使った子供部屋だ。
 ただ、私が拾われる前から、その子供部屋は使われている気がした。私が来る以前に、同い年の少女が暮らしていた名残を感じる。

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「オウル、飯が冷める。もうすぐ迎えも来るから、急ぎなさい」

 大佐の急かす声に焦る。子供部屋を飛び出して、一階のリビングへ走る。そして、なに食わぬ顔で椅子に座る。
 大佐は手紙を読んでいた。黒革の手帳にメモを取っている。愛用の手帖だ。

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「大佐、遅くなりました」

「やっと来たか。朝食はポーチドエッグとクロワッサンだ。ゆっくり食べなさい」

「まぁ、私の大好物を作ってくれたのですね」

 私は思わず笑みが零れる。それをテリムク大佐は不思議そうに眺める。何か変だろうか?

「暫く俺の手料理も食べられないからな」

「悲しい事を言わないで下さい。でも、あの日から三年が経ちましたね」

 私はポーチドエッグにナイフを入れる。黄身が私の涙のように皿に溢れる。

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「あぁ、オウルも十五才か」

 私は「えぇ」と大佐の返事に少しムッとした。
 ――今日は九月二十九日。特別な日。まさか今日が何の日か忘れた訳ではないだろう。いや、忘れてしまったのか?
 敢えて、私は手首を動かす。ジャラジャラとラピスラズリのブレスレットを見せつける。

「オウル、準備はできているのか?」

「えぇ」と不満気に短く答える。
 はぁー、気がつかない。鈍い大佐にイライラする。私を愛娘のように育てるのではなかったのか?

「祖国をスパイする覚悟はできたのだな?」

「えぇ」

「どうした、様子が変だぞ。本当に大丈夫だな?」

「テリムク大佐、私はあなたに命を救われました。あの日、この命はあなたに捧げると決めたのです」

「そうか……任務の内容も理解しているな?」

「えぇ、私は三年前の戦禍を逃れて、大国ガレウスに亡命した少女。そこで、ガレウスにいた叔父に匿われ、秘かに電脳スパイの特訓をした事になっています」

「そして、お前はガレウスに見つかり、両国の密約の末、祖国に強制送還される。おそらくペルメア諜報特務庁の電脳スパイになる。今日は大切な面接日だ」

「分かっていますよ。ペルメアの諜報特務庁ガイストの実態を暴けば良いのでしょう?」

 私は答えつつ、わざとフォークを皿にぶつける。ガシャンと大きな音を立てる。
 腹が立つ。今日は面接日の前に私の誕生日でしょ!
 毎年、九月の誕生石をあしらったブレスレットをプレゼントするという約束はどこに消えたのか?

「そうだ。お前は祖国を裏切って、作戦の妨害工作をしろ」

「えぇ」

「それだけではない。隙があれば、伝説の諜報部隊のメンバーも抹殺しろ。部隊名は烏。小国ペルメアが戦争に負けないのは、機密情報を得ているからだ。容赦はするなよ」

「分かっております。私の生まれ故郷はペルメアですが、育ての国はガレウスなのです」

「やはりペルメアは許せないか?」

「当たり前です。自国を守るために、私の住む地区を見捨てた祖国に未練などありませんわ」

「そうか」と大佐の目が泳いだように見えた。気のせいだろうか?

「だから、ペルメアの民を殺す事など容易い事です。大佐の為なら、同族殺しも厭わないのです」

「すまない、幼いお前に辛い任務を言い渡して……」と大佐は俯く。

「大佐が謝る事ではありません。ペルメアが悪いのです。ペルメアが聖地を独占したのです」

「あぁ我々は、どれ程の代償を払ってでも、ペルメアの大地を取り戻さねばならない。あの高台は神と契約を交わした約束の地……如何なる災厄からも逃れられるという歴史的にも大切な場所なのだ」

「はい、いつかガレウスが聖地を奪還して、多くの人に救いを与えましょう」

「そろそろ、時間だ。ペルメアの特使が馬車で迎いに来る。荷物を持って、玄関に来なさい」

 テリムク大佐は立ち上がった。そのまま部屋を出る。
 おーい、誕生日プレゼントはないのかな?
 私は悲しくなる。この三年、大佐からの御祝いだけが楽しみだったと言っても過言ではない。
 辛い訓練も、悲しい日々も、その全てを乗り越えられたのは大佐との思い出があったからだ。

「はぁ、最悪の誕生日だ」と呟く。

「オウル、早く支度をしなさい」

「はーい」と私は部屋にいく。
 まぁ、持っていく荷物は僅しかない。戦火で遺品は全て燃えた。親の形見もない。あるのは……大佐から貰ったブレスレットだけだ。
 私は手提げ袋に数枚の服を入れ、一階へと降りた。

「それだけか?」とテリムク大佐は驚いた。

「えぇ」

「そうか……お前も十五だ。化粧の一つでも覚えなさい」

「これは?」と吃驚する。

「口紅だ」

「あっありがとうございます」と思わず頭を下げる。髪が靡く。

「オウルの好みが分からなかった。だから、紅い口紅にした。気に食わないなら、捨ててくれ」

「いえ、大切な作戦の時に使います」

「それと……これを」とテリムク大佐は私の右腕にブレスレットを着けてくれた。

「大佐、覚えていてくれたのですね?」

「あぁ、オウルとの約束を忘れた日はなかった」

「ラピスラズリ……何と美しい宝石でしょう」

「オウル、これから暫しの別れだ。辛い任務もあるだろう。だが、忘れるな。俺がオウルを守る」

「はい!」と敬礼をした。

「大丈夫、お前はペルメア人だ。ペルメアの警戒も薄い。それに大国ガレウスが後ろ楯となってくれるだろう」

「分かっております」と手を下げる。

「安心しろ。俺がいる限り、お前の身は安全だ。いつの日か、ガレウスに帰還させるからな」

 その時、別れを告げる馬車が到着した。私が玄関を出ようとした時、後ろから抱き締められた。
 大佐の吐息が耳にかかる。オーディコロンの薫りが鼻を刺す。温かな人肌が心に沁みた。

「たっ……大佐、いけませんわ!」と大佐の豪腕を握る。男らしい腕。

「最後になるかもしれない。オウル、何としても生きろ。諦めるなよ」

「えぇ」と声が上擦る。
 心臓の鼓動が高鳴る。それを大佐に聴かせまいと平穏を装う。髪で顔も隠す。おそらく頬は林檎のように真っ赤だろう。
 暫くすると、テリムク大佐が抱擁を止めた。私は恥ずかしさから顔を見せないようにして、ゆっくりと一歩を踏み出した。

「大佐、行って参ります。お元気で……ガレウスに幸あれ!」

「オウル、お前こそ健康には気を付けろ。寝坊もするなよ」

 大佐の忠告を背に、私は振り向かずに馬車へと向かう――祖国ペルメアにて同族殺しの誓いを立てて。




【筆者から一言】

 最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。
 本作は、スパイをテーマにした物語です。主人公のオウルが祖国に復讐を誓い、電脳スパイになるというストーリーです。しかし、あまりに暗すぎて一次すら通りませんでした。1年前は力作だと思っていましたが、読み返すと設定が荒かったり、主人公の行動がブレていたり、ご都合主義だったりと欠点が目に付きます。
 ほとんど応募も終えたので、続きはメンバーシップで公開しようと思います。ただ、フリー画像の選定に時間がかかるので、しばらく待っていて下さい。





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