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22歳まで牛乳嫌いだった僕が夢中になった冷たいミルクご飯「アロス・コン・レチェ」

昔から牛乳が大嫌いだ。どのくらい嫌いかと言うと、小学校1年生の時、毎日昼休みは机の上の牛乳とにらめっこして終えるくらい。もしくは、転校先の小学校では牛乳アレルギーと嘘をつくくらい。

チーズやアイスクリーム、グラタンとか乳製品は大好物だけど、牛乳自体は全然ダメ。あっ、牛乳にミロやコーヒーシロップを混ぜたものも大好物。給食で甘いコーヒーシロップが出た日は、牛乳アレルギーの癖に美味しく牛乳を飲んでいた。笑っちゃうよね。もちろん先生も、僕の嘘なんてお見通しさ。そんなこんなで、8歳から22歳まで牛乳自体を飲んだことがなかったんだ。

じゃあ、23歳に何があったのかと言うと、僕は愛する人と一緒になるためアルゼンチンに移住したんだ。どこだか分かる?アメリカ大陸の一番下にある国で、日本の真裏にある国だよ。

アルゼンチンの人々の主食は牛肉なんだ。ここには人よりも、ずっと多くの牛がいる。だから牛肉はもちろん、チーズやアイスクリームなど乳製品も盛ん。もちろん牛乳も例外ではない。

「あなたは牛乳を飲んだことないのと同じ。少し試してみなさい」、何度も妻にこんな感じのことを言われ、勇気を出して恐る恐るトライしてみた。勇敢に恐る恐るって面白い表現だよね。まあ、勇気は臆病者に宿るものだし、あながち間違っていないと思う。

それで飲んでみたんだけど、やっぱり拒絶反応が起きた。でも心のどこかで、「あれ、そんなに悪くないぞ」とも思っていた。10年以上牛乳を飲まないと、頭の中で牛乳を史上最低の発明品みたいに思い込んじゃう。色も、香りも、味も、文字の響きも嫌になる。

ほら、英語ではミルク、スペイン語ではレチェというのに、日本語では牛の乳と書いて牛乳じゃん。おかしいよね。人間が牛の乳を飲むんだよ。もう少しマイルドな名前だったら、僕も飲めたかもしれないのに。

こんな感じで10年以上嫌い続けると、嫌いのハードルがとてつもなく高くなる。で、実際に飲んでみて、そのハードルを下回った。そして僕は「おやっ」と不思議に感じたわけさ。

ある日のこと。妻が牛乳でお米を炊いているんだ。意味が分からなかったね。だから、シットコムのキャラクターみたいに「君は正気を失ったのかい」と言ったら、アロス・コン・レチェを作ると言うんだ。日本語に訳すと牛乳ご飯。

頭の中はごちゃごちゃになったけど、静かに整理を始めたんだ。こんまりメゾットに従って、不要な考えや可能性は捨てる。すると、1つの考えがときめいていた。それがリゾット。「ああ、ここではリゾットのことをアロス・コン・レチェと呼ぶんだ」、そう自分を納得させた。ただ、夕食を作るには早すぎるのが気がかりだったけどね。

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横目でチラチラとキッチンに立つ彼女を見ていると、葉っぱを入れたり、砂糖を入れたりと、リゾットにしては奇抜な味付けをしているんだ。でも、僕にできることは、彼女はリゾットを作っていると思い込むこと。だって、リゾットは僕の好物で良いリアクションもできるから。

「できたわ!冷やして食べるのが一番だけど、少し味見してみる?」

この瞬間をずっと恐れていた。もうリゾットじゃないことは確定した。リゾットは冷やして食べない。僕の返事を聞く前に、すでに彼女はコップに謎の食べ物をよそおっている。これはまごうことなき牛乳ご飯だ。

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10年ぶりに味わう牛乳が、お米と一緒にやってくるとは誰が想像できるだろう。でも、キリンのように可愛らしい彼女の目に見つめられたら、僕はイエスマンとなってしまう。恐る恐る食べてみた。

思ったほど悪くはない。いや、美味しい!ってわけじゃないけど、食べられない程でもない。不思議な顔をしている僕を見て、彼女は笑って「冷えたら、あなたでも食べられるわ」と言った。

僕が彼女を愛している理由の1つに、彼女は嘘をつかないことがある。つまり、冷えたアロス・コン・レチェは僕でも美味しく食べられたんだよね。あの牛乳の嫌な風味があまりなくて、良い香りがするんだ。味は素朴でとても優しい。

「普通はレモンの皮を入れるの。でもダニエラ(妹)も牛乳が苦手で、レモンの皮で風味付けしたアロス・コン・レチェは食べられなかった。それでママはローリエを入れて臭みを消したわけ」

アルゼンチンでは、アロス・コン・レチェは定番のおやつなんだって。夏のシエスタ(昼寝)後は、キンキンに冷えたアロス・コン・レチェを食べて、寒い冬の朝はママの作るアロス・コン・レチェの優しい香りで目を覚まし、温いまま食べるんだと。

今では彼女がアロス・コン・レチェを作り始めたら、僕も子供のようにウキウキしてしまう。それくらい虜になっちゃった。簡単なレシピをのせるから、ぜひ作ってみてね。

PS
アロス・コン・レチェがきっかけで、牛乳も飲めるようになりました。今では毎日の牛乳が欠かせません。

アルゼンチン人妻が教える「アロス・コン・レチェ」レシピ
【材料】
・牛乳:1リットル
・お米:コーヒーカップ1杯分(200グラムほどかな)
・お砂糖:味見しながら好きなだけ
・ローリエ:2~3枚
【作り方】
①大きな鍋にお米と牛乳を入れて、沸騰するまで強火にかける
②沸騰したら弱火にして、ローリエとお砂糖を入れる
③適宜混ぜながら様子見
④お米が好みの硬さになったら完成
【メモ】 
・僕は温かいのより、冷蔵庫に数時間置いて冷やした方が好き
・ローリエの代わりにレモンの皮を入れるのが一般的みたい
・食べる前にシナモンパウダーをかけたり、ハチミツを混ぜたりするのもオッケー

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