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【1分小説】PMSと闘う彩

25歳の彩は、仕事終わりに、長期出張で遠距離中の彼氏と電話するのが日々の楽しみだった。しかし、その日の生理前のイライラが彼女の心を支配していた。彩は普段ならば小さなことにも敏感にならないが、その日は違った。彼氏の何気ない言葉に苛立ちを感じ、気分が悪くなった。

彼氏が「どうしたの?」と優しく尋ねると、彩はさらに感情が高ぶり、思わず「何でもない!」と強く言ってしまった。典型的な何でもなくない彼女のセリフ。戸惑っている彼氏が容易に想像でき、返事を待つ前に「もう寝る」とだけ言い残して電話を切ってしまった。

電話を切った後、彩のスマホには彼氏からのラインが届いていた。「どうしたの?何かあったらいつでも相談してね」と、彼のいつも通りの優しさが込められていた。そのメッセージを見た瞬間、彩は自己嫌悪に陥った。涙が頬を伝い落ち、彼に対する申し訳なさと、自分の感情に振り回される無力感が胸に込み上げてきた。

「また電話したら同じことを繰り返しそうだ。今日はもう電話はやめておこう。」と彩は自分に言い聞かせた。彼氏に謝りたい気持ちは山々だが、今はその余裕がなかった。「ごめんね、いつもありがとう、おやすみ」とだけラインを送ると、彩はベッドで体育座りをして深いため息をついた。

「どうして私はこんなに感情に振り回されるだ!」と彩は心の中で叫んだ。生理前のイライラが自分の本来の姿を歪めてしまうことに対する苛立ちと、そんな私をいつも優しく包み込んでくれる彼に対する感謝の気持ちが交錯する中、彼女は目を閉じた。彼氏との楽しい時間を心から楽しみたいと思いつつも、今はただその感情の嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった。



※月経前症候群(PMS)とは?
月経前、3~10日の間続く精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するものをいいます。
公益社団法人 日本産婦人科学会公式サイトより引用:
https://www.jsog.or.jp/citizen/5716/


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