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#27 映画「たそがれ清兵衛」に学ぶ秀逸の”認知症あるある”。

2002年の映画『たそがれ清兵衛』(真田広之・主演/山田洋次・監督)を、ご覧になった方も多いだろう。私も大好きな映画でDVDを持っているw

この映画、実は、清兵衛の年老いた母「きぬ」の、「認知症あるある」を、とっても巧みに使っているのを、お気づきだろうか?

『あんたはんは、どちらのお身内でがんしたかの?!』

という、あの名セリフだ。

「きぬ」は、毎日供に暮らす清兵衛や孫娘達の事を忘れているが、数年振りに訪ねてきた、朋江(ともえ/宮沢りえ)の事は、ハッキリと覚えている。
これは「認知症あるある」だ。ガチだろうw

一方で、同じく俄に訪ねて来て、ガミガミと清兵衛に再婚を迫る兄(丹波哲郎)に対して、「きぬ」は、スチャ!としっかり襖を開けて、『あんたはんは、どちらのお身内でがんしたかのっ?!』と、言う。

この時の「きぬ」は、認知症ではない。
認知症を装うふりをして、清兵衛を兄の小言から救ったのだ。

実は、これも、「認知症あるある」。認知症の症状は常に発生しているわけではなく、ハッキリしている時間帯や正しく判断し対応できる事もある、という事例を巧みに使っている。

さらに、なんと言っても秀逸なのは、後半、決闘に行く清兵衛を見送った後のきぬと朋江の二人のシーン。

きぬ「あんたはんは、どちらのお身内でがんしたかの?」
朋江「わたしは・・・飯沼の・・・ともえでがんす・・・。」

ホロホロと涙を零しながら、そう答える朋江・・・。

最初観た時には、これは、朋江の清兵衛に対する「せつない涙」位に感じていたが、何度か観るうち、そうではなく、清兵衛の母、きぬにとっても、朋江の存在は、もはや、「誰か?」と問うほど、”身内”になっている。という事を現わしており、「あぁ、お袋様は私の事を、”身内”だと思ってくれているんだ・・・なのに、私はもう・・・。」という、朋江の如何ともしがたい涙だったのだと。

前半の「”飯沼のともえ”はんでしょ。」と、しっかり答えられた「きぬ」と対比させる事によって、朋江の存在が、清兵衛だけでなく、井口家にとっても、もはや、『当たり前の大切な人』になっているという演出だ。

認知症になると、「一番身近な人から忘れてしまう。」という、身内にとっては、最もショッキングな、受入れ難い症例を、山田洋次監督は、さりげなく、「それは、一番、身近で大切な人だからだよ。」と、教えてくれたような気がしている。

『あんたはんは、どこのお身内でがんしたかの?』
そう「きぬ」から問われた事で、朋江は、”決心”したのではないかな・・・。
きっと、そうだと思うんだよねw

映画『たそがれ清兵衛』は、全編を通して、認知症に対する、山田洋次監督の深い理解とあたたかい視点を感じる物語。そんな側面もあると思う。

私は、この映画を観ていたおかげで、いつか、母から「あんたは誰っ?!」と言われる覚悟が出来ていた。

そして映画公開から19年後、遂にその問いに答える瞬間が来た。

もちろん、ドヤ顔で言ってやりましたよ。

『あんたの娘でがんすっ!!!』とw

ま、ひとりでウケてましたけどねw


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