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デリシャススティックの奇襲

その記憶は完全に抜け落ちていた。
自宅に鳴り響くインターホンの音。

届いたダンボールの差出人を見て、淡く記憶が戻りはじめる。


ありがたいことに、懸賞応募に当選していた。

数万人が応募する中で20人しか当たらない物が、当選するとは微塵も思っていなかったので驚きつつも、送り状の品名を見てニヤリと笑みがこぼれる。


送り状の品名には「お菓子詰め合わせ」と書かれていた。

きっとクッキー缶かサブレ、良ければ羊羹の詰め合わせだろうと思い、帰省の際に持って帰って家族で食べるか、note執筆のお供にしようかくらいの感覚でいた。


届いたダンボール箱を開けるまでは。



その日、宅配で届いたダンボール箱は片手で持てる軽さなのに、両腕を回してやっと持てるほど大きさであることに少し違和感を覚えた。

ここで大好きな羊羹セット当選説は消える。


胸の高鳴りを感じつつ、やはり無難な焼き菓子だろうと確信を深め、しかし期待してウキウキとダンボールを開梱する。

そして目の前に飛び込んできたに凍りつく。


え!!!


ダンボールに入っていたのは、バスケットボールがちょうどスッポリ入るほどの大きな立方体の箱だった。


ちょっとした想定外に、心臓の鼓動はさらなる高鳴りを見せる。

デカイ…。


箱の一辺はうまい棒2本分ほどの立方体。非常に丈夫な紙でできており、箱の上部には福引きや掴み取りができるような手を入れられる程の円形の穴が開けられる仕様になっている。

その中には大量の駄菓子が詰まっている。

1辺はうまい棒約2本分の長さ。
うまえもんの顔部分がつかみ取りの手を入れる穴になる。


そして内包物一覧を見て、胸の鼓動は冷や汗に変わりはじめる。

内容量:20種類(80個入)
内容:うまい棒24本、スナック20個、ラムネ12個、焼菓子6個、駄菓子18個

え?

80個、、、だと?!

そのうち、
デリシャススティックは24本。

いくらうまくても
うまい棒は毎日食べるものじゃない、、、だろ。


毎日うまい棒が食べられるなんて、まるで幼稚園児の頃に描いた夢のような世界なのに、いざそれが現実になると理性という名の大人の赤信号が自分が前に進もうとするのを全力で阻む。

嗚呼、自分はいつからこんなつまらない大人になってしまったのだろう。


鋭さを失った自分の思考回路に軽く溜息をついて、箱の裏を見る。

へ?

賞味期限…2022年3月10日?

約3ヶ月でこの80個をすべてやっつけろと?

ここで先程の赤信号はピカッと光り青信号に変わる。


そう、今日から自分と80個の駄菓子の戦いが始まる。
約3ヶ間の戦いの火蓋は切って落とされた。


ちょっとくらい狡賢くいこうと思い、近々会う予定の人たちに声をかける。大勢に分けてしまえば簡単だ。誰もがそう思うだろう。

だがしかしこの作戦は失敗に終わる。


添加物の入っている食べ物やジャンクなものは一切口にしない

一蹴される。

くっ、相手が悪かった。

ぐはぁっ!


美しい薔薇には棘があるように、うまい駄菓子には添加物が満載なのは周知の事実。その危険を顧みず近づくからこそたどり着ける世界があるのだ。


ああ、そうか。わかったよ。
戦おうじゃないか。たった1人でも。

単騎で攻めるならば、盆暮れ正月を除いて、ほぼ毎日1個づつのペースで消費していけば敵を殲滅することが可能だ。


でも武闘派だからといって、素手でもぐもぐと戦うだけが手じゃないはずだ。

そう思い、お料理ギルドのクックパッドで調べると、デリシャススティックを使ったアレンジレシピが多数見つかる。


おぉ、渡りに船ではないか!

明日は早速うまい棒めんたい味2本を一気に使っためんたいパスタを作ってみよう。


デリシャススティック殲滅作戦と題した、自分と駄菓子との戦いは今から始まる。


そう覚悟を決め、この記事を書きながら、戦いの狼煙を上げるべくうまい棒シュガーラスク味を頬張る。ああ、久々に食べるとやっぱうまいな。うまい棒。

▽次の話はこちら


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峰村 佳(ねむ)
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