「彼と彼とが、眠るまで。」第二話
はしがき
あなたがこれを読むころには、という出だしは、いかにもベタなものだと我ながら思うのだが、そう書くよりほか、これ以上わかりやすい表現はないだろうということを、どうかご理解いただきたい。事実、あなたがこの記録を手にするころには、わたしはこの世にいないのだから。それはつまり、わたしがこの記録を手放したということ。そして手放したということは、わたしは生涯において、自らに定めた使命を、天命とともにまっとうしたか、あるいは、不慮の事故で死んだか――ともあれ、そういった理由である。
この記録は、失われるものである。いわば、白紙の記録だ。それでも残すことに、なんの価値があるかと問われれば――恥ずかしながら、わたしはまだ、これに対する明確な答えをもてずにいる。たとえ、誰かに、たとえば、今これを読んでいるあなたにこれらを読み解いてもらったとしても、しょせん、言葉は記号でしかなく、情報はつねにこぼれ、欠損した状態であることはたしかだろう。なにも、正しい解釈など世には存在しえないのではないか、とわたしはつい、うがった考え方をしてしまうものだが……失礼、けっきょく、なにが言いたいのかというと、好きに読んでいただいてかまわないということだ。これを読んでいるあなたも、おそらくわたしと近い時代に生まれ、そのうちに天命を終えるだろう(気に障ったらすまない)から。問うほどの価値があるかもわからないこの記録が、いま、あなたの手にあることを、わたしはとても、喜ばしく思う。
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