見出し画像

『よりよく生きるということ』エーリッヒ・フロム

はじめに:自己実現のその先へ

今回はフロムの『よりよく生きるということ』を紹介したい。これはフロムの晩年に書かれた作品であり、非常に読みやすい作品になっている。フロム哲学に慣れ親しんでいない人でも気軽に読めるため、非常におすすめである。

本書のメインテーマは、Well-Beingである。どうすれば人間は豊に生きることができるかを議論する。

本記事では、人間がWell-Beingを実現する際の障害、及び、行うべきこと、そしてさらにWell-Beingを追求するための手法をそれぞれの章にて解説していく。

異郷から来た女史が何者か知りたい人はこれを読んでくれ。

そして、女史のnoteをどう読むか、こちらを参考にしてくれ。

障害:まやかし、取るに足らない会話、努力・苦痛の忌避

人間がWell-beingとなるために立ちはだかる障壁について、フロムは3点あると主張する。まやかし、取るに足らない会話、努力・苦痛の忌避である。

まやかしとは、たとえ真実でなくともわかりやすくて受け入れやすいモノが好まれて波及することである。謂わば、詐欺の類である。例えば、フロムの哲学書は難しいためあまり買われないが、フロムの哲学書の解説書は分かりやすいために購入される。フロムは、このような解説書は所詮二番煎じであり、真実の哲学書ではないとする。

また、フロムは、実行者が正直に信じているような詐欺が最も危険であるとも主張する。例えば宗教などのように、信者が信じきっているため、例えその教えが全くの科学的根拠とかけ離れていたとしても、その他の非信者に教えを普及させようとする。

フロムは、これらまやかしに騙されないために、無邪気に信じたりせずに、徹底的に現実主義に基づいて思考すべきであるとする。

2点目は取るに足らない会話である。人間は、自分のナルシズムを満たすために、自分のことを話したがる。かといって、相手の話も聞かねば顰蹙を買ってしまう。そのために、互いのくだらない話で場が蔓延してしまう。悪口や噂話、自分の恋人の話、家庭の話などがそうである。

人間とは、どのような小さな会話でも少なからず影響を受ける。とるに足りない会話を繰り返すことで、自分に悪影響が出てくる。このような取るに足りない話を極力避け、そのような話ばかりする仲間からは身を遠ざけるべきであるとフロムは言う。

3点目は、努力と苦痛の忌避である。人間は、努力と苦痛を経験せずとも物事を成し遂げられると勘違いしている。先ほど例でも出したように、哲学書の原本を読まずに、解説書を読めばその哲学を理解できると勘違いし、努力と苦痛を徹底的に避ける。学校でも、教師が分かりやすく数学や化学を説明してくれるため、自分で悩んで実験する必要などない。

フロムは、これは誤っているとする。人間は、努力と苦痛を経験することによって成長していく運命にある。努力と苦痛なくして得たものだと、前述のまやかしにすぎないのである。

行うべきこと:志、覚醒、気づき、集中、瞑想

次にフロムは、Well-Beingの実現のために行うべきことを述べている。

まずはである。人間は一つの目標に集中し、全エネルギーを注ぐべきであるとする。この目標が、社会利益と一致していることが最も望ましい。

次に覚醒である。これは、脳が常に機敏に反応し、生き生きとしていることである。こうすることで、人間は、気づきに至る。隠された物事や社会の原理に気づけるようになる。マルクスとフロイトが資本主義社会の終焉に気づいたことと同じである。この気づきに至るには、見聞きするものが皆虚偽か歪曲であるという仮定から入るべきであるとフロムは言う。

次に集中である。これは、一つのことに集中する力である。Noteを執筆しているときはNoteのみ。音楽を聴いたり、テレビを見たりしない。このような集中力をつけるには、瞑想をするべきであるとフロムは言う。瞑想をすることで、現実特に心と体のリアリティへの気づきを最大限にすることができるという。

さらにその先へ:精神分析・自己分析

前章の実行すべき項目に重ねて、精神分析を行うと、自己への気づきが増し、内的開放をもたらすという。精神分析とは、現代のいわゆるセラピーのことであり、専門家の力を借りて行うものである。

また、精神分析の実践がある程度進んだ段階で、精神分析の専門家と共に、自己自身で自分を分析する、いわば自己分析に手を出してみることも好ましいとフロムは言う。自分の感情を張り巡らせて根本を探ることで、自己超越の域に達するのだという。

おわりに:Well-Beingであること

フロムは、自らのナルシズムを突破し、自分の実存を取り巻く資本主義的なまやかし構造を破壊することによって、Well-beingになりうると主張した。

我々資本主義社会に生きる人間は、周囲が様々なことであふれかえっている。仕事、家族、商品、将来、学校、お金、不安、理不尽etc....挙げていけば暇がない。フロムは、これらを、前章で述べた事柄の実践によって超越していくことによってのみ、Well-beingに到達しうるとした。

我々は果たしていつになったらフロムの言うWell-beingに到達するのだろうか。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?